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『Webアクセシビリティ』発売によせて

2007年11月2日

アクセシビリティ・エンジニア
中村 精親

すでにアクセシビリティPodcast第3回でも言及され、弊社Webサイト上でも出版記念セミナーに関する告知(すでに定員のため、申し込みを終了しています)をおこないましたが、10月26日に毎日コミュニケーションズより『Webアクセシビリティ標準準拠でアクセシブルなサイトを構築/管理するための考え方と実践』が刊行されました(以下、『Webアクセシビリティ』と通称で表記します)。
これは、昨年(2006年)7月に米国で出版された『Web Accessibility: Web Standards and Regulatory Compliance』(以下、『Web Accessibility〜』と表記します)の日本語翻訳版です。
原著『Web Accessibility〜』は、世界のWebアクセシビリティの専門家11人が、テーマごとにそれぞれの専門分野について執筆していることから、非常に詳細かつ丁寧な内容となっております。また、その翻訳についてもJISの委員を務める監修の方々をはじめ、日本のWebアクセシビリティをリードしていくべき専門家によっておこなわれました。その中で大変僭越ながら、筆者も翻訳に参加させていただきましたので、この場をお借りして、本書が出版された経緯や素晴らしさについて書いてみたいと思います。

『Webアクセシビリティ』のできるまで

本書の翻訳は、当社も会員として参加している日本学術振興会産学協力研究委員会インターネット技術第163委員会(ITRC)の分科会のひとつである高齢者・障害者のインターネット利用分科会(UAI)での取り組みとしておこなわれました。同分科会では毎月研究会を開催しているのですが、その中で、原著が大変優れた本であることから、ぜひ日本語でも出版し、ひとりでも多くの人に読んでもらいたいという話が持ち上がり、版元の毎日コミュニケーションズ様をはじめ、さまざまな方の協力のもとに、翻訳プロジェクトが立ち上がったという経緯があります。

さて、本書の話をする前に、英語版である原著についてもう少し触れておきたいと思います。実はこの本には前身というべき『Constructing Accessible Web Sites』という2002年に出版された本があります。この本も同様に複数人の専門家が執筆していて(中心メンバーは『Web Accessibility〜』でも引き続き執筆しています)、当時から非常に高い評価を受けています。こうした本の最新版といえる本が出版されるのですから、どの程度アップデートされるのかということが早くから注目されたのですが、量的には約400ページから600ページ超に、また内容も、新しい技術やガイドラインへの言及はもちろんのこと、リハビリテーション法508条など米国中心の内容から、世界各国の法律にも及ぶなど、より広い範囲をカバーしながら、かつ内容のある、さらに素晴らしいものに仕上がっていました。

これだけの本であれば、日本語化することで間違いなく日本のWebアクセシビリティ向上に貢献できる、ということで前述のとおり日本語化しよう、という流れになっていきました。

本書の内容

目次など、基本的な情報につきましては毎日コミュニケーションズ様の本書紹介ページを参照していただくこととして、ここでは3部構成となっている各部のポイントについて注目してみたいと思います。

第1部 Webアクセシビリティの影響を理解する

まず、本書冒頭の「はじめに」で基本を押さえたところで、Webアクセシビリティとは何か、そしてこの世の中にどのような影響を与えるものなのか、という部分を解説しているのが第1部です。特に約50ページにもわたる第1章は本当に充実した内容で、Webアクセシビリティにかかわっている人はもちろんのこと、そうでない人にも読んでいただきたい内容です。
特徴的な例を挙げると、「全盲の視覚障害者だけがアクセシビリティの対象であるという思い込み」という項などは、アクセシビリティに関心を持ちはじめたばかりの制作者が陥りやすい考え方を解説するもので、参考となる人も多いことでしょう。
なお、この第1章については原著の方針を踏襲して全文が本書のサポートページにてHTMLとPDFの形式で公開されています。購入を考えている方には十分すぎるほどの目安になるかと思われますし、購入予定のない方にも一読の価値があります。

第2部 アクセシブルなWebサイトの実現

第2部では、制作者にはもっとも気になる“具体的な技術”に関する内容が取り上げられています。カスケーディング・スタイルシート(CSS)、JavaScriptなど利用率の高い技術だけではなく、PDFやFlashについてはAdobe社の方が執筆しています。また、WCAG 2.0の紹介、サイト制作のケーススタディなど、概要から詳細まで、多彩な内容を扱っています。
第4章から第15章までは、本書の中心となる長い部分ですが、まずは気になる章だけを読んでみるという読み方もできます。また通して読むことでアクセシビリティに関連する技術に対してさらに広く深い知識が得られることでしょう。特定の技術に対してアクセシビリティに関する疑問を持ったときに、手元に置いておくと役立つ一冊です。

第3部 アクセシビリティに関する法律と政策

16章、17章で構成される第3部は、Webサイト管理者に読んでいただきたい内容です。16章では米国の、17章では世界の法律と政策についてまとめられていますが、この部分は圧倒的情報量をもつ内容になっています。Webアクセシビリティに関連する法律、制作について、しかも日本語でここまでまとめられている資料は他に例をみないものです。さらに、“日本語版”である本書では、原著で17章の一部として扱われていた日本のパートが、書き下ろしの付録Eとして、独立して展開されています。

Webサイトにかかわるすべての人に

上でご紹介した内容のほかにも、日本国内のスクリーンリーダーについて詳しく言及した付録など、656ページというボリュームをもつものであるだけに、まだまだ伝えきれない魅力がいっぱいあるのですが、あとは実際に読む楽しみを奪わずにおきたいと思います。
Webサイトに何らかの形でかかわる方ならば、読んで損のない一冊です。ぜひ機会を見つけてお読みいただきたいと思っています。