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問い直されるアクセス解析の意義

2005年12月16日

HCDコンサルティングチーム
西川 季宏

ボルヘスの「バベルの図書館」と「弁明の書」

アルゼンチンの作家ホルヘ・ルイス・ボルヘスは、「バベルの図書館」という小説の中で、「真ん中に大きな換気孔があり、きわめて低い手すりで囲まれた、不定数の、恐らく無限数の六角形で成り立っている」という、無限の数の書物が収められた無限の大きさの図書館を創造しています。その中には、「宇宙の人間の一人ひとりの行為を永久に弁護し、その未来のために驚くべき秘密を蔵している」という「弁明の書」と呼ばれる書物があるといいます。無限に建物と書物が増殖し続ける世界の有り様は、以前からインターネットの世界と類推して考えていたのですが、この小説のことを話題にしたのは、先ごろリリースされたGoogle アナリティクスに「弁明の書」と通じるものを不覚にも見出そうとした結果、改めてアクセス解析という手法論そのものに、思いを馳せるに至ったからです。

Google アナリティクス リリースのインパクト

Google アナリティクスとは、先ごろGoogleよりリリースされた無料のアクセス解析ツールです。このツールがリリースされたとき、これだけ高機能でリッチなインターフェイスをもつアクセス解析ツールが無料で提供されるという点でのインパクトだけでなく、このツールで取り込んだアクセスのデータを、Googleが二次利用可能としている点に、インパクトを感じた人も少なくないでしょう。Googleは世界中のアクセスデータ(ログ)を集積するつもりなのだろうか?このようにWebサイトのアクセスデータを取り込み続ければ、Webサイトのアクセス全般についてのデータの集大成ができるのではないか?そのデータと自社サイトのアクセス解析データの比較によって、サイト改善に向けた未来への筋道を立てられる、まさにボルヘスの「弁明の書」のようなデータができるのではないか?そんな想像に、期待と、何か説明のできない不安を抱いたのは、私だけではないはずです。

実際、私が日頃、アクセス解析の業務を行う中で、お客様から「検索エンジンからの流入の割合は、他社と比べてどうなのか?」「1ページでの離脱割合はこの程度が一般的なのか?」といった、客観的な視点からの評価に関する質問を受けることは、多くあります。それらは、もっともな質問だと感じますし、我々アナリストの側にも、そのようなデータがあればと願うことがあることは否定しません。しかし、立ち止まってよく考えれば、仮にそのようなデータが存在したとしても、それだけで自動的に未来への指針を示されるということは原理的にありえない、ということに気が付きます。

再度、アクセス解析の存在意義

なぜなら、どれだけデータが客観的につくられていたとしてもそれはひとつの「事実」でしかなく、それを解釈して、問題点を見出し、サイト運営の目的にのっとった上で次の改善をどう考えるかは、客観性だけでは片付けられない、主観的にものを考える人間の行為にかかっているからです。アクセス解析とは、単にツールからデータを抽出するものではなく、「そのサイトはどうあるべきか」に基づいて「Webサイト改善につながる」ための指針を出すということを念頭において行われなければ意味がないものなのです。

そのプロセスは、短期的に見れば改善のための目標を設定し、それを達成することが重要ですが、長期的な視点で考えれば、そのようにして改善・変革し続けることが何よりも大事です。そして結局のところ、客観性のあるデータも、このようなたゆまぬ改善の連続や、あるときは急激な変革によって置き換えられ、新しくなります。そして我々は、その新しくなった客観と向き合い、高いレベルへと向かって挑戦してゆくことになります。おおよそ人間的な活動全てについてそのようなことは言えるのでしょうが、アクセス解析という非常に限定されたフィールドでも同じことは言えるのでしょう。そして、お客様のために我々が常に役に立つ存在であるために、我々自身も常にスキルを向上させて、より高いレベルを目指していかなければならないと、改めて思う次第です。

文中引用:「伝奇集」 J・L・ボルヘス作 鼓 直訳 岩波文庫