企業のデジタル担当部門が押さえておきたい「CSRD」の本当の意味とは
サステナビリティ報告は大きな転換期を迎えており、デジタル担当部門にはこれまで以上に高度な対応が求められています。

スポーツ用品メーカーPumaによるオンラインサステナビリティ報告の好例
(この記事は、 Bowen Craggs社のWebサイト「Our Thinking」において2025年6月5日に公開された記事「Demystifying CSRD: what the new rules really mean for corporate communicators」の日本語訳です)
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)に代表される新しいルールが次々と登場する中、略語の多様化や政治的分断、変わり続ける規制基準などにより、企業は「いま本当に求められていることは何か」、そして「どうすれば魅力的なサステナビリティ・ストーリーを継続的に発信できるのか」といった課題に直面しています。
こうした背景のもと、先日開催したBowen Craggs Club のイベントには、ロンドンのブランディング支援企業Design Bridge and PartnersのコンサルティングディレクターであるJanice Lingwood氏をお招きし、CSRDの複雑な枠組みと、それが企業のWebサイトにどのような影響を与えるか詳しく解説していただきました。
ここでは、Janice Lingwood氏が解説した実践的な6つのポイントを紹介します。:
1. コンプライアンスとコミュニケーションは別物
「規制への準拠が、サステナビリティに関する貴社のコミュニケーション目標の達成につながるとは限りません」とJanice Lingwood氏は強調します。この「コンプライアンス」と「コミュニケーション」の違いこそが、セミナーを通じて繰り返し伝えられた重要なメッセージの一つです。
CSRDは、年次報告書の中で、投資家向け報告のために設計された、コンプライアンス活動です。それはステークホルダー全体に向けて、明快で魅力的なサステナビリティ・ストーリーを発信することの代替にはなりません。だからこそ、デジタル担当部門は「規制を満たすこと」を最優先するあまり、オンライン上のサステナビリティ情報を削りすぎないよう注意する必要があります。
2. ダブル・マテリアリティはCSRDの基礎であり、最大の課題
CSRDの中心となるのが「ダブル・マテリアリティ(二重の重要課題)」という考え方です。これはサステナビリティ問題が自社の財務にどのように影響するか(ファイナンシャル・マテリアリティ)と、自社が社会や環境にどのような影響を与えているか(インパクト・マテリアリティ)の両方を評価するというものです。
このアプローチは非常に複雑ですが、極めて重要になります。「インパクトの視点から何が重要なのかを理解しなければ、財務的な評価は成り立ちません」とJanice 氏は説明します。多くの企業はこれまでのGRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)ベースの評価を見直そうとしていますが、最も効果的な方法は部門横断で高い視点を持つチームを編成し、ゼロから評価を構築することだと指摘しています。
3. サステナビリティの発信を止めないで
CSRD対応を急ぐあまり、独立したサステナビリティレポートを廃止したり、オンラインコンテンツを縮小したりする企業もあります。しかし、Janice氏はそれを「重大な誤り」と指摘。「数年後、『あのとき、やめるべきではなかった』と後悔する企業が出てくるでしょう」と語っています。
優れた事例紹介や記事、キャンペーン主体のコンテンツは今もなお重要です。「年次報告書は記録文書であり、それだけが戦略や成果を伝える手段ではありません」と彼女は強調します。
4. 言葉の使い方に注意する
「ダブル・マテリアリティ」や「バリューチェーン・キャップ」などのサステナビリティ報告の言語は、これまで以上に専門的かつ政治的に変化しています。Janice氏は「そのテーマが自社にとって何を意味するのかを定義し、閲覧者がそれを理解し同意しているとは限らないことを前提にするべきです」と述べ、明確さと一貫性の重要性を強調しました。
特にESG用語に対する国際的な緊張が高まる中では、正確な用語の使用は法的にも、コミュニケーションの観点からも必要不可欠です。
5.変化は常にあるため焦りは禁物
EU指令、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)基準、さらには各国の政治的動向などが流動的である今、Janice 氏は「必要以上に早く動かないこと」とアドバイスします。
まだCSRDの対象外である企業は、現時点の基準に縛られるようなコンテンツを公表するのは避けるべきです。その代わり、まずはダブル・マテリアリティに関する社内プロセスをしっかり構築することが重要です。「一度コンプライアンスを準拠すると宣言してしまうと、その時点の基準を忠実に従わなければいけなくなります」と警告しています。
6.読み手を意識したコンテンツ構成を意識する
CSRDを初めて対応する企業でも情報過多によって読み手を圧倒してしまうリスクがあります。Janice氏は「一部の報告書は、ただの膨大な情報の塊になってしまっています」と指摘し、そのうえで、以下のような二層構造での情報提供を提案しています。
- 戦略的な報告書の中に、全体像を伝える要約を盛り込む
- 補足的な開示情報(付録や「追加情報」エリアなど)を独立したセクションにまとめる
この構成により、全てのステークホルダー、特に投資家が必要な情報を的確に見つけやすくなります。