口は目ほどにものを言い
テクノロジーアンバサダー榛葉 裕幸「目は口ほどに物を言う」といいます。口で言葉を発するのと同じくらい、眼差しが真意を伝える。Webの世界でも、ユーザーの閲覧行動や検索キーワードから、その意図を読み取ろうと腐心してきました。しかし、こうしたWebサイトのあり方も、今後は変わるのかもしれません。
「口は目ほどにものを言い」とでもいうような、いかにも今日的で、時代の変化を感じさせるWebサイトが登場しています。2026年9月に公開された、米政府のWebサイト「America.gov」は、ページを探して閲覧することよりも、ユーザーの意図(Intent)に直接応えることを重視しています。
America.govが示す、0.5歩先のWeb体験
America.govは、29,000を超える政府サイトの情報をAI検索と組み合わせ、利用者の質問に応じた回答を提供します。米政府は、さまざまな行政サービスへの統一的な「玄関口(Front Door)」と位置づけています(GSAの発表)。
その中心にあるのは、自然言語による対話型のユーザーインターフェースです。利用者は担当する行政機関やWebサイトの構造を知らなくても、何を知りたいのか、何をしたいのかを自分の言葉で伝え、回答を得られます。
ChatGPTやGoogleのAIモードに慣れ親しんだ利用者には、すでにおなじみの体験でしょう。AIモデルにはGoogleのGeminiとSpaceXAIのGrokが採用されていると報じられています。ただし、複数モデルの使い分けや検索基盤の詳細までは公開されていません。
興味深いのは、America.govが従来の政府サイトをリニューアルしたわけではないことです。各行政機関の公式サイトを情報源として残し、その上に新しい対話型インターフェースを設けています。既存のWebサイトを活かしながら、ユーザー体験を刷新しているのです。
一方で、「口は禍の門」ともいいます。自然な言葉で何でも相談できる便利さの裏側には、プライバシーや回答の信頼性という課題があります。
America.govは「Private by Design」を掲げ、アカウント登録を求めず、会話履歴を保存しない設計を採用しています。入力された質問文などに含まれる個人情報は、「Rampart」というオープンソース技術を用い、ブラウザ内で検出・除去を試みます。AIモデル提供者とは、入力や回答を保持しない契約も結んでいます。ただし、生成された回答などの一部はサービス側で一定期間キャッシュされます(America.govのプライバシーポリシー)。
回答の信頼性についても工夫されています。政府公式サイトを検索し、その情報に基づいて回答を生成するとともに、原典へのリンクを示します。もっとも、公式情報を参照しているからといって、必ずしも正しい回答が得られるとは限りません。
現在は情報案内が中心ですが、2027年には申請や登録、進捗確認などを対話の中で行えるようにする計画です。情報を探し、理解するだけでなく、目的を達成するための行動まで支援する。Microsoftの「Agentic Web」やCloudflareの「Agentic Internet」とも通じる方向性です。
AI検索の普及が、企業Webサイトに問うもの
America.govの取り組みは、政府のデジタルサービスに限った話ではありません。ChatGPTやPerplexity、GoogleのAIモードなど、自然言語による対話を通じた情報探索は、すでに身近なものです。企業Webサイトにも、同様の利便性が期待されるようになるとみています。
実際、企業Webサイトでも対話型のユーザー体験が実装され始めています。例えば、アドビの「Brand Concierge」は、既存のコンテンツや製品情報を活用し、顧客の意図に応じた回答や製品比較、レコメンデーションなどを提供するサービスです。
こうした体験を実現する技術も充実しつつあります。Google CloudのAgent SearchやCloudflareのAI Searchなど、既存の情報を活用して対話型検索を構築するサービスが登場しています。CloudflareのAI Searchは2026年10月に一般提供が開始されました。
もっとも、対話型の入口を設けることと、信頼できる回答を提供することは別問題です。
America.govの公開直後、米CBS Newsによる健康関連の質問の検証では、公式情報源同士の内容が食い違い、回答に問題が生じた事例が報告されています。情報の新しさだけでは、どの情報を優先すべきか判断できない場合もあります(CBS Newsの記事)。
これは企業Webサイトにも共通する課題です。製品仕様や料金、サービスの提供条件などに矛盾があれば、AIがそれらを参照しても、適切な回答を生成できるとは限りません。米政府のGSAも、Webコンテンツの管理基準として、情報の鮮度、正確性、一貫性、重複の排除などを求めています(GSAのWebガイドライン)。
ユーザーの意図に応えるWebサイトでは、対話型のインターフェースだけでなく、その背後にある情報の正確性や一貫性が、ユーザー体験の品質を左右することになりそうです。
Webサイトの新しい玄関口
生成AIがさまざまな分野に伸張し、世の中の動きが早回しになったように感じます。
対話型インターフェースがWebサイトの新しい玄関口としてどこまで定着するかは、まだわかりません。ただ、Webサイトの姿かたちは、今後、大きく変化していくように思います。
口は災いの元なのか、はたまた口福をもたらすのか。皆さんは、どう思われますか。
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著者プロフィール
株式会社ミツエーリンクス
テクノロジーアンバサダー
榛葉 裕幸
テクノロジーアンバサダーとして、企業Webに関わる技術の価値や可能性を社内外に伝える活動に取り組む。Web/ITエンジニアリングの実務経験を背景に、企業Webに影響を及ぼす技術トピックや出来事を読み解き、読者の思考の補助線となる情報発信を目指している。
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