高校の「情報」教科に見るWebアクセシビリティ

アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)

先月末に、Twitterで少し話題になった文科省の高等学校情報科「情報Ⅱ」教員研修用教材について、読者の中にはご覧になった方もいるかもしれません。

この「情報Ⅱ」教材の中に、Webアクセシビリティに関する記述があるのですが、その中身に触れる前に、まずは高校の「情報」教科を取り巻く現状について触れたいと思います。

現行の科目については、「社会と情報」と「情報の科学」の2つがあり、高校の教育課程においては、原則どちらか1つが必修科目となっています。これが、2022年度から実施される新学習指導要領では科目が改編され、「情報Ⅰ」が必修科目、「情報Ⅱ」が選択科目となります。

つまるところ、今回冒頭に取り上げた教材については、2022年度以降に行われる選択科目の教材という位置付けになります。

さて、話を元に戻しますと、Webアクセシビリティについては主に第2章 コミュニケーションとコンテンツに記述があります。該当ページの本文を引用してみましょう。

アクセシビリティとは,JISX8341-1(高齢者・障害者等配慮設計指針) において「様々な能力をもつ最も幅広い層の人々に対する製品,サービス,環境又は施設 (のインタラクティブシステム) のユーザビリティ」と定義されている。つまり,障害者や高齢者を含む社会のあらゆる人々にとって使いやすい製品やサービスを作っていくことがアクセシビリティを高めることになる。

例えばWebページにおいては,音声読み上げ機能の提供と画像への代替テキストの適用 (HTMLのimgタグにおけるalt属性の設定) ,文字サイズの変更機能の提供,サイト内の位置を明示する「パンくずリスト」などがある(図表13)。その他にも,色覚障害に配慮した配色の設定などがある。

実際にコンテンツを制作する際には,Webページの代替テキストや配色のコントラスト比など,アクセシビリティをチェックするツールがあるので,それらを活用して改善することができる。

大まかには誤りはないのですが、音声読み上げ機能や文字サイズ変更機能といった、Webアクセシビリティ対応とは言いがたいものが紹介されているのは正直残念なところです(音声読み上げ機能や文字サイズ変更機能については、Webアクセシビリティ対応で「音声読み上げ・文字拡大・色変更」は的外れ。本当に必要なのはSEO? | Web担当者Forumなどを参照ください)。この教材は教科書というわけではないですが、教員がこれをもとに授業を行う、あるいは教科書会社が参考にするならば、一部についてあまり正確とは言えないWebアクセシビリティの知識が高校生に教えられることにつながると考えられます。

ところで、現行の「情報」教科についてはどうなっているのでしょうか。ここでは詳しく触れませんが、新学習指導要領と現行のものとについて、特に解説を比較したところ、アクセシビリティの扱いについては大きな違いは見られませんでした。つまり、「情報Ⅱ」の教材と同程度の内容が、現行の教科書で教えられているということになります。

そこで、現行の「情報」の教科書の閲覧を考えたところ、都道府県が設置する教科書センター一覧に記載された場所で可能なことがわかりました。今回は、職場から最も近い渋谷区立図書館に足を運び、実際に教科書を調べてみました。

なお、渋谷区立図書館では教科書は展示という扱いで、貸出も複写も不可という旨の掲示があったため、記載内容については館内で簡単にメモを取るにとどめました。そのため、以下に記す内容が不正確かもしれないことをお断りしておきます。

渋谷区立図書館で閲覧でき、「社会と情報」と「情報の科学」の両方が揃っていた教科書会社の教科書は、50音順に実教出版、数研出版、第一学習社、東京書籍、日本文教出版の5社でした。

2つの科目間の傾向としては、概ね「社会と情報」のほうがアクセシビリティに関する記載が厚めでした(教科書会社によっては、「情報の科学」における記載が巻末の用語集の用語のみということもありました)。

ただし、数研出版の教科書はどちらも同一内容で、日本文教出版については「情報の科学」のほうが内容が充実しており、「社会と情報」ではほとんど記載がありませんでした。以下に、内容が充実していた科目の記述内容に記します。

実教出版
Webアクセシビリティの具体例として、代替テキストや色の組み合わせについての言及がありました。ただし、音声読み上げにおいては表を左上から右下に読むため、表を横方向に置くのがよいというような記述があまり理解できませんでした。
数研出版
Webアクセシビリティに関して、図の例示に代替テキスト、文字サイズ変更(おそらく画像文字のことが言いたかったのだと思います)、コントラスト比、音声付き動画の字幕に関する記述がありました。またJIS X 8341-3にも言及がありました。今回比較した中では、最も堅実な内容だったと記憶しています。
第一学習社
ユーザビリティとアクセシビリティの総説的な対比にとどまり、具体的なWebアクセシビリティの例示はありませんでした。
東京書籍
ユニバーサルデザインの文脈でアクセシビリティという単語が取り上げられるにとどまり、具体的なWebアクセシビリティの例示はありませんでした。
日本文教出版
ユニバーサルデザインの方策としてのアクセシビリティが取り上げられていました。JIS X8341-3:2004に言及するというマニアックな情報が脚注のような格好で取り上げられていたのが印象的です。altを取り上げていたり、色の使用に関する説明があったり、コントラスト比に言及したりと内容が濃かったのですが、文字サイズ変更ボタンを彷彿とさせる図があったのが残念でした。

このように、特にWebアクセシビリティに絞って内容を見てみますと、教科書会社間での取り上げ方にかなりの差異があることが見て取れます。さらに科目によって取り上げ方が異なること(情報の科学、やりませんか? 中堅校でもできる「情報の科学」によれば、発行部数では「社会と情報」が約8割、「情報の科学」が約2割の比率のようです)から、高校生が一律にWebアクセシビリティに触れているわけではない、というのが現状のようです。

現行の「情報」の教科書についてまとめますと、

  • ほとんどの教科書会社の教科書でアクセシビリティという単語は取り上げられている
  • ただし、Webアクセシビリティという観点では教科書会社と教科書の科目によって内容に相当の差異がある
  • 高度な事例を取り上げている教科書もあるが、必ずしも正確とは言えない記述も見受けられる

といったところになります。専門的な視点で見てしまうためにどうしても辛口にならざるを得ない面は否定できませんが、取り上げてもらうにはできるだけ正確な例を、と思ってしまうのは欲張りすぎでしょうか。

今回はWebアクセシビリティに絞って調べたため、記憶が怪しいのですが、教科書によってはユニバーサルデザインやバリアフリーについても言及しているものがあったと記憶しています。新・現行学習指導要領の解説ではアクセシビリティについて触れられていますので、高校教育の場を通して大なり小なりアクセシビリティに触れているのは間違いないと思われます。

とはいえ、高校教育における教科としての「情報」でアクセシビリティだけを学べばよい、というわけでもないのも事実です(そして、高校では「情報」の教科を学ぶだけではないです)。情報技術とその関連分野に関するさまざまな事項を幅広く取り扱ってもらった上で、情報化社会の一端を知っていただければ御の字なのかもしれません。

参考資料