CSUN 2016参加レポート2

アクセシビリティ・エンジニア 上江洲

今年も3月21日から25日まで、毎年恒例となっている世界最大級のアクセシビリティに関する国際的なカンファレンス、31st Annual International Technology and Persons with Disabilities Conference(通称CSUN)が開催されました。 会場は今年もサンディエゴのManchester Grand Hyatt Hotelです。

本エントリーでは筆者が24日、25日に参加したセッションの中からいくつかピックアップしてお届けします。

BBC-A11y - Automated Accessibility Tests

これは、BBC(英国放送協会)のアクセシビリティ自動化テストや社内教育の取り組みについてのセッションでした。

アクセシビリティの自動化テストでは、SeleniumやPhantomJSを使用してWebテストを行っているそうです。 Webテストを行う際のオープンソースのフレームワークの例として以下のソフトが挙げられていました。

  • Google Test
  • Cucumber
  • Hive CI

Webテストでは以下のような項目についてテストを行います。

  • コンテンツのlabel要素
  • フォームのinput要素
  • 装飾的に使用されているコンテンツ
  • 背景画像

BBCでは開発者向けのアクセシビリティの教育としてWorkshopやHack Dayを設けたり、日頃からディスカッションをする場を設けたり、GitHub Issueを使用したりしているとのことです。企業としても、アクセシビリティを普及するためにどんどん開発者を巻き込んで教育することを推奨しているそうです。

Accessibility at Amazon

こちらのセッションは、スクリーンリーダーのJAWSを販売しているFreedom Scientificの企業ブースで発表が行われていました。 2014年にリリースされた新しいamazon.comのサイトでは、以下のアクセシビリティ対応を行ったそうです。

  • ランドマーク対応
  • 見出しの設定
  • ボタンのテキスト化
  • コントラスト比を高めたデザイン

JAWSを使ったデモでは、amazon.comのページから商品ページへ移動し、購入ボタンの押下、決済情報の入力までの一連の流れを説明していました。 ランドマークに対応したサイトのため、見出しジャンプやボタンジャンプを組み合わせることで、サクサクと決済画面まで進めていました。 デモ中には「決済はギフト券を使うときにも問題なく操作できるか」、「マーケットプレイスでは対応されているのか」などユーザーからの質問が多く挙げられていました。

CSUNには企業や研究者だけでなく、一般の方々も参加しているため、実際に使用しているユーザーからの直接の声を聞くことができるのがとても良い場であると思いました。余談にはなりますが、ミュージシャンのStevie Wonderさんも一般参加されていたそうです。

amazonでもアクセシビリティに関する社内教育を進めているようで、デザイン、製品/プログラムマネジメント、開発のベストプラクティスの共有、PCサイトとモバイルサイトの品質向上などの教育を拡大することを将来の展望として話されていました。 また、アクセシビリティチームを設け、ページやコンテンツの監視を行ったり、開発や品質保証の支援を提供していくそうです。

米国では障害者への差別をなくす法律としてADAが制定されていることもあり、amazonを含めた一般企業もアクセシビリティに対してとても力を入れていると感じました。Web制作を主な業務としていない一般企業でもWebアクセシビリティ専門のチームや専門家を抱えていたり、予算を多く割り当てていることが当たり前と化してきているように感じました。アクセシビリティ対応に関しては日本よりも数段進んでいてとても驚きました。

Apple Watch Accessibility

こちらのセッションはApple Watchを所持していない初心者向けの内容で、アクセシビリティに特化した機能の紹介が行われていました。 Apple Watchでは以下のようなアクセシビリティに特化した設定を行うことができます。

  • Zoom
  • Reduce Motion(視差効果を減らす機能)
  • Gray Scale
  • Bold Text(文字の太字表示)
  • Dynamic Type(拡大文字)

デモでは、VoiceOverを使用して天気予報の閲覧を行っていました。 MacやiPhoneとの大きな操作性の違いはApple Watchにしかないデジタルクラウンがある点だと思います。 VoiceOverを起動するときは、デジタルクラウンを3回クリックします。 今より前や後の時間の天気を閲覧するときはデジタルクラウンを前後に回転させて時間を変更します。 画面のタップやフリックなどのジェスチャーは基本的には、PCやiPhoneとの大きな違いはないように思えました。 また、Hey Siri機能を搭載しているので、Apple Watchに話しかけて操作することもできます。 Apple WatchにはペアリングをしているiPhoneを呼び出す機能が搭載されているため、部屋や鞄の中でiPhoneが迷子になったときに音を利用してiPhoneを探すことができます。

Apple Watchの機能以外には、各企業のappのアクセシビリティ対策について話されていました。各企業とも重要な機能のボタンを大きく配置しているデザインです。見た目上ではユーザーの使いやすさに配慮しているデザインですが、VoiceOverの読み上げへの対応が不十分だということがわかりました。

Instagram
写真の下に大きくボタンが二つ配置されています。一つはInstagramの中でも重要な機能である「like」ボタン、もう一つはその他の機能を集約した「...」ボタンです。どちらのボタンにもaccessibilityLabelが指定されていないため、VoiceOverはボタンの区別ができずどちらも「Button」と読み上げます。
Twitter
ツイートに添付された画像が、accessibilityLabel="Attach Photo"(写真を添付)になっているため、ユーザーには何を指している情報なのか伝わりません。VoiceOverは画像情報を読み上げませんでしたが、ツイートの下にある「Timeline」と「Top Trends」のボタンの読み上げを行っていました。しかし、ボタンに記述された代替テキストの内容は不十分なものでした。「Timeline」のボタンの中には「Recent Tweets」というテキストもありましたが、代替テキストには記述されていません。「Top Trends」のボタンの中にはハッシュタグも記されていますが、代替テキストには記述されていません。
amazon.com
企業ロゴの下に大きく、虫眼鏡アイコンの「Search」ボタンが配置されていましたが、accessibilityLabelが指定されていないためVoiceOverは「Button」としか読み上げません。また、レビューの星マークにフォーカスが移動しないため、VoiceOverで読み上げを行わないという問題もありました。

(2016年4月19日追記 「Apple Watch Accessibility」セッションの紹介において、記事初出時の内容に誤りがありました。訂正してお詫び申し上げます。)