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古典から学ぶビジネス戦略(マインドシェアの重要性)

2008年2月29日

マーケティングユニット コンサルタント
鈴木 雅彦

戦略書としての孫子の兵法

中国古代の「兵法書」として、まず思い当たるのが『孫子』である。今から2000年以上も前に書かれた兵法論は、後に曹操により整理され、本論の13篇が現代でも色褪せることなくさまざまな分野で応用されている。また、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏や、ソフトバンクの孫正義氏など、企業家として成功を収めている多くの人たちに、企業経営のバイブルとして愛読されていることが知られている。

なぜ、このように一兵法書の思想が、現代を生きるわれわれに対して影響を与え、今なお人々を魅了してやまないのか。それは“孫子の兵法”が生み出されることとなった戦国時代と、今日のように競合が乱立するビジネス社会という時代背景を比較したとき、共通する部分が多々あるためだと考えられる。

古代においては国の存亡を左右した兵法書を、現代においては、企業の存続を支え、勝ち続けるための戦略書として読み替えたとき、現代のビジネスに通用する一つの真理が浮き彫りになってくる。

今回は、この孫子の兵法に焦点を当て、企業が競合他社との競争状態から勝ち続けるための戦略について考察しようと思う。

孫子が書かれた時代と現代との共通点

はじめに、孫子の兵法という戦略書が生み出された時代背景をもう少し詳しく見てみようと思う。さきほど、孫子が書かれた戦国時代と、現代のビジネス社会では、共通する部分が多くあると述べた。その共通点を探る上で、『孫子・戦略・クラウゼヴィッツ その活用の方程式』の著者である守屋淳氏の著書から次の二つの視点を参考にさせていただく。

はじめに、守屋氏の考える“ライバルの数”という視点である。歴史が示すように孫子が書かれた時代は、大小さまざまな国が自国の存亡をかけた戦乱状態にあった。現代でも、ある同一の事業領域において自社と競合他社を取り巻く市場環境を考えたとき、孫子の時代と全く同じ構図が浮かびあがってくる。仮に、都内において、弊社のようなWeb制作という事業領域の競合他社を探してみれば、その数の多さは容易に想像がつくだろう。つまり、自社に対して同業種の競合他社が多い混戦状態、言い換えれば、ライバルが多数存在し、その中で勝ち続けなければならないという環境は、まさに孫子が生きた時代背景に通じるものがあるといえる。

二つ目は“失敗した後にやりなおせるかどうか”という視点である。同著の中で守屋氏は、孫子「火攻篇」から「亡国は以てまた存すべからず、死者は以てまた生くべからず」の言葉を引いて次のように説明している。

たしかに、人は死んでしまえば生き返らないし、国も滅亡してしまえば、そう簡単に復活とはいかない。失敗したら、それをよい反省材料として次に生かしましょうなどと、悠長なことはいっていられない

上の、“国”という部分を“企業”に置き換えてみると、ある事業展開に失敗した企業が、その経験を生かし同じ領域で再生することは非常に困難である、と読み取れるだろう。

現代のような情報化社会の場合、特にITという業態は、自社と競合他社を比較して絶対的な競争優位性を維持できる独自のノウハウを持てる企業は少ない。市場シェアでは拮抗状態にあった企業が、一度、市場から撤退してしまったならば、全く新しいノウハウの開発でもしないかぎり、起死回生は不可能である。

このように、孫子の生きた時代と現代のビジネス社会には共通する部分が多いと感じられるところが、その戦略を応用できると考えられるゆえんでもあるだろう。

最上の勝利、それは“戦わずして勝つ”ということ

では、“ライバル企業が多数存在”し、“失敗は許されない”という状況下、企業が勝ち続けるためにはどのような戦略が必要なのか。そのヒントは、孫子の残した次の言葉に隠されている。

百戦百勝は善の善なるものに非ず。
戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり。

謀攻篇

孫子は、百戦百勝が(目指すことも含めて)、必ずしも最善ではないという。そして、“戦わずして勝つ”ことこそ、最もよい勝利の仕方であると結論付けている。

百戦百勝が最善ではない理由として、守屋氏の言葉を引用すれば、

戦いが長引いて、お互いに経済や国力が疲弊し、報復の連鎖に陥って絶え間ない戦争状態になれば、自分以外の第三者に漁夫の利をさらわれてしまう

という事態を招いてしまうからにほかならない。百戦百勝して百一戦目に勝利できなければ、それは敗北となんら変わらないのである。

現代でも、たくさんの企業が事業領域のシェア拡大を模索している。しかし、自社の製品を一つでも多く売るために、莫大な広告費を投入しシェアの獲得を目指すという考え方は、百戦百勝を目指して盲進している状態だといえよう。シェアの争奪戦において、仮に勝利したとしても、それが“勝ち続けること”につながりはしない。

では、孫子の言う“戦わずして勝つ”ための方法とは何か?

私は、顧客の心を攻める“マインドシェア”の獲得こそ、戦わずして勝つ最短の方法だと考えている。

戦わずして勝つためには、マインドシェアの獲得が必要

このマインドシェアという概念について、近代マーケティングの父と称されるフィリップ・コトラーは著書『コトラーのマーケティングコンセプト』において、次のように述べている。

自社の事業が顧客の役に立っているかどうか、どうすればわかるのだろう。その成果は今年度の利益のなかではなく、顧客のマインドシェアやハートシェアに反映される。マインドシェアやハートシェアを着実に伸ばしている企業は、必然的に市場シェアや収益性も向上させることになる

これは、一人の顧客との関係性を最大限に深め、顧客のマインドを自社(もしくは自社の製品)がシェアできるように発想転換するということが、必然的に事業領域のシェア拡大につながるということにほかならない。

例えば、見込み顧客のマインドシェアを獲得している状態を考えてみよう。あなたの企業が販売しているある製品について、数多くの類似品が存在する中、顧客はまずあなたの企業を思い浮かべて、購入という最終アクションを起こすことになる。また、マインドシェアを獲得しさえすれば、仮に競合他社とのマッチレースに陥ったとしても、顧客の心をつかんでいる状態から“絶対的な優位性”を持って行動できることはいうまでもない。

顧客が主導権を握るとされる顧客経済の現代において、マインドシェアこそ、まさに孫子の言う“戦わずして勝つ”という戦略の一つであると考えられる。

終わりに

稚拙ながら、今回は孫子の兵法に焦点を当て、企業が競合他社との競争状態から勝ち続けるための戦略について考察した。

2000年以上も前の『孫子』という兵法書が、時代を越えて現代まで風化せずに残っているのは、そこに真理があるからにほかならない。現代に生きるわれわれは、何千、何万という人の手に触れ、時代に適合しながらも根本を変えずに残ってきたこの一冊の書物を、生きた実学として活用できる機会に恵まれている。

歴史の重みを感じつつ、さまざまな局面で状況を判断し、戦略として活用していきたい。

参考・引用図書

  • 『孫子・戦略・クラウゼヴィッツ その活用の方程式』 守屋淳 プレジデント社