「コンテンツは王である」- AI時代における企業コミュニケーションのあり方
(この記事は、 Bowen Craggs社のWebサイト「Our Thinking」において2025年7月に公開された記事「"Content is King": navigating corporate communications in the age of AI」の日本語訳です)

EquinorのコーポレートWebサイトの中核は「透明性」
AIが私たちの検索方法や文章作成、コミュニケーションを変える中、企業のWebサイトが注目を集めています。もはや、単なるデジタルパンフレットではなく、アルゴリズムが支配する情報の世界において、「真実」「評判」「可視性」をめぐる重要な戦場となっています。
Caterina Sorenti氏は、ノルウェーを拠点とする北欧最大のエネルギー企業Equinorの戦略的コミュニケーション・スペシャリストであり、同社公式サイト「Equinor.com」の元編集長でもあるColin Dobinson氏と2025年に「信頼され、強靭なデジタルプレゼンスを築くために何が必要か」について対談しました。企業Webサイト開発の最前線で約30年にわたり活躍してきたColin氏は、企業サイトの役割の変化、明確なコンテンツの力、そしてコミュニケーターが先を行くために必要なツールについて自身の考えを共有しました。
Caterina Sorenti氏:今日注目のトピックは、進化し続けるAIです。企業コミュニケーションの現場でAIを扱おうとすると、情報が多すぎて圧倒されてしまうことがあります。たくさんの情報の中で迷子になります。あなたもそう感じますか?
Colin Dobinson氏:そのとおりです。情報量は過剰です。AIは大きなパラダイムシフトで、その影響の大きさは、もはやWebそのものを超えるほどです。とてもわくわくしますが、情報があまりにも多く、「麦と籾殻を分ける(=良い情報と悪い情報を見分ける)」ことは簡単ではありません。実際に自分で経験することに代わるものはなく、時間はかかりますが、様々のツールを実際に試し、実験してみることも非常に重要です。
Caterina Sorenti氏:最近では、あふれる情報の中で企業が自社の発信を目立たせるのがますます難しくなっています。例えば、AIの大規模言語モデルに自社のWebサイトを情報源として適切に参照するようにすることも簡単ではありません。こうした状況から切り抜けるため企業の広報担当者に、何かアドバイスはありますか?
Colin Dobinson氏:これはまさに問題の核心を突いていると思います。世の中には膨大な誤情報やフェイクニュースがあふれています。だからこそあふれる情報の中を切り抜ける必要があります。そのための近道はありません。何より良質なコンテンツの作成に尽きます。これはインターネット黎明期から言われてきたことですが、「コンテンツは王」、これは今でも変わりません。読みやすく、検索しやすく、ざっと目を通しても理解できる情報テキストが重要なのです。
取り上げる内容は扱いにくいテーマも含めて、すべて網羅するようにしてください。社内の公開承認を得るのが難しいテーマも含めてです。物議を醸すような質問にWebサイト上で答えるためには、理解を深めるための追加調査が必要です。そしてそのための方法はいくつもあります。
もし、貴社が何も発信しなければ、競合や批判的な立場の人が代わりに発信することになります。特にセンシティブなテーマについて情報公開をしないでいると、情報の空白を誤情報が埋めてしまい、それが企業にとって大きなダメージになりかねません。だからこそ、検索エンジンのクローラーがアクセスできる形で情報を公開することが必要です。PDFの中や、動画の中に埋め込んではいけません。シンプルで読みやすいHTMLページで発信してください。
企業が自ら発信しなければ、競合や批判的な立場の人たちが代わりに語ることになる。
Caterina Sorenti氏:とても興味深いお話ですね。特に、「自分たちが発信しなければ、競合や批判的な立場の人たちが代わりに語ることになる。」という点が印象的でした。企業が透明性を持って情報発信できている好例はありますか?
Colin Dobinson氏:ネスレやマクドナルドなどは、優れたFAQを作成しています。イギリスのエネルギー企業BP p.l.c社も、ディープウォーター・ホライズン事故の後に、良い事例を示しました。また、10年ほど前になりますが、カナダのマクドナルドでは「Ask McDonald's」というサイトを立ち上げ、商品に含まれる栄養成分について寄せられる質問に答えていました。動画も取り入れた、親しみやすく読みやすいFAQでした。
一般のユーザーが実際に使う言葉遣いで質問を立てることが重要です。そうすることで、貴社のコンテンツが検索結果に表示されるようになります。
Caterina Sorenti氏:2025年において、企業のWebサイトはどんな役割を担うとお考えですか?
Colin Dobinson氏:企業Webサイトは、企業が自ら完全にコントロールできる唯一のチャネルです。多くの企業にとって最も価値のあるコミュニケーション資産だと言えます。AIの時代において重要なのは、このコミュニケーション資産を今後どう活かせるのかを考える必要があります。Webサイトには、企業の信頼を築くうえで大きな強みがあります。また発信するメッセージを自社でコントロールできる唯一の場所でもあります。そして、企業の公式パンフレットのような役割は必要とされ続けるでしょう。つまり、一次情報として公式な立場から情報を得られる場所「信頼できる唯一の情報源」なのです。
Caterina Sorenti氏:AI時代において、企業はどのように真正性や人間らしさを保つことができるのでしょうか?
Colin Dobinson氏:まずは、写真です。実際の職場や実際の社員が登場する写真を使うことです。次に重要なのが、言葉遣いです。いわゆる企業用語からは脱却しなければなりません。こどもから大人まで、誰にでも伝わる親しみやすい文体、コピーライティングを意識して書くことが重要です。そのためには、優れたコピーライターに投資し、Web編集者に明確な権限を与えましょう。AIは書いた文章の読みやすさを確認したり、改善点を洗い出すためのツールとして活用するといいでしょう。
Caterina Sorenti氏:より広い視点で見ると、AIは企業コミュニケーションにどのような課題をもたらしているとお考えですか?
Colin Dobinson氏:企業コミュニケーションの専門家にとって最大の危険の1つは、「ハルシネーション」です。AIは人を満足させようとするあまり、一見もっともらしく聞こえるけれど、事実に根拠のない回答を生成してしまうことがあります。そのため、AIには必ず情報源へのリンクを提示するように求めてください。特に、事実や財務上の誤りは、規制の厳しい行期では致命的になりかねません。情報源を確認せずにコンテンツを公開することは、決してしてはいけません。
もう1つの課題は、他社によって生成された偽の画像や誤った情報が大量に出回ることです。それらが一度SNSに拡散されると、完全に止めることはほぼ不可能になります。そのため、コンテンツを制作・公開する際の事実確認がこれまで以上に重要になります。Factiverse といった、AIを活用し事実確認を支援するツールや企業も存在します。
精査が不十分なAI生成コンテンツを使いすぎると、企業の真正性は損なわれます。ユーザーは既にAI生成の画像に強い警戒感を持っており、それがAIによるものかどうかはすぐに見抜いてしまいます。そのため、企業Webサイトでは、実際の社員が実際の現場で働く姿を伝えるような、より真正性の高いビジュアルやコンテンツが求められるでしょう。それが結果的に、企業への信頼を築くことにつながります。写真家とも、真正性を目指すことについて話し合ってください。
Caterina Sorenti氏:もし未来を予測するとしたら、2030年の企業Webサイトはどのようになっていると思いますか。
Colin Dobinson氏:Webが比較的オープンで自由な状態を保ち、国家による過度な管理や検閲が進まない限り、企業についてアクセスしやすく信頼できる情報を求めるという基本的なニーズは、今後も変わらないと考えています。
私は、SNSが企業Webサイトの代わりになるとは考えていません。SNSは非常に流動的で、今日注目されても、翌日には埋もれてしまいます。検索性も高くはなく、人々の集中力も短いです。SNSは、ユーザーの関心や行動を送り出す「行き先」が必要であり、一方でWebサイトは、SNSから流入してくる人を引き止め、深く読んでもらう役割を必要としています。つまり、この2つは強い相乗効果があります。
しかし、企業Webサイトではまだあまり見られないものの、今後に期待しているのが、AIツールを深く統合したWebサイトです。これにより、ユーザーはこれまでにない形で企業を理解できるようになります。
例えば、ユーザーが企業サイトと対話し、これまで聞けなかったような質問ができるとしたらどうでしょうか。自身の利用状況に合わせた製品の使い方の説明を受けたり、過去10年分のニュース記事や決算情報をもとに業績や財務の傾向を分析したり、さらには個人のスキルや経歴に基づいて最適な求人を提案してもらうことも考えられます。
だからこそ私は、Webサイトを「どれだけユーザーの役に立てるか」を見直し、価値をさらに高める新しい方法を模索する動きが生まれることを期待しています。結果的に、それはビジネスの強みにもつながるはずです。
Caterina Sorenti氏:1990年代から企業Webサイトに取り組まれていましたよね。当時を振り返って、何が原動力となり、どのような苦労があったのか教えてください。
Colin Dobinson氏:実は、企業として明確な戦略があって始まったわけではありません。どちらかとうと、かなり手探りで、試行錯誤の連続でした。
当時私は、歴史のあるノルウェーの海事系エンジニアリング・コンサルティング会社に勤めていました。余暇にはオンラインサービスに触れ、基礎を学びながらWebページのコーディングをしていました。
知識を強みとする企業である以上、Webサイトは持つべきだと気づきました。しかし、当時の私は広報部門に所属しておらず、誰に相談すればいいのかわかりませんでした。若かった私は、思い切って広報責任者に直接メモを書き、「Webサイトを作るべきだ」と説明しました。幸いにも、その提案は好意的に受け止めてもらえ、私は咎められずに済みました。当時の上司は、Webサイトを一時的な流行に過ぎないと思っていたので、業務時間中の作業は禁止されました。当時の上司は、Webサイトは一時的な流行に過ぎないと思っていたので、業務時間中の作業は禁止されました。そこで同僚と一緒に、週末こっそり時間を利用し、会社初のWebサイトを作りました。実際にサイトが公開されると、人々に理解され状況は一変しました。
私がティム・バーナーズ=リーやW3Cの活動に刺激を受けたことと、それを自社の可能性と見出したこと、その2つが重なった結果だったと思います。経営層の理解と支援を得ることを除けば、主な課題は、ツール不足、手作業中心のページ制作、そしてブラウザ互換性でした。
会社はこの出来事を、社内報の一面記事として取り上げました。その瞬間、後戻りはできなくなりました。そしてそれ以来、Webは私の情熱であり続けています。