W3C Document Process 2021について

アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)

毎年恒例と言っても過言ではない、今年のW3CのDocument Processの更新についてアナウンスがありました。ちなみに、去年のW3C Document Processの更新についてはLiving Standard機能を取り込むW3C文書プロセスの更新に記載しています。

W3C Process Documentが何物なのかごく簡単におさらいしておきますと、W3Cが勧告(Recommendations)やノート(Notes)と言ったテクニカルレポートを作成するに当たって、どのように作成していくのかを決める文書です。

それでは公式の変更点の記述をもとに簡単に変更点について見ていきたいと思います。

もっとも目をひくのは、Registries Trackと呼ばれるプロセスのもとで作成される、新しい種類のテクニカルレポートの導入でしょう。これは、データコレクションの登録を目的としたレジストリで構成される特殊な文書です。

レジストリとはどのようなものでしょうか。関連するGitHub issueでは一例としてMedia Source Extensions Byte Stream Format Registryが挙げられていました。現在はW3C Working Group Noteとして記載されていますが、新設されたRegistries TrackではW3C Recommendationに相当するステータスW3C Registryとして発行されることになります(Recommendation Trackの各ステータスに対応するRegistries Trackのステータスも提供されます)。W3C Registryの用法としては、Recommendation Trackにある文書にW3C Registryを埋め込む形で参照するといったものが考えられます。

次に目をひくものとしては、Note Trackでしょうか。

具体的には、まず、Discontinued Draftというステータスが新設されました。Recommendation Trackのもとで開発していたテクニカルレポート、例えばCandidate Recommendationまで進んだ文書があったとして、何らかの理由でその文書の開発を中断するとします。これまではGroup Noteとして再発行されていましたが、新プロセスではDiscontinued Draftという専用のステータスで開発が中断した文書であることを明示するようになります。最近の例ですと、HTML 5.3がこれに当たるのではないかと思います。

また、Draft Noteというステータスが新設されました。Group Noteの前段階のステータスであり、Recommendation TrackのWorking Draftに相当するステータスです。これまで、Note TrackであってもWorking Draftとして発行した上でWorking Group Noteとして確定させるというプロセスを踏んでいたわけですが、Draft Noteを新設することにより、Draft Trackにある文書であることをステータス上でも明示できるようなります。

さらにW3C Statementというステータスが新設されました。これはGroup Noteの特別なステータスで、wide reviewを行った上でW3C全体によって承認された上で発行されます。このステータスは基本的には実装可能な技術は含まれませんが、もし該当する場合、W3C Statementにする必要性と、Recommendation trackにない理由について言及しなければなりません。実装可能な技術を含んだGroup NoteとしてはCSS Snapshot 2020が例に挙げられています。このステータスを適用する文書の候補としては、Web Platform Design PrinciplesのようなTechnical Architecture Groupによって作成された文書が想定されているようです(関連するissueも参照)。

今回のW3C Process Documentの改訂により、W3C Recommendation、Note、Registry Reportの3種類のレポートをW3Cは発行することになります。それぞれの種類のレポートを発行するまでに至るTrackについても整備され、Trackを途中で切り替えが可能であることについてもProcess Documentで規定されるようになりました。

個人的には、Note Trackの見直しが大きいと感じています。これにより、より正確なW3C文書の理解につながっていくのではないでしょうか。