改めて問いたいWebサイトの表示速度の大切さ
エグゼクティブ・フェロー木達 一仁先日、MMD研究所が公表した「WEBサイト表示速度に関する担当者の意識調査」の調査結果を、たいへん興味深く拝見しました。
同調査によりますと、4割近くのWeb担当者が、Webサイトの表示速度を改善項目として捉えているとのこと。いっぽう、実際に表示速度の改善に取り組んでいると回答したWeb担当者は、全体の2割にとどまっています。
必要性は認識しているにもかかわらず、半分程度のWeb担当者しか実践できていない実態が、明らかにされているのです。表示速度の改善に取り組んでいない理由としては、数の多い順に
- 表示速度の改善による効果が見えづらい
- 効果的な手段・方法が分からない
- 社内に知見や人材がいない
とのことでした。なるほどと思いつつ、ここで1つ、疑問が浮かびます。同調査でもっとも取り組まれているWebサイトの改善は「セキュリティや信頼性の強化」だったのですが(全体の約3割が取り組んでいると回答)、セキュリティや信頼性について、これら3つの課題は存在しないのでしょうか?
一定規模の組織であれば、セキュリティに詳しい人なり部署を配置し、日常的に取り組んでいる可能性が高いと認識しています。しかし、Web担当者の立場でセキュリティ強化の効果が見えやすいか、その効果的な手段・方法が分かりやすいかといえば、必ずしもそうではないように思います。
セキュリティにしろ表示速度にしろ、Webサイトを一見しただけでその良し悪しや改善方法を判断しにくい非機能要件という点で、共通しています。にもかかわらず……ということは、Web担当者にとってセキュリティのほうが重要性や必要性、緊急性が表示速度より高いということなのでしょう。
確かに、セキュリティの不備・不足に端を発して事故が発生してしまった場合、経済的な損失を免れない場合が少なくありません。その事故がマスコミなどで大々的に報道されるなどすれば、長期的なブランドの毀損も避けられません。
従い、Web担当者の方がセキュリティを重視される理由は理解できます。では、表示速度についてはどうでしょう?セキュリティ由来の事故のように、経済的損失なりブランド毀損が可視化されることは稀かもしませんが、しかし問題を放置すれば確実に同様の事象が起こり得る、と認識しています。
表示速度の遅いWebサイトに対し、ユーザーは黙って離脱するだけ、同じような情報・サービスを利用できる他のサイトに「流れる」だけです。昨今、「サイレント退職」なる言葉を目にすることがありますが、Webにおいて「サイレント離脱」はずっと昔から起こってきた事象です。
ですから、競合ひしめく業種・業界であればあるほど、Webサイトの表示速度の遅さが要因のユーザー離れ、顧客離れが起きていると思います。それを正確に計測・把握することは不可能ですが(何しろサイレントですので)、不可能ゆえに一層、恐ろしさを感じるのは私だけでしょうか。
Webサイトの運営において、セキュリティが重要なのは言うまでもありません。しかし、表示速度もまたWebコミュニケーションを成立させるうえで不可欠な要素であり、品質です。ちなみに、同じことがアクセシビリティについても言えます。
「大切なものは目に見えない」とはフランスの作家、サン=テグジュペリの『星の王子さま』に登場することで知られるフレーズです。セキュリティも表示速度も、そしてアクセシビリティも目には見えない、見えにくい品質。目で見てわかりやすい品質はもちろん、そうした目で見てわかりにくい品質も、大切にしていただけたらと願います。
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