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多様化していくWebアクセシビリティ

2008年5月23日

アクセシビリティ・エンジニア
中村 精親

先日、あるクイズ番組で「急がば回れ」という言葉はもともとどこを回ることだったのか、といった趣旨の問題を目にする機会がありました。この「急がば回れ」という言葉、出題中にもあったのですが「急いては事をし損じる」と同様に、ゆっくりと安全な方法が、急いで危険なものを選ぶよりも結果としては早くなる、という文字通りの意であります。

さて、ここで少し変わった見方をしてみましょう。この言葉には、前提として二つの選択肢が必要です。すなわち、選択肢があるから選ぶことができるわけです。

かつて、Webアクセシビリティといえば、道のないところに道を通す、つまり情報へのアクセス方法がないところに何かしらの情報を与える、というものでした。たとえ、それが茨の道であったとしても。

具体的にはあるグラフのalt属性(代替テキスト)が存在しなかったところに、「グラフ」という代替テキストを記述するといったぐあいです。しかし近年、一方ではそのような最低限以下の対応は減り始め、他方、最先端ではさらなるアクセシビリティの向上を目指し、いくつかの新たなる「選択肢」が生み出されています。

さて、少し「回り道」をしてしまいましたが、そのような新しい「選択肢」、アクセシビリティ関連の最近の動きについて、まとめてみたいと思います。

Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0

Web標準BlogやアクセシビリティBlogにて既報のとおり、世界的なアクセシビリティガイドラインであるWCAGの最新版2.0がいよいよCandidate Recommendation(勧告候補)になりました。これにより、ガイドラインの内容自体はおおむね固まったといえ、今後は実装テストなどを経て、2008年内に勧告として公開する方向で作業が進められています。詳細につきましては、下記の各記事などをご参照いただければと思います。

WAI-ARIA

WCAG同様、Web標準BlogやアクセシビリティBlogでも何度かとりあげていますが、アクセシブルでリッチなインターネットアプリケーション(ARIA)を実装するための仕様の草案が2月にアップデートされました。Ajaxを利用したコンテンツなどに代表される動的なWebのアクセシビリティを確保することは、当初かなり難航するとの見方が大半を占めていました。しかしながら、GoogleのAxsJAXや、Firefox 3、Internet Explorer 8、Opera 9.5など、WAI-ARIAを実装したブラウザや支援技術が登場、あるいはサポートすることを明らかにしはじめ、少し光が差してきた、といえる状況になりました。現時点では、制作者側にとっても、利用者側にとっても難解な技術ではあることや、日本国内の支援技術ベンダーにはまだサポートの動きが見られない、といった不安点はありますが、今後のアクセシビリティを語る上では最重要な仕様のひとつといえるでしょう。WAI-ARIAに関連した下記のエントリーもご参照ください。

Accessible and Mobile

モバイル環境からのインターネットの利用、Webコンテンツへのアクセスは、日本国内はもとより世界的にも増加の一途をたどっています。モバイル環境からのWeb閲覧は、画面サイズ、通信速度、インターフェースなどの面において、一般的なPC環境からの接続と比較してさまざまな制限があります。そのため、Webアクセシビリティの向上は支援技術によるアクセスを容易にするのとともに、モバイル環境からのアクセシビリティも向上させるのです。

このようなモバイルWebにおけるベストプラクティスとWCAGの関係をまとめた文書の草案、Relationship Between Mobile Web Best Practices 1.0 and Web Content Accessibility Guidelinesが1月に公開されています。まだ最初の草案であり未完成な部分も多いのですが、両者の共通点や相違点がまとめられるということで、こちらもまた注目の文書のひとつです。

WAI-AGE

モバイル環境からのアクセス同様、今後さらに増えていくと思われるのが、高齢者ユーザーによるアクセスです。ご存じのとおり、日本はすでに超高齢社会であるといわれておりまして、日本国内のアクセシビリティガイドラインであるJIS X 8341では、「高齢者・障害者等配慮設計指針」という名前がついていることからもわかるように、年齢を重ねるのに伴う身体能力の衰えがWeb閲覧に与える影響を考慮しています。

一方、海外ではこうした高齢者とWebアクセシビリティの関係をあまり重視していないといわれていたのですが、最近になって欧州連合(EU)が力を入れはじめました。こうした動きのひとつが昨年から公式に活動しているWAI-AGE Projectです。あまり目立った動きがないように思われた同プロジェクトですが、先日Web Accessibility for Older Users: A Literature Review(高齢者のためのWebアクセシビリティ:文献調査)という文書を公開しています。

この文書は名前が示すとおり、高齢者が必要とするWebアクセシビリティについて書かれたガイドラインや論文などを調査、分析し、障害者が必要とするWebアクセシビリティを中心としているWAIのガイドラインとの比較を行うものです。こちらも前述のモバイルに関する文書同様、最初の草案であるために未完成な部分が多いのですが、今後力を入れていく必要がある分野であることは間違いないでしょう。

以上のように4項目、アクセシビリティに関連した最近の動きをまとめてみました。

ところで、冒頭にあげた問題の解答はおわかりになりましたでしょうか。正解は琵琶湖、だそうです。武士が東から京都へと向かう際に、陸路で向かうよりも船で琵琶湖を渡る方が早いのだけれども、比叡山からの突風で転覆する危険性が高かったのだとか。そこで、陸路を回った方が安全ですよ、というところからきているとのこと。当時とは違い、現代では同じように京都に向かうにしても、さまざまなルートがあるでしょう。状況に応じて、車、電車を使ったり、飛行機に乗ったり、と。Webアクセシビリティも同じなのかもしれません。かつては道が限られていました。しかし、これからは環境に応じたアクセスができるようになる時代です。「急がば回れ」ではなく、どんな環境からでも「回らず安全に早く着く」、そんなコンテンツを作っていきたいものです。