DEIへの反発にどう対応するか
多くの企業のデジタルコミュニケーションチーム、特にアメリカのチームは、DEI(ダイバーシティ《多様性》・エクイティ《公平性》・インクルージョン《包括性》)に関する自社の方針変更について、どのように発信するかの話し合いに、2025年の始まりから多くの時間を費やしていることでしょう。
(この記事は、 Bowen Craggs社のWebサイト「Our Thinking」において2025年2月18日に公開された記事「How to respond to the DEI backlash」の日本語訳です)
2025年に入るずっと前から、社会の一部で始まっていたDEIに対する反発ですが、アメリカでは大統領令や司法省の方針によって、その動きがさらに後押しされています。
この状況を受けて、DEIの取り組みを変更または廃止する企業も出てきています。一方、AppleやCostcoのように、少なくとも現時点では取り組みを変更していない企業もあります。
貴社にも取り組みの方針があると思いますが、ここでは企業サイトや関連のチャネルで、DEIについて発信する際の、5つの推奨事項を紹介します。
1. 企業の立場について、正直かつ明確に伝える
もし、企業がDEIに関する方針を変更する場合、その変更内容を企業サイトで明確に、隠さず、迅速に、そして目立つように発表することが重要です。さらに、SNSなども活用して、この企業サイトの情報こそが、方針変更に関する「正しい情報」であることを、ユーザーに周知徹底しましょう。
こうすることが、方針変更に関する世間やメディアの議論を、会社としてコントロールしていく際の助けになります(少なくとも、議論の蚊帳の外になることは避けられます)。何も発信せずに沈黙を守ることは、安全策のように思えるかもしれません。しかし、それは危険な空白期間となります。企業のコントロールが及ばない外部の情報源により、空白を望まない情報で埋め尽くされてしまう恐れがあります。
2. 専門用語を避け、わかりやすい言葉を使う
DEIについて発信する際に使用している言葉を、すべて見直しましょう。
「DEI」という頭字語は、政治的な文脈で攻撃的に使われるケースが増えており、お客様や求職者、従業員など、人によってメッセージの受け取り方が異なる可能性があります。したがって、こうした頭字語は使わずに、誰もが日常生活で使う言葉や言い回しに置き換えるのが良いでしょう。例えば、「誰にとっても公平な雇用の機会」といった表現です。

アメリカのIT大手Oracleの 「Culture and Inclusion」ページでは、「協力」や「帰属意識」といった、よりわかりやすい言葉でメッセージを伝えています。
3. ダイバーシティへの取り組みを、具体的なビジネスメリットとひも付けて伝える
アメリカのIT大手Oracleは、「Culture and Inclusion」ページで、これを巧みに実践しています。同社は、このページの冒頭で「Diverse perspectives make our teams stronger and empower collaboration (多様な視点が私たちのチームをより強くし、コラボレーションを促進する)」と明記しています。
同様に、アメリカの小売大手Costcoは、Webサイトで次のように記載しています。「従業員一人ひとりの多様な背景、視点、意見を尊重することが、創造性、革新性、満足度、そして帰属意識の向上につながると、私たちは信じています。多様性を大切にすることは、事業を展開する地域社会、共に働くサプライヤー、そして従業員同士のつながりを深め、私たちの企業文化を豊かにします」。
4. 社内と社外で、コミュニケーションに一貫性を持たせる
DEI関連の問題に対する会社としての立場を決めたら、社内外のどちらにも通用する言葉で、その内容を表現することが重要です。
ダイバーシティに関する社内向けのメッセージと社外向けメッセージを、切り離して伝えたくなる誘惑に乗ってはいけません。弊社のコンサルタントが最近話を聞いた多くの経営層は、従業員が会社のDEIへの取り組み継続を求めて安心したがっている声と、外部から取り組みの縮小を求める圧力との間で、どう折り合いをつけるべきか頭を抱えています。
社内ではAと言いながら、社外ではBと言うような二枚舌のメッセージは、もし社内メッセージが外部に漏れてしまえば、会社への信頼を大きく損なう危険性があります。
5. 従業員に「生の声」を発信する機会と権限を与える
役職に関係なく、あらゆる立場の従業員に、企業のWebサイトやInstagramなどのSNS上で、会社での経験や思いを発信する機会と権限を与えましょう。
こうした発信は、DEIに関する方針がまだ固まっていなかったり、意見が激しく対立していたりする状況でも、ダイバーシティが組織内で実際に根付いているかどうかを力強く示す方法です。例えば、イギリスのメガバンクHSBCの「Life at HSBC」 Instagramフィードは、活気に満ちた多様な従業員が活躍している様子を伝えています。これは、どうすれば説教くさくない形で、多様性の実践を示せるか、という点で素晴らしい例です。
コミュニケーションチームは、会社のDEIに関する方針そのものには、直接関与はできないかもしれません。しかし、その方針をどのように伝えるか、という部分には関与できます。透明性を高め、専門用語を減らし、従業員に「生の声」を語ってもらうことで、極端に分かれた政治的な議論を乗り越え、あらゆる閲覧者に伝えたいメッセージや重要な事実を、しっかりと届けられるようになります。