2021年のWebアクセシビリティ

エグゼクティブ・フェロー 木達

毎年恒例となっているgihyo.jpの新春特別企画に、当社アクセシビリティ・エンジニアの中村直樹さんが「2021年のWebアクセシビリティ」という記事を昨年に続き寄稿しました。W3C/WAIの策定するガイドライン、Web Content Accessibility Guidelines(WCAG)を中心に、WAI-ARIAやリモート会議にも言及しつつ、今年のWebアクセシビリティ界隈の動向について短期的な予測をまとめています。

......という紹介、宣伝だけで終わらせるのも味気ないので、個人的な感想を記したいと思います。まずは、今年勧告が予定されているWCAG 2.2について。本稿執筆時点では、Accessibility Guidelines Working Group Project Planには記載していたスケジュールをTimelines/ - WCAG WGに移動したと記されているのですが、そこからリンクをたどった先にあるWCAG 2.2 Timeline - WCAG WGを見ますと、今年7月に勧告予定のようです。

勧告時期はさておき、押さえておくべきポイントは、WCAG 2.1と比べ最大9つの達成基準が新規追加され、また既存の達成基準の1つがレベルAAからレベルAに適合レベルを変更される(かもしれない)点です。達成基準が増え、ガイドラインが充実するのは素晴らしいと思ういっぽう、達成基準を満たすために必要なコストが、WCAGのバージョンとともに右肩上がりとなりかねない点を少しばかり心配してもいます。

もちろん、勧告されたからといって即、WCAG 2.2を使わなければいけないわけではないですし、そもそも法律などにより特定のレベルへの適合を求められない限り、満たすべき達成基準は組織ごと・サイトごとの考え方なり事情を踏まえ自由に選定して良いと私は考えているのですが......とはいえ

ISO/IEC 40500が更新されるよりも早く,EUがWCAG 2.1に代わってWCAG 2.2を採用する可能性があることになります。ISOの動向とは別にEUの動向についても抑えておく必要はあるでしょう。

とのことですから、ヨーロッパを商圏に含む企業、グローバルサイトを運用している組織にお勤めのWeb担当者の皆様であれば特に、WCAG 2.2の今後を気にかけていただいたほうが良さそうです。また達成基準を満たしているかどうかの検証が今後どこまで省力化できるか、そのための技術動向やAccessibility Conformance Testing (ACT)にも注目する必要があると思います。当社が提携しているDeque Systems社のBlog記事、What to Expect From WCAG 2.2

Deque is planning to make WCAG 2.2 available as an option for our audits as soon as it is available. We also plan to add new rules to axe-core for WCAG 2.2, and new guided tests to axe Beta.

とありますように、既に同社の検証ツール及びそれらに組み込まれているaxe-core(オープンソースのアクセシビリティ検証ライブラリー、axeのエンジン)では、WCAG 2.2への対応が進められています。axe/axe-core関連の情報発信、今年はもう少しタイムリーにしていきたいところです。続いて、記事2ページ目の「リモート会議とアクセシビリティ」で触れられている、日本版VPATについて。

米国の制度ではVPATが存在する一方で,我が国では,日本版VPATについての議論がようやく始まったところです(参考:令和元年度 当事者参加型技術開発の仕組み及びICT機器・サービスの情報アクセシビリティの確保に関する調査研究 報告書⁠)。VPATはハードウェアやソフトウェアも包括するものではありますが,我が国でのVPATがWebアクセシビリティに与える影響というところも見逃せないものであると筆者は考えています。

記憶の限り、私がこの種の議論を初めて認識したのは、半歩前進した、政府調達での情報アクセシビリティ対応 - アゴラという、東洋大学の山田名誉教授が2019年3月にお書きになった記事です。それからもうじき2年が経つわけで、コロナ禍によりデジタルシフトが一層加速するなか、実現に向けた議論なり検討のスピードを上げていただく必要があるのではと感じています。