2004年12月3日 設立10周年を迎えたW3C

Web開発チーム フロントエンド・エンジニア
木達 一仁

私は今、アメリカ独立の舞台となった街、ボストンに来ています。W3C(World Wide Web Consortium)会員が一同に会する全体会議(Advisory Committee Meeting)に参加するためです。前回は5月にニューヨークで開催されましたが、今回はW3Cのホストの一つであるマサチューセッツ工科大学計算機科学人工知能研究所(MIT CSAIL)近くでの開催です。二日間に渡る会議に先立ち、W3C設立10周年記念祝賀式典が本日開催されました。

この式典は「W3C10」と呼ばれる、W3C会員と招待参加者を対象としたシンポジウムです。司会を務めるのは、今やネットワークを利用する誰もがその恩恵に授かっているであろうイーサネットの発明者であり、つまりインターネットの先駆者でもあるBob Metcalfe氏。今回のコラムでは、同シンポジウムの模様をご紹介し、最後にW3Cと弊社のこれからについて私見を述べたいと思います。

W3C10

冒頭の「Welcome session(ウェルカム・セッション)」においては、MITの学長であるCharles Vest氏が講演。同大学の推進している、すべての講義の内容をインターネット上に公開する「OpenCourseWareプロジェクト」を紹介しながら、W3Cへの謝辞を述べました。教材や過去の試験問題に至るまで公開しようというその取組みは非常に画期的であり、今後のより一層の成果が期待されます。

「How It All Started(全てはいかに始まったか)」というイベントでは、Webの発明者であり、W3Cのディレクターを務めるTim Berners-Lee氏が講演。1945年にVannevar Bush氏が発表した、マイクロフィッシュ上の文書同士をリンクさせる「Memex」という名の仮想機械にまで遡り、以後ハイパーテキストの概念が具体化し、W3Cが1994年に組織されるまでを振り返りました。私が生まれるよりも遥か昔から、多くの人々が現在のWebの礎を懸命に築いてこられたと思うと、畏敬の念を抱かずにはいられません。

「Impact on Science and Industry(科学および産業界への影響)」というイベントでは、旅行業界と流通・小売業界におけるWeb標準の活用事例が紹介されました。いずれの話においても共通していたのは、標準を採用することのメリットと、その標準を数多く策定するW3Cの果たしてきた役割の大きさです。歴史に「もし〜だったら」を論じるのは禁物とはよく言われますが、もしW3CあるいはWeb標準が存在しなかったとしたら、果たして今あるWebと同等の成功が収められたかどうかというと、私は難しいだろうと思います。

「Impact on Society and Culture(社会および文化への影響)」というイベントでは、Pew Internet & American Life ProjectのLee Rainie氏が講演、さまざまな統計データをもとに今日のインターネットユーザー像にまつわる分析を紹介しました。個人的にはDigital Gapの問題、すなわちコンピュータの利用やインターネットへの接続機会を持つ人と持たない人との間の差異を今後どう考えていくべきか、が気になりました。Webコンテンツとは別の次元、異なるレイヤーにおけるアクセシビリティもまた、重要な課題となっています。

昼食をはさみ午後の最初のイベント「Web of Meaning(有意のWeb)」では、技術書を多数出版しているO'Reilly Media社のTim O'Reilly氏が講演。オンラインブックストアのAmazonを例に、ユーザーの積極的な参加を促しつつメタデータ(データについてのデータ)を収集することの意義を解説。氏は、AmazonやGoogle、eBayといったオンラインサービスを「Infoware」と呼称していましたが、これはまさにインターネットのAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)としての側面を端的に表現しているなと感じました。

「Web on Everything(あらゆるデバイス上のWeb)」イベントでは、今回のシンポジウムに唯一日本からNTT DoCoMoの夏野氏が登壇。5年前に携帯電話によるHTMLの利活用を説いた当時は冷ややかな目で見られたものの、iモードの成功によって、今や多くの人々が携帯からWebにアクセスするようになった経緯を力説。携帯機器とWebの相関は個人的にとても惹かれるトピックスで、端末の高性能化と通信のブロードバンド化によってもたらされる未来は本当に楽しみです。今後のW3Cの活動においても、モバイル方面はより活発化するものと思われます。

「Web for Everyone(すべての人々にとってのWeb)」イベントでは、既に先に「Digital Gap」について書きましたが、「Digital Divide」についての話が展開されました。居住している国や地域、さらにはそれらに紐付いて使用する言葉や慣れ親しんだ文化の違いにかかわらずWebを活用していくための処方や、あるいはWebコンテンツにおけるアクセシビリティの重要性が語られました。

これまでの10年、これからの10年

Web空間の爆発的な拡大が人類にもたらした影響は計り知れず、もはや言葉で適切に表現することが難しくすら感じますが、その拡大に比類なき貢献を果たしたW3Cは、今ここに10周年を迎えたわけです。この10年という時間の長短をどう感じるかは人それぞれでしょうが、更なる進歩の後に設立20周年を迎えることを期待したいと思います。

私は、弊社で過去2回開催しましたWeb標準セミナーにおいて、Web標準、ひいてはW3Cの活動が過去・現在・未来を通じWebの発展にとって極めて重要なものであるとご説明しています。本シンポジウムに参加し一連の講演を拝聴したことで、その思いはより一層強固なものとなりました。

W3Cはその活動の重要性ゆえに、今後さらに世界と協調し、真に「受け入れる価値のある」Web標準を策定し続けなければならないでしょう。無論ただ策定するだけではなく、それを自ら広めるための努力もまた、同等に必要になると思われます。それらの活動に対して、図らずも設立10周年という節目の年にW3C会員になった弊社が為すべきことは何か、改めて考え、そしてまた実践していきたいと思います。

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