アメリカでの2つの判決から、Webアクセシビリティ訴訟の風向きが変わるかもしれない
アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)この記事は、2026年4月にAccess * Abilityで投稿されたTwo SDNY Decisions in One Week Show Courts Are Done Messing around with Questionable Accessibility Litigationを要約したものです。
SDNYというのは、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所のことを指します。知財高裁のページによれば、
ニューヨークにある4つの連邦地方裁判所の1つで,南部地区には,ウォール街等を含む金融センターを管轄するため,米国で最も影響力があり活発な連邦地方裁判所の1つといわれています。
とされています。SDNYは他の連邦地方裁判所と比べて非常に多くのADA(アメリカ障害者法)訴訟が行われるために判例が洗練され、他の裁判所でも引用されるとのことで、Webアクセシビリティ訴訟でも影響力を持つとされています。
元の記事のメッセージとしては、
- 裁判所はテンプレートを使って大量に起こされるWebアクセシビリティ訴訟に厳しくなっている
- 同時に、
- 真剣にアクセシビリティに取り組む企業は評価される
- 誇張・不正確な製品や主張は許されないという線引きが明確になってきている
というものです。少し細かく見ていきましょう。
ケース1として取り上げられている判決は、altテキストの欠落、予告なしのポップアップ、マウス操作のみのイベント要件、リンク切れなどの障壁のためにメガネやサングラスを扱うMoscotのWebサイトでサングラスを購入できなかったと主張する盲目の原告が提起したADA集団訴訟を棄却したというものです。
この訴状は典型的な連続原告訴訟であり、
- ある製品と日付が特定
- 自動クロールで検出可能なWCAG違反のリストが提供
- サイトが修正されたら再び訴訟を起こす意向が表明
されるというものでした。
Moscotは2023年5月から、デジタルアクセシビリティ企業であるLevel Accessと提携していました。苦情を受け取った後、MoscotはLevel Accessに対し、原告が主張するすべての障壁について調査を依頼しました。その調査の結果、主張された障壁のいずれも、スクリーンリーダー利用者がサングラスを購入することを実際に妨げるものではありませんでした。軽微な問題が1件特定され、直ちに修正されました。Moscotは、Level Accessの監査報告書と契約書を添え、eコマース担当ディレクターによる詳細な陳述書を提出し、これらすべてを説明しました。原告はこれに対し何ら反論を提出しませんでした。
裁判所は「問題はすでに完全に解消されている」と判断し棄却しました。継続的で、証拠付きのWebアクセシビリティ対応が法的なリスクへの備えになり得るといえます。
ケース2としては、中小企業がaccessiBeのオーバーレイ製品(accessWidget)について、「48時間でWCAGに準拠」「訴訟から保護」という宣伝を信じ購入したものの、実際には訴訟され、支援も限定的だったことについての裁判です。
裁判のポイントとしては、利用規約によるaccessiBeの免責は多く認められたものの、「WCAG準拠を実現できる」という契約違反は存続していると認定されました。アクセシビリティオーバーレイの法的リスクが高いことを改めて示すものといえます。
まとめますと、専門家との継続的なWebアクセシビリティへの取り組み、監査や改善の記録、そして長期的な運用といった、実質的なWebアクセシビリティへの投資は法的なリスクへの備えになり得るといえます。しかし、アクセシビリティオーバーレイのようなツールに依存することは不十分な対策であり、法的リスクを抱えているといえます。しっかりとWebアクセシビリティに取り組んでいるかどうかが、アメリカの裁判で重視されるようになってきているといえるでしょう。