デジタルサービスのアクセシビリティ向上に立ちはだかるもの

アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)

『デジタルを活用した公と民のサービスにおけるアクセシビリティ向上について』と題した緊急提言が、山田肇先生と石川准先生が代表者となって、今月15日に総務省と厚生労働省に対して送付されました。緊急提言の全文に関しては、新型コロナ情報のアクセシビリティ向上:総務省と厚労省に緊急提言 - アゴラから参照できます。提言の一部は次のようになっています。

  1. 政府および地方公共団体が運営している新型感染症特設サイトについて、アクセシビリティを検証して早急に不備を改善するよう、総務省と厚生労働省の連名で政府各府省および全地方公共団体に依頼すること。
  2. 第1項目の依頼にあたっては、地方公共団体から委託契約等のある地域情報を提供する事業者・NPO等に対して、アクセシビリティ対応を取るように依頼すること。
  3. 遠隔教育・電子商取引などを提供する民間サービス事業者に対しては、アクセシビリティを検証して早急に不備を改善することについて、各事業の所管省庁から業界団体等に対して依頼するように、総務省情報流通行政局より働きかけること。
  4. 第1項目から第3項目について、総務省サイトに掲載の「情報アクセシビリティの確保」における「みんなの公共サイト運用ガイドライン」等を参照して実施するよう依頼すること。

1.と2.の言うアクセシビリティはWebアクセシビリティそのものに相違ないと思いますが、3.の言っているアクセシビリティがWebアクセシビリティだけを指しているのでしょうか...? そこのところが若干不明ではありますが、ともあれ4.で「みんなの公共サイト運用ガイドライン」を主に出しているわけですから、Webアクセシビリティを主に意識していることは間違いなさそうです。

それはそれとして、みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)を見ていただければすぐにわかると思いますが、

 「みんなの公共サイト運用ガイドライン」(以下、「運用ガイドライン」という。)は、国及び地方公共団体等の公的機関(以下、「公的機関」という。)のホームページ等が、高齢者や障害者を含む誰もが利用しやすいものとなるように、公的機関がウェブアクセシビリティの確保・維持・向上に取り組む際の取組の支援を目的として作成された手順書で(以下省略)

とあるように、位置付けとしてはあくまで公的機関を対象としたガイドラインでしかないわけです。緊急提言の3.でいうところの「民間サービス事業者」に公的機関向けのものをそのまま当てはめてよいのかについては難しい側面があるのではないでしょうか。とくに、「みんなの公共サイト運用ガイドライン」は公的機関に対して、これまでの取り組みがあった上でJIS X 8341-3:2016 適合レベルAAへの準拠を求めているわけです。しかし、仮にこれまで何も取り組んで来なかった事業者に対して、突然レベルAA準拠を目指すようにと言われても困惑するのが正直なところではないでしょうか。なによりも、Webアクセシビリティに対する一定の理解をはじめとする土壌がなければ、Webにおけるアクセシビリティを継続的に提供するのは困難でしょうし、最初の一歩としてはハードルが高すぎると筆者は考えます。

そういったところを鑑みますと、ひとつには民間事業者向けのガイドラインのようなものが求められているのではないだろうかと考えます。もちろんガイドラインさえあればよいと言うものでもないのですが、これは話の本筋から外れますので、機会があれば別の稿に譲りたいと思います。

さて、そのような民間事業者向けの文書が存在しないというところに注目しますと、ひとつは根拠となる法律にあたる障害者差別解消法では合理的配慮について努力義務を課しているからに過ぎないというところもありますが、

というように、筆者の理解が正しければ、各省庁がそれぞれすべきことやできることを取り組んでいるように見えます。しかし、情報通信施策としてのWebアクセシビリティを包括的に取り組めているのかと考えますと、残念ながら十分ではないと言えるのではないでしょうか。上に挙げた全省庁が互いの施策を認識して、連携が取れているのかというところもあまり見えていません。

Webアクセシビリティというものを国全体でより強力に推進していくとするならば、少なくとも行政の観点からは、その根拠となるWebアクセシビリティに焦点を当てた法律が必要とされるのではないかと感じました。といったところで筆を置きたいと思います。