Webサイトのアクセシビリティを高めるための方法や国内外の関連情報など、さまざまな角度からWebアクセシビリティに関する話題をご提供します。

当Blogの更新情報は、Twitter経由でも配信しています。興味のある方はぜひ、@mlca11yをフォローしてください。

高校の「情報」教科に見るWebアクセシビリティ

アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)

先月末に、Twitterで少し話題になった文科省の高等学校情報科「情報Ⅱ」教員研修用教材について、読者の中にはご覧になった方もいるかもしれません。

この「情報Ⅱ」教材の中に、Webアクセシビリティに関する記述があるのですが、その中身に触れる前に、まずは高校の「情報」教科を取り巻く現状について触れたいと思います。

現行の科目については、「社会と情報」と「情報の科学」の2つがあり、高校の教育課程においては、原則どちらか1つが必修科目となっています。これが、2022年度から実施される新学習指導要領では科目が改編され、「情報Ⅰ」が必修科目、「情報Ⅱ」が選択科目となります。

つまるところ、今回冒頭に取り上げた教材については、2022年度以降に行われる選択科目の教材という位置付けになります。

さて、話を元に戻しますと、Webアクセシビリティについては主に第2章 コミュニケーションとコンテンツに記述があります。該当ページの本文を引用してみましょう。

アクセシビリティとは,JISX8341-1(高齢者・障害者等配慮設計指針) において「様々な能力をもつ最も幅広い層の人々に対する製品,サービス,環境又は施設 (のインタラクティブシステム) のユーザビリティ」と定義されている。つまり,障害者や高齢者を含む社会のあらゆる人々にとって使いやすい製品やサービスを作っていくことがアクセシビリティを高めることになる。

例えばWebページにおいては,音声読み上げ機能の提供と画像への代替テキストの適用 (HTMLのimgタグにおけるalt属性の設定) ,文字サイズの変更機能の提供,サイト内の位置を明示する「パンくずリスト」などがある(図表13)。その他にも,色覚障害に配慮した配色の設定などがある。

実際にコンテンツを制作する際には,Webページの代替テキストや配色のコントラスト比など,アクセシビリティをチェックするツールがあるので,それらを活用して改善することができる。

大まかには誤りはないのですが、音声読み上げ機能や文字サイズ変更機能といった、Webアクセシビリティ対応とは言いがたいものが紹介されているのは正直残念なところです(音声読み上げ機能や文字サイズ変更機能については、Webアクセシビリティ対応で「音声読み上げ・文字拡大・色変更」は的外れ。本当に必要なのはSEO? | Web担当者Forumなどを参照ください)。この教材は教科書というわけではないですが、教員がこれをもとに授業を行う、あるいは教科書会社が参考にするならば、一部についてあまり正確とは言えないWebアクセシビリティの知識が高校生に教えられることにつながると考えられます。

ところで、現行の「情報」教科についてはどうなっているのでしょうか。ここでは詳しく触れませんが、新学習指導要領と現行のものとについて、特に解説を比較したところ、アクセシビリティの扱いについては大きな違いは見られませんでした。つまり、「情報Ⅱ」の教材と同程度の内容が、現行の教科書で教えられているということになります。

そこで、現行の「情報」の教科書の閲覧を考えたところ、都道府県が設置する教科書センター一覧に記載された場所で可能なことがわかりました。今回は、職場から最も近い渋谷区立図書館に足を運び、実際に教科書を調べてみました。

なお、渋谷区立図書館では教科書は展示という扱いで、貸出も複写も不可という旨の掲示があったため、記載内容については館内で簡単にメモを取るにとどめました。そのため、以下に記す内容が不正確かもしれないことをお断りしておきます。

渋谷区立図書館で閲覧でき、「社会と情報」と「情報の科学」の両方が揃っていた教科書会社の教科書は、50音順に実教出版、数研出版、第一学習社、東京書籍、日本文教出版の5社でした。

2つの科目間の傾向としては、概ね「社会と情報」のほうがアクセシビリティに関する記載が厚めでした(教科書会社によっては、「情報の科学」における記載が巻末の用語集の用語のみということもありました)。

ただし、数研出版の教科書はどちらも同一内容で、日本文教出版については「情報の科学」のほうが内容が充実しており、「社会と情報」ではほとんど記載がありませんでした。以下に、内容が充実していた科目の記述内容に記します。

実教出版
Webアクセシビリティの具体例として、代替テキストや色の組み合わせについての言及がありました。ただし、音声読み上げにおいては表を左上から右下に読むため、表を横方向に置くのがよいというような記述があまり理解できませんでした。
数研出版
Webアクセシビリティに関して、図の例示に代替テキスト、文字サイズ変更(おそらく画像文字のことが言いたかったのだと思います)、コントラスト比、音声付き動画の字幕に関する記述がありました。またJIS X 8341-3にも言及がありました。今回比較した中では、最も堅実な内容だったと記憶しています。
第一学習社
ユーザビリティとアクセシビリティの総説的な対比にとどまり、具体的なWebアクセシビリティの例示はありませんでした。
東京書籍
ユニバーサルデザインの文脈でアクセシビリティという単語が取り上げられるにとどまり、具体的なWebアクセシビリティの例示はありませんでした。
日本文教出版
ユニバーサルデザインの方策としてのアクセシビリティが取り上げられていました。JIS X8341-3:2004に言及するというマニアックな情報が脚注のような格好で取り上げられていたのが印象的です。altを取り上げていたり、色の使用に関する説明があったり、コントラスト比に言及したりと内容が濃かったのですが、文字サイズ変更ボタンを彷彿とさせる図があったのが残念でした。

このように、特にWebアクセシビリティに絞って内容を見てみますと、教科書会社間での取り上げ方にかなりの差異があることが見て取れます。さらに科目によって取り上げ方が異なること(情報の科学、やりませんか? 中堅校でもできる「情報の科学」によれば、発行部数では「社会と情報」が約8割、「情報の科学」が約2割の比率のようです)から、高校生が一律にWebアクセシビリティに触れているわけではない、というのが現状のようです。

現行の「情報」の教科書についてまとめますと、

  • ほとんどの教科書会社の教科書でアクセシビリティという単語は取り上げられている
  • ただし、Webアクセシビリティという観点では教科書会社と教科書の科目によって内容に相当の差異がある
  • 高度な事例を取り上げている教科書もあるが、必ずしも正確とは言えない記述も見受けられる

といったところになります。専門的な視点で見てしまうためにどうしても辛口にならざるを得ない面は否定できませんが、取り上げてもらうにはできるだけ正確な例を、と思ってしまうのは欲張りすぎでしょうか。

今回はWebアクセシビリティに絞って調べたため、記憶が怪しいのですが、教科書によってはユニバーサルデザインやバリアフリーについても言及しているものがあったと記憶しています。新・現行学習指導要領の解説ではアクセシビリティについて触れられていますので、高校教育の場を通して大なり小なりアクセシビリティに触れているのは間違いないと思われます。

とはいえ、高校教育における教科としての「情報」でアクセシビリティだけを学べばよい、というわけでもないのも事実です(そして、高校では「情報」の教科を学ぶだけではないです)。情報技術とその関連分野に関するさまざまな事項を幅広く取り扱ってもらった上で、情報化社会の一端を知っていただければ御の字なのかもしれません。

参考資料

W3C EOWGの活動と、WCAG解説書・達成方法集の展望について

アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)

W3CのTwitterアカウントのツイートで目にしたのですが、6月25日付けでAccessibility Education and Outreach Working Group (EOWG) Charterが承認されたというアナウンスがありました(当該メーリングリストの投稿)。

Education and Outreach Working Group (EOWG)は、W3C WAIに属するワーキンググループであり、W3Cアクセシビリティ標準への適合の理解、実装、およびテストをサポートするリソースを開発することを主な目的として活動しています。

ワーキンググループであるEOWGは、W3CのルールではW3C勧告を作成できるのですが、それにもかかわらず勧告を作成しないという少し変わった側面を持ちます。

このEOWGがどのようなリソースの開発に携わっているのかについて、以下にいくつか挙げてみます。W3CのWebアクセシビリティ関連のリソースにある程度詳しい方であれば、「このリソースもEOWGが関係しているのか」と思われるかもしれません。

  • Web Accessibility Laws & Policies。各国のWebアクセシビリティに関する法律や施策をとりまとめているものです。
  • W3Cのアクセシビリティと標準技術。Webアクセシビリティに関する、字幕付きの1分間の動画によるごく簡単な説明です。公式ページで日本語の翻訳が提供されている比較的珍しいリソースです。
  • How to Meet WCAG (Quick Reference)。WAICが翻訳しているHow to Meet WCAG 2 (クイックリファレンス)の原文です。達成基準を絞り込んだ上で関連する達成方法を表示する、などといった使い方ができます。
  • Web Accessibility Tutorials。ページ構造、メニュー、画像、テーブル、フォーム、カルーセルについての、具体例を交えた解説です。個人的には、どのように代替テキストを書けばよいのかのAn alt Decision Treeや、カルーセルのWorking Exampleのページが印象に残っています。
  • Before and After Demonstration。その名のとおり、デモページに関してビフォー・アフターを示すもので、ソースコードを見ながらどこが悪いのか、どのように改善しているのかを比べることができます。

これらはEOWGが関係するリソースの一部であり、他にもCharterに記載があります。アクセシビリティの説明はどうしても難解になりがちですが、わかりやすいリソースを提供しているのがEOWGと言えます。

さて、このEOWGについてですが、今回承認されたCharterにはWCAG Support Materialsのredesign(再設計)というものを活動目標の1つに挙げています。

WCAG Support Materialsには、前述のHow to Meet WCAGだけでなく、Understanding WCAG 2.1WCAG 2.1 解説書の原文)やTechniques for WCAG 2.1(WCAG 2.1 達成方法集[翻訳中]の原文)が含まれます。これらのリソースについて、ユーザーインターフェイスとビジュアルデザインを更新することがCharterには記載されています。

WCAG Support Materialには、GitHubのリポジトリのWikiへの参照があります。Requirements analysisには再設計の範囲や目的について記載されており、またApproach (ways we could improve)には取り組み方について記載されています。

上記のWiki文書では、ビジュアルデザインの更新といったものが前面に押し出されているように見受けられますが、付随するようにXSLTについて軽く触れられています。XSLT自身に関してはここでは深くは触れませんが、Understanding WCAG 2.1やTechniques for WCAG 2.1はXSLTを用いることでHTML文書が構築されています。

その一方で、XSLTとは別の方法でHow to Meet WCAGは生成されています。Understanding WCAG 2.1やTechniques for WCAG 2.1、How to Meet WCAGという文書群が、相互に関連する文書であるにもかかわらず、視覚的にも文書構築システム的にも別物になっているという現状があります。

今回のredesignでは、文書構築システムについても刷新されるのではと個人的に期待しています。仮に刷新されるならば、WAICで翻訳されているWCAG解説書や達成方法集、クイックリファレンスにも、翻訳の実作業面でプラスの影響があるのではと見込んでいます。

また、時代遅れになった達成方法についても、削除することがうたわれています。Techniques for WCAG 2.1については、Techniques for WCAG 2.0(日本語訳:WCAG 2.0 達成方法集)の内容をほとんど引き継いだ上で、WCAG 2.1で新たに追加された達成基準に対応する達成方法を追記している状況にあります。

しかしながら、WCAG 2.0が勧告になった2008年当時の、現在では時代にそぐわない達成方法がTechniques for WCAG 2.1でもそのまま残っているのが現状です。このような達成方法の内容に関して整理する計画については、筆者個人としては待望していたものであり、技術的な観点からも望ましい、あるべき姿ではないかと考えています。

最後に、このWCAG Support Materials redesignについてのスケジュールについて触れておきます。現時点でのタイムラインとしては、今年9月に要件分析を完了し、来年9月にredesignしたものを公開する予定となっています。

他方で、WCAG 2.2に目を向けてみますと、今年の2月に作業草案が発行されて以来(WCAG 2.2の最初の公開作業草案が発行されましたも参照ください)、現時点で公開草案の更新はありません。AG WG Project Planに記載されているスケジュールからは遅れが見られます。仮に遅れを考慮してWCAG 2.2の勧告が来年になるとしても、再設計されたUnderstanding WCAG 2.2やTechniques for WCAG 2.2が公開されているのはWCAG 2.2勧告よりも後になるのではないかと思われます。

絵文字をスクリーンリーダーに読み上げさせてみた

アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)

以前に同僚と少し絵文字に関する話をしていたこともあり、ふと、絵文字はスクリーンリーダーでどう読み上げられるのかということが気になって、ごく簡単に読み上げさせてみましたという話です。

筆者の自宅の環境がWindowsとAndroidであることから、読み上げのテストにあたっては、NVDA、Windowsのナレーター、TalkBackで試してみました。以下にテスト環境を記しておきます。ブラウザーによる違いは見られなかったので、これについては省いています。

Windows バージョン 1909(OS ビルド 18363.836)
NVDA 2020.1jp
Android 10
TalkBack バージョン 8.2.0.303936097

以下が4つの絵文字について読み上げテストを実施した結果になります。言語については、lang属性を付与して読み上げさせました。

笑顔を表す絵文字と各スクリーンリーダーによる読み上げの比較(日本語)
コードポイント グリフ NVDA ナレーター TalkBack
U+263A 笑顔 スマイルマーク (聞き取り不能)
U+263B (読み上げせず) (読み上げせず) (読み上げせず)
U+1F600 😀 笑顔 にんまり顔 (聞き取り不能)
U+1F601 😁 笑顔 たくらみ顔 (聞き取り不能)
笑顔を表す絵文字と各スクリーンリーダーによる読み上げの比較(英語)
コードポイント グリフ NVDA ナレーター TalkBack
U+263A Smiling face スマイルマーク Smiling face
U+263B (読み上げせず) (読み上げせず) Smiling face
U+1F600 😀 Grinning face にんまり顔 Grinning face
U+1F601 😁 Beaming face with smiling eyes たくらみ顔 Beaming face with smiling eyes

結果をまとめてみます。

  • NVDAは日本語ではすべて「笑顔」と読み上げられたものの、英語ではそれぞれ異なる読み上げられ方がされています。これは、読み上げ辞書の問題でしょうか。
  • ナレーターはlang属性を解釈してくれないためか、すべて日本語として読み上げられました。
  • 日本語の場合のTalkBackについて、「(聞き取り不能)」とあるのは、Googleテキスト読み上げエンジンにバグがあるのか、何を言っているのかわからない読み上げられ方をしたことによります。
  • U+263B(☻)については、TalkBack(英語)に限って、読み上げが行われ、その他では何も読み上げられませんでした。Wikipediaに記載されているUnicodeのEmojiの一覧の文字にあたらないことが関係しているのかもしれませんが、他の文字を試していないこと、Unicodeの仕様をきちんとあたっていないことから、詳しいことは不明です。
  • 英語の読み上げについては、U+263B(☻)を除いて、NVDAとTalkBackとで同じになりました。

今回試した範囲では、文字、言語、スクリーンリーダー間でさまざまな差異が見られました。このようなごく簡単な調査ですら、絵文字によっては読み上げられないものがあり、また特に日本語環境の絵文字の読み上げには支援技術によって相当な差異があることから、支援技術による絵文字の日本語読み上げ対応という意味では、かなり厳しいものがあると言わざるを得ないでしょう。

Dequeのアクセシビリティ関連ソフトウェアがaxeブランドに一元化

取締役 木達

(この記事は、2020年5月5日に公開された記事「Deque Unifies Accessibility Software Offerings Under The axe Brand」の日本語訳です。Deque Systems社の許諾を得て、お届けしています。翻訳の正確性は保証いたしかねますので、必要に応じ原文を参照ください。)

デジタルアクセシビリティに特化したソフトウェアのリーディングカンパニーであるDeque Systemsは本日、企業向けのアクセシビリティ検証ツールをaxeブランドに統一したことを発表しました。

アクセシビリティルールライブラリであるaxe-coreをベースとしたDequeの企業向け製品「WorldSpace Suite」は、今後「axe」の名の下にリブランドされます。

ルールライブラリの累計ダウンロード数は3,700万、Chrome拡張機能のユーザー数は週あたり10万人以上、そして8,000人ものベータユーザーを擁するaxeは、世界中で信頼に足るアクセシビリティ検証の業界標準となっています。Google、Microsoft、アメリカ合衆国司法省など、多くの組織がアクセシビリティ標準にaxe-coreを採用しています。

Deque Systemsの最高技術責任者であるDylan Barrell氏は「協力の手を差し伸べてくださった皆様、アンケートに協力してくださった皆様、ツールを使ってくださった皆様に感謝しています。皆様からのフィードバックに基づき、私たちのソリューションの名前をよく知られたaxeブランドに変更することにしました」とコメントしています。「この変更により、無料のaxeブラウザ拡張機能から有料の企業向けツールへの移行を検討されている方には特に、両者の関係がより明確になると思います。」

今回の変更においてまず重要となるのが、axe DevTools(旧「WorldSpace Attest」)に同梱のインテリジェントガイド機能がベータ版から正式版になった点です。

Barrell氏は「インテリジェントガイド機能により、これまで機械による自動チェックだけでは検知できなかったアクセシビリティ上の問題を、あらゆる経験レベルの開発者が簡単に特定できるようになります」と述べています。「この機能をお客様に提供できることを嬉しく思います。同梱する機能の再構成において、お客様の存在は大きな原動力です。」

リブランドされた企業向けソリューション

  • WorldSpace Attestは、axe DevToolsになりました。axe DevToolsにより、自動化されたアクセシビリティ検証のプロセスを、開発プロセスに簡単に統合することができます。
  • WorldSpace Assureは、axe Auditorとなりました。axe Auditorにより、あらゆるコンテンツやアプリケーションを対象に、WCAGに基づくアクセシビリティ監査を包括的に実施できます。
  • WorldSpace Complyは、axe Monitorになりました。axe Monitorは、Webサイト全体のアクセシビリティ品質の自動的な監視とレポート作成を可能にします。

このリブランディングと機能の再構成は、本日から有効となります。axeスイートの製品については、https://www.deque.com/axe/ をご覧ください。

(訳注:当社はDeque Systems社と提携し、WorldSpace ComplyのUIを独自に日本語化、アクセシビリティチェックツール(WorldSpace Comply)として日本市場向けに販売とサポートを行ってきましたが、今回の発表に伴い当サイト上や販促物等における表記を今後段階的にaxe Monitorへ変更の予定です。)

WAI-ARIA オーサリング・プラクティス 1.1が公開されました

アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)

ウェブアクセシビリティ基盤委員会「WAI-ARIA オーサリング・プラクティス 1.1」公開のお知らせとしてアナウンスをしているように、2019年2月7日版のWAI-ARIA Authoring Practices 1.1の日本語訳が公開されました。

WAI-ARIA オーサリング・プラクティス 1.1

WAI-ARIA Authoring Practices 1.1は、WAI-ARIA 1.1では説明されない実装例について記載された文書です。ダイアログやディスクロージャをはじめとするデザインパターンやウィジェットに対して、WAI-ARIAロール、ステート、プロパティをどのように使用すればよいのかを示したものです。

デジタルサービスのアクセシビリティ向上に立ちはだかるもの

アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)

『デジタルを活用した公と民のサービスにおけるアクセシビリティ向上について』と題した緊急提言が、山田肇先生と石川准先生が代表者となって、今月15日に総務省と厚生労働省に対して送付されました。緊急提言の全文に関しては、新型コロナ情報のアクセシビリティ向上:総務省と厚労省に緊急提言 - アゴラから参照できます。提言の一部は次のようになっています。

  1. 政府および地方公共団体が運営している新型感染症特設サイトについて、アクセシビリティを検証して早急に不備を改善するよう、総務省と厚生労働省の連名で政府各府省および全地方公共団体に依頼すること。
  2. 第1項目の依頼にあたっては、地方公共団体から委託契約等のある地域情報を提供する事業者・NPO等に対して、アクセシビリティ対応を取るように依頼すること。
  3. 遠隔教育・電子商取引などを提供する民間サービス事業者に対しては、アクセシビリティを検証して早急に不備を改善することについて、各事業の所管省庁から業界団体等に対して依頼するように、総務省情報流通行政局より働きかけること。
  4. 第1項目から第3項目について、総務省サイトに掲載の「情報アクセシビリティの確保」における「みんなの公共サイト運用ガイドライン」等を参照して実施するよう依頼すること。

1.と2.の言うアクセシビリティはWebアクセシビリティそのものに相違ないと思いますが、3.の言っているアクセシビリティがWebアクセシビリティだけを指しているのでしょうか...? そこのところが若干不明ではありますが、ともあれ4.で「みんなの公共サイト運用ガイドライン」を主に出しているわけですから、Webアクセシビリティを主に意識していることは間違いなさそうです。

それはそれとして、みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)を見ていただければすぐにわかると思いますが、

 「みんなの公共サイト運用ガイドライン」(以下、「運用ガイドライン」という。)は、国及び地方公共団体等の公的機関(以下、「公的機関」という。)のホームページ等が、高齢者や障害者を含む誰もが利用しやすいものとなるように、公的機関がウェブアクセシビリティの確保・維持・向上に取り組む際の取組の支援を目的として作成された手順書で(以下省略)

とあるように、位置付けとしてはあくまで公的機関を対象としたガイドラインでしかないわけです。緊急提言の3.でいうところの「民間サービス事業者」に公的機関向けのものをそのまま当てはめてよいのかについては難しい側面があるのではないでしょうか。とくに、「みんなの公共サイト運用ガイドライン」は公的機関に対して、これまでの取り組みがあった上でJIS X 8341-3:2016 適合レベルAAへの準拠を求めているわけです。しかし、仮にこれまで何も取り組んで来なかった事業者に対して、突然レベルAA準拠を目指すようにと言われても困惑するのが正直なところではないでしょうか。なによりも、Webアクセシビリティに対する一定の理解をはじめとする土壌がなければ、Webにおけるアクセシビリティを継続的に提供するのは困難でしょうし、最初の一歩としてはハードルが高すぎると筆者は考えます。

そういったところを鑑みますと、ひとつには民間事業者向けのガイドラインのようなものが求められているのではないだろうかと考えます。もちろんガイドラインさえあればよいと言うものでもないのですが、これは話の本筋から外れますので、機会があれば別の稿に譲りたいと思います。

さて、そのような民間事業者向けの文書が存在しないというところに注目しますと、ひとつは根拠となる法律にあたる障害者差別解消法では合理的配慮について努力義務を課しているからに過ぎないというところもありますが、

というように、筆者の理解が正しければ、各省庁がそれぞれすべきことやできることを取り組んでいるように見えます。しかし、情報通信施策としてのWebアクセシビリティを包括的に取り組めているのかと考えますと、残念ながら十分ではないと言えるのではないでしょうか。上に挙げた全省庁が互いの施策を認識して、連携が取れているのかというところもあまり見えていません。

Webアクセシビリティというものを国全体でより強力に推進していくとするならば、少なくとも行政の観点からは、その根拠となるWebアクセシビリティに焦点を当てた法律が必要とされるのではないかと感じました。といったところで筆を置きたいと思います。

COVID-19から考える手話のあれこれ

アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって世の中のありかたが大きく揺らいでいるわけですが、そんな中、情報保障の観点からにわかに手話に関する話題が聞こえてきます。

コメディアンの志村けんさんがCOVID-19による肺炎により先月末に亡くなられたのは記憶に新しく、著名人であったこともあり、驚きと共に受け止められた方も多かったと思います。

今月になって、志村さんのテレビ番組がYouTubeで公開されたことでも話題となっていますが、訃報が伝えられた折にNHK手話ニュースで「アイーン」のポーズがされたとネットでちょっとした話題になっていました。

「アイーン」は手話で「志村けん」の意味? 「NHK手話ニュース」でやっていた: J-CAST トレンド

また、都府県知事の会見の際の手話通訳が注目され、ニュースにもなっています。

知事会見に手話通訳導入相次ぐ 新型コロナ情報「誰もが同時に受け取れるよう」 - 毎日新聞

感染症がきっかけで手話が脚光を浴びるということに様々な意見はあるでしょうが、前述の毎日新聞の記事では、

ある聴覚障害者は「手話が『母語』である聴覚障害者には、文字おこしされた文章や文字情報を正確に理解することが苦手な人もいる。今回の事態を機に、手話通訳の必要性を正しく理解してほしい」と話す。

とあります。これは一体どういうことなのでしょうか。

手話の位置づけについては、2017年に日本学術会議が提言した音声言語及び手話言語の多様性の保存・活用とそのための環境整備に次のような記載があります。

「手話言語」とは、聴覚に障害のある人が中心となって使用する言語のことである。日本では、自然言語として生まれた「日本手話」と、日本語の語順にしたがって手話の語の一部を並べた「手指日本語(しゅしにほんご)」(「日本語対応手話」、「シムコム」[SimCom, simultaneous communication の略]と呼ばれることもある)が主に使用されている。このうち日本手話は音声言語の日本語とは全く異なる言語であって、子どもが最初に獲得する言語であり、聴覚に障害のある人にとっての第一義的な存在である。

(中略)

一方、日本語を話しながら手話単語を並べる手指日本語は、音声言語としての日本語を手と指で表現したものであって、語順や文法は音声日本語に依拠している。その点で、手指日本語は「音声日本語」の一種であって、「手話言語」ではない。音声日本語を母語として獲得した後に聴覚障害となった中途失聴者や、手話を母語とせずに口話法(音声言語の発声を訓練し、音声言語によって意思交換を行う方法)により音声日本語を身に付けた人が手指日本語を日常的に用いることが多く、テレビ放送で使われるのも多くは手指日本語である。

このように学術会議の提言では手話を2つにわけている一方で、当事者団体である全日本ろうあ連盟では手話言語に関する見解という文書を2018年に公開しています。

近年「手話言語」に関し、「日本手話、日本語対応手話」の考え方を含めた様々な意見が出されていますが、国内で慣例として使用されている「日本手話」のほかに「日本語対応手話」という用語を使用して、日本語対応手話の表現例との比較によって日本手話を狭く解釈し、日本では手話は二つあると説明する例がいくつか見られます。 そこで、全日本ろうあ連盟ではろう者の第一言語である「手話言語」について正しい認識を広めたく、「手話言語に関する見解」を公表いたしました。

学術会議の提言のようにわけることは当事者としては本意ではないようです。

大切なことは、「手話」が私たちろう者が自らの道を切り拓いてきた「生きる力」そのものであり、「命」であることです。その手話を「日本手話」、「日本語対応手話」と分け、そのことにより聞こえない人や聞こえにくい人、手話通訳者を含めた聞こえる人を分け隔てることがあってはなりません。手話を第一言語として生活しているろう者、手話を獲得・習得しようとしている聞こえない人や聞こえにくい人、手話を使う聞こえる人など、それぞれが使う手話は様々ですが、まず、それら全てが手話であり、音声言語である日本語と同じように一つの言語であることを共通理解としていきましょう。

当事者と学術界で見解が異なるように見えるのは何とも困った状況ではありますが、ともあれ前述のNHK手話ニュースや知事の会見で使われている手話が、ろう者にとっては重要な情報源であることには違いありません。そして、手話に対する世間一般での理解がまだまだなされていないというのが実情かと思います。恥ずかしながら、筆者も調べながら手話に関する知識を得ているのが本当のところです。

そのような状況ですので、手話の理解と普及には、手話の法律の整備が必要というところで両者の見解が一致しています。これに関しては、ろうあ連盟の手話言語法制定推進事業に情報がまとまっていますので、あわせて参照してはいかがでしょうか。

さて、英語の技術的な情報源を読むに当たって、機械翻訳を用いて日本語で読んでみるという方もいると思います。同じような発想で、日本語から機械的に手話を生成できないものかと考えるのは自然な流れかと思います。

実際にNHK放送技術研究所では、そのような研究が行われているようです。

スポーツ情報の手話CG制作システム|技研公開2018

この研究は工学院大学との共同研究とありますが、科研費データベースでは、多用途型日本手話言語データベース構築に関する研究にて研究成果を閲覧することができます。研究の紹介が記載されている論文の中身については、COVID-19の影響で図書館が利用できないために確認が難しいですが、リンク先に掲げられている概要や推進方策には、Unityや.NetFrameworkといった動画に関連する技術であったり、アノテーションとしてのJSONであったりと、聞き覚えのある単語が目に付きます。

ややとりとめのない文章になってしまいましたが、最後に、WCAG 2.1では達成基準 1.2.6 手話(収録済)(レベル AAA)として記載されているものであります。レベルAAAだけあって、一般のWebサイトではめったに手話を含んだコンテンツを目にすることがないというのが残念ながら実情かと思います。先に挙げた法律の制定、また研究の進展や技術の発展により、Webでも手話に触れる機会が増えることを願って、締めとしたいと思います。