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インターナル・マーケティング 円滑なコミュニケーションだけが組織の実行力を向上する

2003年11月28日

ビジネス開発チーム
棚橋 弘季

ビジネスにおいて「何かがうまくいかない」と感じたら、まず社内外のコミュニケーションを見直すことが必要だと思います。それをせずに、いくら他の部分で、業務の効率化やコストの削減、販売戦略の変更、組織変更などの改善施策を実施しても、おそらく「うまくいかない」何かが改善されないばかりか、事態は悪化ばかりするでしょう。

どうしてなのか? 問題の真っ只中にいる人はきっと頭を抱えることでしょう。しかし、これはよく考えれば当然です。事実をとらえずに改善はできるわけがないのです。ただ、事実は、はっきり目に見える形、文書やデータとして残っているものばかりとは限らないのがやっかいなところです。ビジネスの現場では、文書やデータとして残っているものとは比較できないほど膨大なコミュニケーションが社内外問わず行なわれているはずです。さらに、最も目に付かず見つけにくいコミュニケーションの不在(ディスコミュニケーション)さえあります。ビジネスの改善を本気で考えるなら、こうした日々の現場のコミュニケーションに分け入らなくてはなりません。実際のコミュニケーションの現場から事実を見つけ出し、同時に、どんなコミュニケーションの欠如が事態を悪化させていたかという真相をあなたは知る必要があるわけです。

遠くの顧客より、近くの社員

さて、世の中のマーケティングの教科書には必ずと言っていいほど、「マーケティングとは顧客の期待を知り、顧客の期待に応えることだ」といった旨の言葉が書かれています。実際、私自身、同じ内容のことを書いてきましたし(⇒例えば、ここ)、企業の主要な活動が何より「顧客を創造し、維持すること」(ドラッカー)だとすれば、マーケティング活動としての顧客とのコミュニケーションの重要性はいまさら疑う余地はありません。

しかし、よく考えてみてください。顧客の期待を知る業務を行うのも社員なら、顧客の期待に応える業務を行うのも社員です。よほど小さな企業でもない限り、この2つの業務を行うのは、それぞれ別々の社員だったりするのではないしょうか。別々の人間どころか、大抵の企業では複数の部署にまたがった別々の業務として行なわれていることのほうが多いでしょう。そうなると、社員同士や部署間のコミュニケーションが問題となってきます。社員同士、部署同士のコミュニケーションが滞れば、「顧客の期待を知り、顧客の期待に応える」という流れが切れてしまいます。当然、結果として、顧客の獲得、維持に問題が生じ、期待通りの業績を上げることができなくなってくるでしょう。

業績の改善を考えるなら、遠くの顧客とのコミュニケーションを考える前に、まず近くの社員同士のコミュニケーションに問題がないかどうかを見直さなくてはなりません。

インターナル・マーケティング

実はマーケティングの教科書の中にも、こうした社内のコミュニケーションに言及したものはあります。マーケティングの用語では、顧客を対象とした一般的なマーケティング活動を「エクスターナル・マーケティング」と呼ぶのに対して、社内の人間を対象にしたマーケティング活動を「インターナル・マーケティング」と呼びます。

フィリップ・コトラーは「エクスターナル・マーケティングの前にまずインターナル・マーケティングが必要である」と述べています。その理由は最初に私が述べたのとほぼ同様で、「社内のスタッフが素晴らしいサービスを提供する心構えができていないのに、そのようなサービスを顧客に約束するわけにはいかないからだ」(『コトラーのマーケティング・マネジメント』、ピアソン・エデュケーション刊)としています。マーケティングとは「売れる仕組みづくり」だと定義できますが、インターナル・マーケティングは「売れる仕組み」において最重要課題だと認識しなくてはなりません。どんなに立派なビジョンや優れたマーケティング戦略、売れそうな製品があっても、それが社内で理解、共有されていなければ、顧客のところまでその価値が届けられることは決してないのですから。

コミュニケーションはトップダウンでなければうまくいかない

インターナル・マーケティングの方法にも様々なものがあります。社内情報共有システム、社内報、社内会議(全社会議、部内会議など)、社内メーリングリストなど。しかし、インターナル・マーケティングにおける重要なポイントはどんなツールを使うかではなく、コミュニケーションにおける働きかけの方向を、上から下に行うようにすることです。

ビジネスの現場ではよく「ほうれんそう(報告、連絡、相談)」という言葉が徹底されます。通常、「ほうれんそう」は下から上へのコミュニケーションで、この方法が意味を持つのは、きちんとルーティン化されていることで成果があがる環境においてです(あるいは、下の人間の高い個人スキルだけで十分成果が得られる特殊な場合です)。しかし、現在のように変化の激しいビジネス環境においては、同じことをずっとやり続けていたのでは成果は得られず、業務においても日々変化することが必要となっています。こうした環境においては、「ほうれんそう」による部下からの働きかけを待っているだけの管理職では「成果をあげる」という職務を果たすことはできないでしょう。その意味で、部下の働きかけを待つのではなく、上司のほうから部下に働きかける必要があるのです。

また、最初にビジョンがあり、戦略を策定し、そして、実行に移すというビジネスの流れを考えても、先に働きかけを行うべきは、部下ではなく上司だと言えるでしょう。部下の働きかけに頼っているようでは、事業を戦略的、計画的に進めることは難しく、場当たり的なビジネスになってしまうのは避けられません。そして、「ほうれんそう」が中心のコミュニケーションでは、現時点では業務にはさほど関係はないが、事業の将来には大事な意味をもつ事実などが、部下の判断により報告されないまま、埋もれてしまう可能性もあるでしょう。上に立つものは、目の前の業務に集中している部下がそうした判断を下した場合でも、適切な質問により貴重な事実の掘り起こしをしなくてはならないのです。

コミュニケーションこそ、会社の業績を担うトップの責任

ところで、トップダウンというと、いい意味でも悪い意味でも民主的な日本のビジネス環境に合わないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、トップダウンでコミュニケーションの働きかけを行うことは、トップダウンで指示、命令を行うのとは別物です。初めから方針、方向性を決めて部下に指示しろというのではありません。むしろ、上の人間は自分の視界に入っていない現場の情報を部下とのコミュニケーションの中に見出しながら、きちんと事実をとらえた上で戦略、方向性を明確に打ち出す必要があるのです。そして、組織における階層の上にいる人間だけが、コミュニケーションが不在の社員間、部署間を取り持ち、必要なコミュニケーションを行わせることができるでしょう。

さて、このコラムを読んでいただいている方の中には、自社のWebサイトがどういうわけか効果をあげられないとお悩みの社長や管理職の方もいらっしゃるかもしれません。もしそうなら、こう考えてみてください。効果が出ない原因は決して優秀な人材が不足しているからではなく、優秀な人材にあなたがコミュニケーションをとることを怠っているからだ、と。自社製品の顧客の認知がいまひとつなのは、あなたが部下とのコミュニケーションを疎かにしていることに原因があるのだ、と。一度、現場で担当している社員とじっくりコミュニケーションをとってみてください。あなたがこれまで考えてもわからなかったことがきっと「なんだ、そんなところに原因があったのか」と驚くほど、あっさりわかってしまうでしょうから。