2022年5月13日 サポートすべきはブラウザではなくユーザー

取締役(CTO)
木達 一仁

Microsoft社がInternet Explorer(以下「IE」)のサポートを終了する米国時間6月15日まで、残すところあと1カ月ほどとなりました。ほとんどのWebサイトで既にIEのサポートを終了した、ないし終了するための準備が進んでいる状況かと思います。実はまだそのどちらでもない……という読者のかたがもしいらっしゃったら、今年1月に書いたコラム「迫るIEのサポート終了」を、ぜひ先にお読みください。

ベンダーによるサポートが終了するブラウザのサポートを打ち切るのは、Webサイトの運営上、必要なことです。しかしそうではなく、ベンダーが今なお活発に開発と提供を続けているブラウザ、具体的に書いてしまうとMozilla Firefoxのサポートを終了するWebサイトやWebサービスが、少し前から業界内でちょっとした話題になっています。

アクセス解析の結果を踏まえ、シェアが低かったりユーザー数の少ないブラウザのサポートを止めることは、ビジネス上の判断として理解はできます。サポートブラウザの多寡が動作や表示の検証コストに直結する以上、高いセキュリティを確保しなければならない金融系のWebサービスなどでは特に、致し方ないケースはあるでしょう。

しかし果たして、ユーザー数の多寡だけでサポートするブラウザを取捨選択することは、合理的と言い切れるでしょうか?

Webサイト上で特定の種類・バージョンのブラウザのサポートを謳っている場合、その多くは生じ得る動作ないし表示上の不具合、さらにはそれが引き金となって起こり得るクレームを未然に防ぐ目的において、どのブラウザで動作/表示の検証を行っているかユーザーと共有し、なおかつそのブラウザの利用を推奨するものと理解しています。

とはいえ、ユーザーの利用デバイスや利用状況、ブラウザの設定は、さまざまです。たとえサイト上でサポートが謳われているブラウザをユーザーが使っていたとしても、サイトを運営する側の期待する動作や表示が100%担保できるとは限りません。利用中のユーザーが想定外の困難に遭遇する可能性は、ゼロとは言い切れないでしょう。

また、仮にサポートしているブラウザにゼロデイ脆弱性が発覚し、かつベンダーがその対応に一定の時間を要する状況に陥ったとします。そうなれば、ユーザーは別のブラウザに乗り換えを余儀なくされますが、もしその乗り換えたブラウザをサポートできなければ、二度とそのWebサイトなりWebサービスは利用していただけないかもしれず、ビジネス的に痛手を負うかもしれません。

やや極端な作り話に聞こえたかもしれませんが、サポートブラウザを減らす類の判断には、程度の差こそあれ上記のようなビジネス上のリスクが織り込まれることになります。

結局のところ、本コラムのタイトルに記したとおり、サポートすべきはブラウザではなくユーザーなのです。まずその事実に立脚したうえで、どのブラウザをサポートするか(そもそも「サポート」とは具体的に何を意味するのか)や、ユーザーがアクセスに用いるのに特定のブラウザを推奨することの是非を、検討すべきでしょう。

幸い、2000年代の中頃までと異なり、今や主要なブラウザは概ねWeb標準に準拠して開発が進められて(「そういう」レンダリングエンジンを採用して)います。従い理論上は、いや私の理想的には、サイトを運営する側もWeb標準に準拠し、かつアクセシビリティを確保するようコンテンツを制作する限り、特定の種類のブラウザを使うようユーザーに求めなくても良いはずです。そうできれば、ユーザーにとってのブラウザ選択の自由を妨げずに済みます。

もちろん厳密にはブラウザごとに、あるいは同じブラウザでもバージョンごとに、準拠しているWeb標準の内容に違いがあることは承知しています。その足並みの揃わなさに起因する影響を最小化するために、昔からあるプログレッシブ・エンハンスメントと呼ばれる考え方を採用することが、大前提として必要でしょう(プログレッシブ・エンハンスメントについては、加藤が先月書いたコラム「PWAのQ&A」に解説を譲ります)。

加えて、ユーザーがサイトを利用中に想定外の困難に遭遇した際、いかにしてユーザーに寄り添うか……その部分の対応も不可欠と考えます。寄り添う手段は、ひょっとするとチャットやメール、電話かもしれませんが、とにかくユーザーからの問い合わせを積極的に受け付けるという姿勢と、それを実現するための体制とが、サイト規模に拠らず必要でしょう。

誤解のないよう記しておきますと、私はサポートブラウザを定義したり、それをユーザーに伝える(サポートブラウザの利用を推奨する)ことに反対しているわけではありません。繰り返しになりますが、そうせざるを得ないビジネス上の動機や背景が存在することは、理解しているつもりです。本コラムでお伝えしたかったのは、そういった行為が必ずしも必須ではないこと、そしてWeb標準やアクセシビリティの重要性です。

本コラムに関連して、2018年に書いたコラム「進むレンダリングエンジンの寡占化に想う」を合わせてお読みいただけたら幸いです。

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