AI対応を目的にしないアクセシビリティ――Web担当者が優先すべきユーザーニーズ
エグゼクティブ・フェロー(CBO)木達 一仁アクセシビリティツリーをテーマに講演
8月27日、株式会社インプレス Web担当者Forum主催のオンラインイベント、「生成AI × マーケティング フォーラム 2026」に登壇させていただきました。当日の配信の模様は、広報Blogでご紹介しています。
私のセッションタイトルは『「誰でも使える」は「AIにも使える」 人間と機械の両方に読まれるためのアクセシビリティツリー』。世にアクセシビリティに関する講演は数あれど、Web担当者向けでアクセシビリティ「ツリー」に特化したものは、あまり類を見ないように思います。
アクセシビリティツリーとは、Webブラウザーが内部的に生成するデータ構造のことです。たとえば、視覚障害のあるユーザーが利用するスクリーンリーダーのような支援技術は、アクセシビリティツリーを介してWebコンテンツにある情報や機能をユーザーに伝えます。
40分という講演時間は、私にとってはやや短い部類のものであり、取り上げる内容は厳選せざるを得ませんでした。それでも、少しでもWeb担当者の皆様にとって実践的な内容となるよう、Google Chromeを使ったデモンストレーションを織り交ぜるなどしました。
その甲斐あってか、アンケートでは好意的な評価をいただき、また「非常に分かりやすく、情報量の多い内容でした」「アクセシビリティはAI対策としても重要と理解していたが、改めて確信することができた」といった有り難いコメントも頂戴しました。
AIエージェント対応とアクセシビリティツリーの関係
従来、Webコンテンツと支援技術、ひいては障害のあるユーザーとの橋渡し役として注目されてきたアクセシビリティツリーが、一部のAIエージェントにとってWebを理解するための接点にもなりつつある点は、私以外の識者の方々も指摘してきたことです。
たとえば、2026年4月にNielsen Norman Groupのサイトに掲載された、「AI Agents as Users」という記事があります。株式会社イード リサーチ事業本部の運営するU-Siteで、その日本語訳「ユーザーとしてのAIエージェント」を読むことができます。一部を以下に引用します。
アクセシビリティへの投資はこれまでも正しいことだったが、今ではビジネス上の観点からも明確な根拠がある。というのも、短期的には、エージェントはアクセシビリティに対応したインタフェースを通じてプロダクトやサービスを利用することになるからである。
アクセシビリティのビジネス上の意義は、AIエージェントへの対応が注目される以前から、機会損失の最小化として存在していたと私は思います。そのうえで、AI時代にはアクセシビリティへの投資がますます重要になるという主張に同意します。
また、当社がアクセシビリティ分野で提携しているDeque Systems社のCEO、Preety Kumar氏は2026年7月に公開したBlog記事「For your business to thrive in the agentic AI era, treat accessibility as foundational to your AI strategy」のなかで、
Accessibility for humans became visibility for AI.
(人間にとってのアクセシビリティが、AIにとっての可視性となった。)
というNeil Patel氏の言葉(リンク先はYouTube動画)を引用・紹介していました。上記のフレーズは、私が「生成AI × マーケティング フォーラム 2026」で共有したかった要点を、非常に的確に表現していると思います。
改めて見直したいユーザー起点の原則
そういうわけで、AIエージェントの登場がWebアクセシビリティの重要性と必要性をさらに高めている、というのが私の講演の主たるメッセージではあるのですが、同時に強調したポイントが2つあります。
第一に、アクセシビリティに取り組めばAIエージェントへの対応が必要十分かといえば、そうは限らない点。Webコンテンツに求められる機械可読性は、WebMCPの是非を端緒の1つとして、今後再定義される可能性があります(コラム「WebMCP起点で考えた、GEO/LLMO時代のWebアクセシビリティ」参照)。
第二に、AIエージェントより生身のユーザーにまず意識を向けましょう、という点です。昨今の業界のトレンドだけに、Web担当者の皆様の目はAI対応に奪われがちかもしれませんが、すべてのユーザー、すべてのアクセスがAIによるものに置き換わるわけではありません。
AIエージェント対応の副産物としてアクセシビリティに取り組むのではなく、障害の有無や年齢等にかかわらず誰もが使える・誰にも使いやすいWebサイトを目指した結果として「AIエージェントにも」閲覧・操作が可能な状態を実現することが理想と考えています。
講演のなかでも紹介しましたが、W3Cの策定したWeb Platform Design Principlesの1.1. Put user needs first (Priority of Constituencies)には、次のようなフレーズがあります。
User needs come before the needs of web page authors, which come before the needs of user agent implementors, which come before the needs of specification writers, which come before theoretical purity.
(ユーザーのニーズは、Webページの制作者のニーズより優先され、制作者のニーズはユーザーエージェントの実装者のニーズよりも優先され、実装者のニーズは仕様の策定者のニーズよりも優先され、仕様の策定者のニーズは理論上の純粋さよりも優先される。)
従来のWebブラウザーもAIエージェントも、ユーザーエージェントに属します。しかし、W3Cが示す優先順位では、ユーザーエージェント実装者のニーズは、ユーザーエージェントを介してWebを利用する人間のニーズより下位に置かれるのです。
この優先順位づけは、AI時代を迎えてなお有効です。むしろ、AIエージェントへの対応が注目される今だからこそ、ユーザーを起点に考える原則を、これまで以上に意識する必要があるのではないでしょうか。
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