古くて新しい「ヘッドレスCMS」の魅力
テクノロジーアンバサダー榛葉“古くて新しい”といえば、2025年の現在、「Y2K」がファッションスタイルとして流行しています。2000年初頭に流行したファッションやカルチャーのリバイバルといわれますが、当時のファッションそのままの再現ではありません。現在の視点から当時のファッショントレンドが再解釈され、過去の流行とは異なる新しさを備えています。
繰り返されるトレンドには、不易流行そのままに、今も昔も変わらない本質と、その時代ならではの新しさが備わっています。
今、Web界隈で注目される「ヘッドレスCMS」も、古くて新しいトレンドの1つです。先日、『企業サイトの発信力を高める「ヘッドレスCMS」入門』と題して、ウェビナーを開催しました。とても多くの反響をいただき、ヘッドレスCMSへの期待と熱量を感じられました。
今回のコラムでは、ふりかえりと当日参加できなかった方への情報共有をかねて、ヘッドレスでも従来型でも変わらないCMS(コンテンツ管理システム)の本質と、ヘッドレスならではの新しい価値についてご紹介します。
ヘッドレスCMSの不易流行
「ヘッドレスCMS」は新規性が強調されがちですが、その核にあるのは、CMSのもっとも基本的で重要なコンセプト――デザインとコンテンツの分離です。この点は、WordPressやMovableTypeなど従来のCMSと変わりません。
CMSを使うメリットは、誰でも簡単にWebページを作成できることです。これを実現するのが「デザインとコンテンツの分離」です。プロがデザインしたページをテンプレートとして型化し、金型に原料を流し込むように、利用者はテキストや画像をCMSに登録するだけで、ノーコードでプロ仕様の見た目を再現できます。
ヘッドレスCMSは、この分離をさらに推し進め、テキストや画像といった「コンテンツ管理」に特化しています。コンテンツの管理(バックエンド)と、テンプレートからWebページを生成する部分(フロントエンド)を完全に切り分けることで、コンテンツの再利用性が高まり、より柔軟で拡張しやすいWebサイトを実現します。
このテンプレート機能を切り離し、コンテンツデータのみ提供する方法は、実は以前からある設計コンセプトです。COPE(Create Once, Publish Everywhere)の原則として、6年前のコラムでもご紹介しました(コンテンツガバナンス「次の一手」は何か)。
ウェビナーでは、コーポレートサイトにもたらす価値として、切り分けのメリットを3つご紹介しました。
- セキュリティ=コスパよくリスク抑制
攻撃者を含む不特定多数がアクセスする公開サイト(フロントエンド)と、運営者がアクセスする管理機能(バックエンド)を完全に分けられるため、攻撃対象を最小化できます。 - パフォーマンス=表示速度などパフォーマンススコア良好
CMSの選択は、コア ウェブ バイタル のような指標にも影響します。ヘッドレスCMSと静的サイトジェネレーターを組み合わせることで、Webページを軽くし、表示速度の向上が期待できます。 - 持続可能性=保守メンテナンスしやすい
SaaS型クラウドサービスとして提供されるヘッドレスCMSなら、利用者の責任で対応すべき保守範囲を限定でき、脆弱性対応やバージョンアップへの負担削減につながります。
なぜ今ヘッドレスCMSなのか、その時代背景にも触れておきます。
大きな要因は、クラウドの普及と、変化に強く再利用可能なシステムを実現する開発手法の広がりがあります。異なる役割を担うクラウドサービスを部品として、ブロックのように組み合わせる開発手法です。部品として組み込みやすいヘッドレスCMSは、現代的なシステム開発の文脈にもフィットする選択肢となっています。
ヘッドレスCMSは桃太郎?
ヘッドレスCMSも、部品の1つです。つまり、それ単体ではWebページを作ったり、Webサイトを公開したりはできません。
誰もが知るおとぎ話の桃太郎は、イヌ・サル・キジをお供に鬼ヶ島に向かいます。異なる個性が役割分担して力を合わせることで、鬼退治は成功します。プロセスの分業化が進む現代の企業サイト運営も同じです。ヘッドレスCMSには、次の「お供」が欠かせません。
- イヌ=静的サイトホスティング
Webサイトを安全かつ高速に配信するための土台です。代表例はCloudflare Workers、Vercel、AWS Amplifyなど。CDNを通じてグローバルに安定した配信が可能です。 - サル=静的サイトジェネレーター
ヘッドレスCMSで管理するコンテンツを、デザインテンプレートと組み合わせて静的なWebページに変換します。表示速度とセキュリティ向上に欠かせません。ドキュメント中心のサイトではAstroが人気です。 - キジ=ソースコード管理
デザインテンプレートを構成するHTMLやCSSなどを安全に保管し、継続的な共同開発を支援する仕組みです。代表的なサービスにGitHubがあります。
桃太郎ならぬヘッドレスCMSがビジネスユーザーに寄り添う存在だとすれば、イヌ・サル・キジは、訪問者への体験と制作・運用の効率を支える存在です。役割分担を前提に、必要な部品を組み合わせて、柔軟で変化に強い企業サイトを実現します。
続編セミナーの開催決定
11月18日に、『続・企業サイトの発信力を高める「ヘッドレスCMS」入門』を開催します。
前回カバーしきれなかった「ヘッドレスCMS構成のしくみと実務」をテーマに、従来型CMSとの違いにも触れながら、活用パターンや運用の実際を事例とデモで掘り下げます。今回もテックリードの加藤とともに、非エンジニアの方にもわかりやすく解説します。
申込者特典として、前回(9/9)セミナー録画の視聴をご提供します。未受講の方も安心してご参加いただけます。
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