沈黙か戦略か? 不確実な時代の企業コミュニケーション
3月は通常であれば、企業コミュニケーションの状況をじっくり見直すような月ではありません。しかし、今は「通常」というには、ほど遠い時代です。
(この記事は、 Bowen Craggs社のWebサイト「Our Thinking」において2025年3月6日に公開された記事「Silence or strategy? Corporate communications in an age of uncertainty」の日本語訳です)

企業は今、地政学的な不安定さの渦中で、自社の考えを発信するべきか、あるいは沈黙を守るべきかの決断を迫られています。
地政学が、企業のコミュニケーション担当者に、これほど直接的に影響を及ぼしたことは、これまでありませんでした。これは、今から5年以内に発生した新型コロナウイルスやBlack Lives Matter運動が、社会に与えた激震を考えても、特筆すべきことです。
Bowen CraggsのCEO、Scott Payton氏が、2024年12月に発表した「2025年の予測」は、すでに現実のものとなりつつあります。しかし、Scott氏もきっと同意すると思いますが、状況が変化するスピードには誰もが驚いています。そして、新しいアメリカ政府やその他の世界的な出来事などの予測不可能性によって、それは大きく加速しています。
「企業コミュニケーションの危機は、すぐに急増するとは断定できないが、可能性は高い」、とScott氏は2025年の予測で書きました。これが現実になるどころか、それ以上の事態になっていることは、言うまでもありません。特に、DEI(ダイバーシティ《多様性》・エクイティ《公平性》・インクルージョン《包括性》)や気候変動に関する取り組みの方針転換が、迅速果断に実行されたことは、多くの企業にとって想定外の事態でした。唯一、確実なことといえば、今後も予測不能な事態が増えることです。
こうした状況を受け、企業が時事問題に対して、立場を公にすることを避ける傾向が加速しています。今や多くの組織にとって、単に目立たないようにするというレベルではなく、完全な撤退に近い状況です。
人種差別や気候変動への取り組みが急速に進んだ2020年が、遠い昔のように感じられます。当時、対面でのコミュニケーションが制限されていたことで、企業のデジタルチャネルは最前線にありました。終わりの見えない危機が続く今、再び同じように最前線に立たされています。これはデジタルチャネルこそが、企業の公式な見解や方針を知る場だと、人々が学んだからです。
ここ数年、Bowen Craggsをはじめ多くの専門家が指摘してきたように、誤情報や偽情報が飛び交う時代において、重要な問題に関しての本物の情報を求める声は高まる一方です。注意すべきは、もはや時事問題は自社だけで定義できるものではなく、地政学や閲覧者自身によって定義される、という点です。だからこそ、閲覧者の声に耳を傾けることが非常に重要です。
しかし、多くの企業は単に沈黙を貫くか、より広範な社会問題に関するコンテンツを人知れず削除しています。
何かを発信するとしても、それは社内向けの通達か、一部の限定的なイベントなどです。もはや、社内と社外のコミュニケーションの間に明確な区別はないという事実を、アメリカのニュースサイトAxiosの記事などが示しているにもかかわらず、こうした対応が取られているのです。
もちろん、あらゆる方面から批判を招く可能性のある情報を、貴社がデジタルチャネルに掲載するかどうかの判断は、非常に複雑です。この極めて過激で困難な時代には、コミュニケーション部門がその判断を完全に制御できない可能性があります。まるで嵐の中心にいるような状況では、じっと身を潜める選択肢しかないのかもしれません。
こうした状況に直面すると、聞くことや伝えることから逃げ出したくなる気持ちもわかります。しかし、今まさに耳を傾けるべきは、貴社の情報を必要としている人々です。彼らの声に耳を傾けることで、現在起きている、もしくは、これから起こりうる、予測不能な危機を乗り越えるためのコミュニケーション戦略を練ることができるのです。だからこそ、WebサイトやSNSといったあらゆるチャネルを通じて、人々の声に耳を傾ける準備を整えてください。そうすることで、いざ情報発信が必要になったとき、状況を深く理解し、自信を持って適切なメッセージを届けることができるでしょう。