Smart Communication Design Company
ホーム > ナレッジ > コラム > 2005年 > リッチメディアコンテンツの可能性

リッチメディアコンテンツの可能性

2005年8月26日

ミツエーメディアクリエイティブ デザイナー
川村 健一

ある新聞社が行った調査によると、消費者の実に86.5%が「特に今欲しいモノはない」と答えています。この数値が本当であれば、日本経済はとっくに破綻していることでしょう。現実にはヒット商品と呼ばれる製品は沢山あります。ではなぜこのような結果が出たのでしょうか?この理由はアサツー ディ・ケイがおこなった「パリティ認識の実態」※1をご覧いただけると分かります。各社が商品の広告や開発費に莫大な費用をつぎ込んでいるにも関わらず、消費者は非情にも、どの企業の製品を買ってもそれほど違いが無い、と考えています。

パリティ認識の実態、および日本と世界9地域のパリティ認識の比較

このような中、ヒット商品とよばれる製品はたしかに存在します。業績を伸ばしている企業も沢山あります。つまり、今の消費者には購買意欲はある、しかし特別欲しい何かが見つからない状態にあると考えられます。

では、成功を収めている企業は他社と何が違うのでしょうか。ここでは業績の裏側を探るとともに、我々Web制作者がお手伝いできることについて述べていきたいと思います。

モノから体験へ

ローマの休日といえば、オードリー・ヘプバーンが出演していることで有名な映画です。この映画の中でオードリーが乗るスクーターがあります。このバイクの名称はVespaというのですが、私が学生の頃にファッションアイテムとしてちょっとしたブームになりました。当時の価格で約30万円、学生の私には余りにも高い買い物です。にもかかわらず、3つのバイトを掛け持ちしながらこのバイクを購入しました。Vespaのデザインに影響を受けた、手ごろな値段のバイクは沢山ありました。でも他のバイクでは駄目でした。なぜなら私にとって、Vespaはバイクでは無く、ファッションアイテムだったからです。映画でオードリーたちが華麗に乗りこなす姿を思い、このバイクを乗っている人たちとの一体感を噛み締めながらローンを支払い続けたものです。

同じバイクでも全く違うイメージで売っている企業があります。ハーレーダビッドソンです。ハーレーダビッドソンといえば、黒いレザーの服に身を包んだ屈強な男の乗り物というイメージで多くのファンに支持されているブランドです。ところが1980年代の終わりには、HONDAをはじめとする高品質の日本メーカーから猛烈な追随にあい、投資銀行からは清算をほのめかされるほど、消費者から忘れられた存在となっていました。普通の企業であれば、売り上げが減ると商品ラインナップを変更して対応するものですが、ハーレーは違いました。遅く、重く、うるさく、壊れやすいと不満の矛先であったエンジンを、ハーレーらしさが損なわないよう注意を払いながら、かたくなに品質改良に取り組みました。ハーレー独自の心地良いエンジン音と振動はそのままに、精度を高めたわけです。平行して、販売店のイメージ改善にも力をいれました。それまでは修理屋なのか販売店なのかすら曖昧であった店構えを、ハーレーのキラーカラーである黒とオレンジを基調にし、什器に煉瓦を使い、ハーレーのエンブレムを遠くからでも見えるようにディスプレイするなど工夫を凝らしました。結果、ハーレーの販売店は、売り場としての意味合いのほかに、ハーレーの世界観を体現する場所へと変わりました。こうした取り組みが功を奏して、ハーレーダビッドソンの世界観に共鳴したファンが続々と集まりだしました。一度ファンになったユーザーは新しいバイクに乗り換える時にもまたハーレーを買います。こうしてハーレーダビッドソンは人気をとりもどし、みごとに復活を果たしました。

はたしてVespaやハーレーダビッドソンは特別でしょうか?世間を見渡してみると同じような現象は沢山みられます。高級ブランドに大金を費やす女性、数あるコーヒーショップの中で、気がつくとスターバックスに入ってしまう人、なんとなく特定の居酒屋に通ってしまう人、100円ショップに行くとついつい余計なものまで購入してしまう人。こうした人たちは決して特別ではなく、商品や場の世界観に共感したがために、ついつい買い求めてしまうのではないでしょうか。つまり、消費者は商品を選ぶ大きな動機として、雰囲気や世界観に背中を押されているものと考えられます。

ブランディングの台頭

つづいて今日のWebサイトについて考えてみましょう。Webサイトを立ち上げればそれでよい、という時代は既に終わり、今ではWebサイトに売り上げやアクセス数の向上といった何かしらの効果が求められるようになりました。また、素人が作ったようなサイトを見かけることもほとんどありません。

このような状況下において、分かりやすいサイト構成や見た目の美しさに力を入れることは当たり前です。Web標準や検索エンジンへの対応もしかりです。つまり、サイトのマイナス要因を減らすことにつながっても他社との差別化を図るのは、よほどのことがない限り難しいのが実情です。これらは、周りが実施していないときに、自分達が先駆けて行えば相対的に価値が高まりますが、周りが対応を始めた場合、効果が薄れてしまいます。とはいえ、対応しないことはマイナスにしか働かないため必ず押さえておきたいファクターといえるでしょう。

2001年の話になりますが、これまでのWebの流れを大きく変えるサイトが現れました。BMWfilms.comです。「TVCMなどでは、年収75000ドル以上のターゲット層にリーチできない」、「BMWの購入層の85%がオンラインで調査をしてから購入を決めている」という裏づけがあったため、全体予算2500万ドルという高予算のWebでのオンライン・ショートフィルム・キャンペーンを展開しました。この映像をみた層の40%が年収75000ドル以上、33%がターゲット年齢である35-49歳、半分以上がブロードバンド接続を持っているという、ターゲット含有率の高いキャンペーンとなりました。このキャンペーンがBMWの販売に大きく貢献したのはもちろん、新聞やテレビなどで取り上げられたことから、PR露出効果は数千億ドルに上ると試算されています。

それまでにないオンライン・ショートフィルムという形式で、ダイナミックで力強いBMWの走る姿をみた消費者は何を感じたでしょう?私はこれこそ、Vespaやハーレーダビッドソンの例に通じるものがある、と考えています。つまり、BMWは他社が真似のできない形で自分たちの商品をよりよく見せることで、BMWブランドとしての独自性を打ち出し、世界観を伝えました。映像をみた少なからぬ数のターゲットユーザーがBMWに興味を持ったことは容易に想像できます。

この事例を境に、まず企画ありきのWebサイトが多く見られるようになりました。単に商品をわかりやすく、綺麗に見せるだけではなく、ユーザーが欲しいと思うような仕掛けづくり、こうした施策こそが、これからのWebサイト構築に求められてくるのだと私は考えています。

弊社のリッチメディアコンテンツへの取り組み

顧客企業様のブランド構築に少しでもお力になれるよう、弊社でも企画から実制作まで多くのプロジェクトを手がけてまいりました。以降は、その中の最新事例であるセキスイハイムのカタログ請求、Enjoy! Ecolife with ECOHEIMについて紹介したいと思います。

Enjoy! Ecolife with ECOHEIM

コンテンツにアクセスすると、まずセキスイハイムの街並みを散策するためのキャスティングをおこなう。
クライアント
積水化学工業株式会社
広告会社
告大社/トランスコスモス
制作会社
ミツエーリンクス
セキスイハイムの商品を一望できるバーチャル展示場。キャラクターをマウスや矢印キーで操作することで、好きな商品を直感的に見つけることができる。
セキスイハイムについて説明するために、自然のモチーフを使用。ユーザーが感覚的にセキスイハイムを理解できるよう努めている。

すべてはお客様の一声から始まった

このプロジェクトのもともとの発端は「HTML版の資料請求を使いやすくしてほしい」というお客様の声から始まりました。HTML版は情報がうまく整理されており、よく考えられているのですが、カタログの数が多すぎることが思わぬ問題を引き起こしていました。100点近くに上るカタログの中から、ユーザーが自分に必要なカタログを見つけ出すのは大変な作業だったのです。セキスイハイムで家を建てたい、という目的意識のはっきりした消費者ならともかく、とりあえずどんな資料があるのか探したいというユーザーにとって取っ付きにくい状態でした。

そこで私たちはこのページをFLASHによって使い易くすることを考えました。最初に弊社が作成したプロトタイプは、項目ごとにカタログの並び替えをおこない、ドラッグ&ドロップで気に入ったカタログを資料請求できる、といったアプリケーション的なものでした。このFLASHをお客様に確認いただいたところ、「もっと面白くして欲しい」「はじめてくるユーザーがカタログの表紙だけを見ても商品の詳細が分からないのではないか」とのご意見を頂きました。そう、我々はこの段階では、あくまでHTML版のオペレーション面を強化したアプリケーションをつくれればよい、との認識で制作にあたっていました。

こたえはユーザーの視点にあり

この反省をもとに、私たちは資料請求にユーザーが求めているのは何かを考えるようになりました。ちょうど私はこのプロジェクトにかかわっているとき新居を探している最中で、週末のたびに展示場へ出向いていました。いろいろと見て回るので体力を使いますし、人見知りな私からすると営業の方々の説明を聞いているだけでクタクタになります。ですが、住まい選びは総じてとてもわくわくする楽しいものでした。こうした理由から、このプロジェクトでおこなったブレインストーミングでは、住まい選びの楽しさや喜びを伝える手段として「人が歩く」、「展示場」という二つがキーワードとしてあがっていました。

この企画にあたり、私たちは資料請求したいユーザーには2つのタイプがある、と定義しました。目的意識のはっきりとしたユーザーと、セキスイハイムとはどんな会社なのか、何を作っているのかを知りたいと考えているユーザーです。目的意識のはっきりとしたユーザーであれば、HTML版を使いやすくする、というアプローチもたしかに有効でしょう。ですが、もう一方のセキスイハイムがどんな会社なのかを知りたいと思っているユーザーには、この方法は通用しません。セキスイハイムの商品をわかりやすく見せるとともに、世界観を感じていただかないことには資料請求までおこなってくれないと考えたのです。

住まい選びが持つ本来の楽しさを体験していただくために、Enjoy! Ecolife with ECOHEIMでは仮想の住宅展示場の中を楽しみながら探索していく、という設定で企画しました。また、光熱費ゼロ、地震に強い、住めば住むほど費用が割安になる、といったセキスイハイムの優れた特徴を説明するために、展示場のほか、自然に満ち溢れた公園という設定も用意しました。ユーザーは自分で選んだキャラクターを展示場や自然の中をマウスや矢印キーを使って歩かせたり、走らせたりしながら資料請求を行います。ただカタログを見せるのではなく、住まい選びに参加してもらうことで、すこしでもセキスイハイムの素晴らしさやメッセージを利用者に伝えられればと考えました。

以上が、Enjoy! Ecolife with ECOHEIMが生まれた背景です。このコンテンツはお客さまの声からはじまり、私たちなりの答えを導き出し、その提案に対してまたお客様からのご意見をいただく、こうした過程を経て生まれました。住まい選びの楽しさ、セキスイハイムのすばらしさをこのコンテンツを通して知っていただくことが我々の共通の願いであり、プロジェクトにかかわったメンバーすべての喜びです。

最後に

以上、これからのWebサイトには世界観を伝える、ブランディングとしての役割が必要であると述べさせていただきました。インターネットはすこしでも興味がなければボタンひとつで、すぐに別のサイトに移れる、コンテンツ提供側からするとシビアなメディアです。だからこそ、ユーザーの興味をそそり、わくわくしながら楽しめるコンテンツが、これから必要になってくるものと確信しています。

お客様のご期待に沿えるよう、我々一同つねに一歩先を求めて昼夜問わず研究に励んでいます。ぜひ、このような要望がありましたらミツエーリンクスまでお問い合わせください。皆様とお仕事をご一緒できる日を楽しみにしております。

参考文献

  • 『「売れるブランド」のつくり方』ADKブランドコンサルティング局長 石澤昭彦 著 阪急コミュニケーションズ 版