TPAC 2014 レポート3 W3C 20周年シンポジウムから

アクセシビリティ・エンジニア 黒澤

引き続き、米国サンタクララで開催されたTPAC 2014のレポートをお届けします。TPAC 2014 3日目の10月29日にはW3C 20周年を祝うシンポジウムと晩餐会が開かれました。

シンポジウムではW3C CEOのJeff Jaffe氏による挨拶、招待講演、招待パネルディスカッション、Tim Berners-Lee氏のスピーチが行われました。この記事では、招待講演の中からJessica Rosenworcel氏の講演「Access for All」について紹介します。なお、この記事では敬称は全て省略しています。

Webはあらゆる人のためのもの

Jessica Rosenworcel氏は米国連邦通信委員会(FCC:Federal Communications Commission)の委員(Commissioner)の1人です。彼女の話は、Webはあらゆる人のためのものです、から始まりました。そして、モダンな生活と人々の間にある障壁をWebを使って壊すにはどうれば良いのか、と続きました。彼女自身、答えはまだわからないとしながらも示唆に富む内容をいくつか紹介しました。この記事では特に印象的だったRay Kurzweil氏に関する話を紹介します。彼は1974年にどんなフォントで印刷された書類であっても読み取ることのできるOCRを開発した人物です。

Ray Kurzweil氏のOCR開発

ある日、飛行機にのったRay Kurzweil氏は隣の席に座った視覚障害者に出会い、(視覚障害者向けでない)書類を読めないことが最大の障壁の1つであるという話を聞きました。そこで彼は、印刷された書類を読み上げる装置の開発を始めます。その装置は、書類をスキャンできなくてはなりません。そこで彼はフラットベッドスキャナーを開発しました。また、読み取った内容を読み上げる技術も必要です。そこで彼は音声合成技術も開発しました。こうして、彼は書類を読み上げる装置を開発しました。

数年後、(判例データベースなどを販売している)LexisNexisが法律文書のスキャンに彼のOCRを使うようになりました。現在では、どこのオフィスにもフラットベッドスキャナーはあるでしょう。その後、OCRは書籍のデジタル化にも使われ、数千万の書籍がオンラインで検索できるようになりました。さらに、スマートフォンのカメラで撮影した外国語の認識にもOCR技術は使われています。OCRは(視覚障害者だけではなく)誰にとっても便利な技術になりました。

ウェアラブルデバイスや、自動車の自動運転技術、バーチャルリアリティ、RFIDについても考えてみてください。アクセシビリティの可能性は無限です。

まとめ

アクセシビリティというと、障害者・高齢者のためだけのものに思われがちですが、そうではなく、文字通り誰もがアクセスできることを目指しています。そのための技術は、最初は障害者などから利用されるのかもしれませんが、最終的には誰にとっても当たり前の技術になっていくのだろうと感じました。

彼女の講演にはキャプション(≒字幕)に関する法律(CVAA:21世紀における通信とアクセシビリティに関する2010年法)の話もありました。彼女の講演にはありませんでしたが、キャプションが機械可読な形式で提供されることで、キャプションによる映像コンテンツの検索サービスなども始まっています。

Webは誰もがアクセスできるものであり、アクセシビリティに今、取り組むことで、Webをこれまでよりも便利にできる、と勇気づけられる講演でした。