WebMCP起点で考えた、GEO/LLMO時代のWebアクセシビリティ
エグゼクティブ・フェロー(CBO)木達 一仁少し前のことですが、Cloud Four社のサイトで「Improvements to Web for AI Should Benefit All Users(AI向けに行うWebサイトの改善は、すべてのユーザーに恩恵をもたらすべき)」という記事を読みました。そのなかで、WebKitプロジェクトの方が、WebMCPに反対意見を表明していたことを知りました。
ちなみにWebKitとは、AppleのWebブラウザであるSafariや、iOSおよびiPadOS上のすべてのWebブラウザで使用されているブラウザエンジンのことです。WebMCPについては以前、コラム『LLMO時代に改めて考えたい、Webの「ワンソース・マルチユース」』にて
WebMCPとは、WebアプリがAIエージェントに対し、MCP文脈で呼ばれるところの「ツール」を公開できる仕組みのことです。既存のWebアプリが、AIエージェントとより効率的に連携できるようになるAPIとして目下、期待を集めています。
と紹介しました。私が、先述のWebMCPに対する反対意見のなかで興味深く感じたのが、冒頭で紹介したCloud Four社の記事でも引用されている、以下の主張です。
When a site's actions are hard for an agent to use, that is a gap in the page's own semantics, and the fix, in our opinion, is to close it in the platform's shared layers (HTML and ARIA), where the user, assistive technology, and agents all benefit.
Webサイトの動作がエージェントにとって利用しにくい場合、ページ自体のセマンティクスに存在するギャップに原因があり、プラットフォームの共有レイヤー(HTMLやARIA)においてギャップを埋めることが解決策になると私たちは考えています。そうすることでユーザー、支援技術、エージェントのすべてに恩恵がもたらされます。
既存のWebに対し、AIエージェントによる操作性を追加しやすい点で、WebMCPは悪手ではないと思っていたのですが、上記の主張には一理あります。Webページに直接アクセスし操作するのが人間であろうとAIエージェントであろうと、同一の実装で一貫した操作性を提供することが理想であり、本来ありたい姿と考えるからです。
しかし同時に、「プラットフォームの共有レイヤー(HTMLやARIA)においてギャップを埋める」には相当な時間を要するのではないか?AIエージェントの進化や普及のスピードにマッチしないのでは?との懸念を抱きます。WebMCPについては仕様が議論中ながら、すでにGoogle Chromeがバージョン149でサイト単位の先行利用(オリジントライアル)を提供している事実もあります。
ですから、個人的には直近のニーズに対処すべくWebMCPの標準化や実装を進めつつ、それと並行して先述のギャップを埋める取り組みを進めるのが良いのでは、と感じました。ギャップが解消された暁には、WebMCPは不要な技術となるかもしれませんが、Webコンテンツの人間可読性と機械可読性をより高いレベルで両立し得る時代の到来として、歓迎すべきでしょう。
Cloud Four社の記事は、対処すべきニーズの優先順位に話を広げ、最終的に以下のように結んでいます。
I hope we can all agree that user needs come before agent needs. We should keep this in mind as we consider proposals to modify the web to support AI.
ユーザーのニーズがエージェントのニーズよりも優先されるという点に、同意いただけることを願います。AIに対応すべくWebを変更する提案を検討する際は、この点を念頭に置いておくべきです。
私も同感であり、アクセシビリティを高めることがAIエージェントへの対応につながることはコラム「AIエージェントに対応するための土台、Webアクセシビリティ」で触れたとおりですが、ユーザーすなわち人間に対してアクセシビリティを高めた結果が、AIエージェントを含むAI技術全般へのアクセシビリティ向上となるべきで、その逆は本末転倒になりかねないと考えます。
そのような本末転倒を憂う意見を、TechPolicy.Pressの「The Web Is Being Made Accessible for AI, Not People(Webは人間のためではなく、AIのためにアクセシブルにされつつある)」という記事で読みました。
Accessibility is a civil right. Treating it as a fortunate side-effect of fashionable AI development is another way of saying that disabled people’s needs, on their own, were never considered sufficient.
アクセシビリティは市民権です。それを流行のAI開発がもたらす幸運な副産物として扱うことは、障害者のニーズそのものが、それだけでは決して十分とは見なされてこなかった、と暗に認めることに他なりません。
GEOやLLMOをはじめとする、いわゆるAI対応が業界的に話題に上がりがちの昨今、ともすればユーザー=人間の存在を二の次に捉えて施策を立案・実行されかねない懸念を感じます。
AI対応が不要などとは微塵も考えていませんし、そもそも当社はGEO / LLMOコンサルティングを提供する立場です。しかしWebを利用するユーザーなり機会が、すべてAIエージェントやAI技術を介在したものに置き換わったわけではありませんし、近い将来に100%置き換わるとも限りません。AI技術を意図的に頼らないユーザーは、当面のあいだ一定数いらっしゃるはずです(コラム「問われるAI技術とWebブラウザの距離感」参照)。
私たちがデザインしているのは本質的にはコミュニケーションなのであって、向き合うべきはWebサイトやAI技術の向こう側にいるユーザーであることを、片時も忘れるべきではないでしょう。
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