欧州アクセシビリティ法の完全施行
エグゼクティブ・フェロー木達 一仁6月28日付で欧州アクセシビリティ法(European Accessibility Act、以下「EAA」)が完全施行されました。単に「施行」ではなく「完全施行」という言葉を用いたのは、公布は2019年6月7日、採択はさらに2019年4月17日まで遡るためです。
以後、段階的に同法は施行されてきました。まず、EU加盟国が国内法をEAAに対応させる期限が、2022年6月28日に設けられていました。そしてEAAの要件が有効となり、適用対象となる各企業に対しEAAへの準拠が義務化されたのが、今年の6月28日です。
この法律については、過去にも「欧州アクセシビリティ法:インクルーシブな顧客体験の推進」というコラムで紹介しています。日本の企業であっても適用対象となる可能性があることから、にわかに注目が高まっているようです。
折しも、当社が業務提携をしているDeque Systems社が先月、アジア太平洋地域の組織に向け、The European Accessibility Act: What APAC needs to know about EAA complianceというBlog記事を掲載していました。本コラムでは、同記事を参考にしつつ、改めてEAAを紹介したいと思います。
まず、そもそもEAAとは何かを端的に表現しますと、EU市場において販売、提供されるさまざまなデジタル製品・サービスを、障害者にとってアクセシブルなものとするための法律です。
すでに触れましたように、たとえ本社が日本国内にあっても、EU加盟国においてデジタル製品・サービスを販売している企業であれば、EAAの適用対象となる可能性が十分あります。
ただし「マイクロエンタープライズ」と称される、従業員数が10人未満で、年間売上高が200万ユーロ以下または年間貸借対照表合計が200万ユーロ以下の企業は、適用対象にはなりません。
企業のWeb担当者の皆様におかれましては、すでに6月28日を過ぎたからといって、慌てないでいただきたいと思います。確かに、EAAに準拠しないことで罰金を科される可能性はありますが、いきなり科されるようなことはなく、是正や改善のための期間が設けられるはずです。
自社のデジタル製品やサービス(Webサイトやモバイルアプリなどを含む)をアクセシブルにするための近道、抜け道は残念ながらありません。まさに「アクセシビリティは一日にして成らず」であり、アクセシビリティ品質の継続的改善に向け着実な一歩を踏み出す必要があります。
最終的に目指すべきは、EAAの参照する欧州規格、EN 301 549に自社製品・サービスを対応させることです。EN 301 549は、さらにWCAG 2.1を参照しています(遠からずWCAG 2.2を参照するよう更新される可能性があります)。従い、基本的にはWCAGを活用して、継続的なアクセシビリティの維持・向上を実現させる必要があるでしょう。
EAAの適用対象か否かにかかわらず、現代においてアクセシビリティへの取り組みは不可欠です。そしてそれは法令遵守のみならず、売上の最大化や組織の持続的発展という観点においても、求められるものです。
来月6日には、Webアクセシビリティ改善の始め方・続け方というセミナーを開催いたします。これからアクセシビリティに取り組もうとお考えのWeb担当者の皆様からのお申し込みを、お待ちしております。
最後に余談ですが、EAA対策に手っ取り早くできることはないかと考え、コードを1行追加するだけでWebサイトをアクセシブルにできるといったうたい文句のサービスを導入するのは、おすすめしません。その種のサービスは一般にオーバーレイと呼ばれます。EUのWebサイトのWeb Accessibilityのページでは、オーバーレイについて次のように記されています。
Overlays, or any other tools which do not ensure the website itself meets the detailed criteria of the standard, are not an appropriate solution. It is best to fix accessibility issues at their source.
(オーバーレイや、Webサイト自体が規格の詳細な基準を満たしていることを保証しないその他のツールは、適切なソリューションではありません。アクセシビリティ上の問題は、その発生源において解消するのが最善です。)
当社の考えは別途、「アクセシビリティ オーバーレイに対する見解」に記したとおりです。オーバーレイ導入の前にご一読、ご一考いただけますと幸いです。
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