W3C EOWGの活動と、WCAG解説書・達成方法集の展望について

アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)

W3CのTwitterアカウントのツイートで目にしたのですが、6月25日付けでAccessibility Education and Outreach Working Group (EOWG) Charterが承認されたというアナウンスがありました(当該メーリングリストの投稿)。

Education and Outreach Working Group (EOWG)は、W3C WAIに属するワーキンググループであり、W3Cアクセシビリティ標準への適合の理解、実装、およびテストをサポートするリソースを開発することを主な目的として活動しています。

ワーキンググループであるEOWGは、W3CのルールではW3C勧告を作成できるのですが、それにもかかわらず勧告を作成しないという少し変わった側面を持ちます。

このEOWGがどのようなリソースの開発に携わっているのかについて、以下にいくつか挙げてみます。W3CのWebアクセシビリティ関連のリソースにある程度詳しい方であれば、「このリソースもEOWGが関係しているのか」と思われるかもしれません。

  • Web Accessibility Laws & Policies。各国のWebアクセシビリティに関する法律や施策をとりまとめているものです。
  • W3Cのアクセシビリティと標準技術。Webアクセシビリティに関する、字幕付きの1分間の動画によるごく簡単な説明です。公式ページで日本語の翻訳が提供されている比較的珍しいリソースです。
  • How to Meet WCAG (Quick Reference)。WAICが翻訳しているHow to Meet WCAG 2 (クイックリファレンス)の原文です。達成基準を絞り込んだ上で関連する達成方法を表示する、などといった使い方ができます。
  • Web Accessibility Tutorials。ページ構造、メニュー、画像、テーブル、フォーム、カルーセルについての、具体例を交えた解説です。個人的には、どのように代替テキストを書けばよいのかのAn alt Decision Treeや、カルーセルのWorking Exampleのページが印象に残っています。
  • Before and After Demonstration。その名のとおり、デモページに関してビフォー・アフターを示すもので、ソースコードを見ながらどこが悪いのか、どのように改善しているのかを比べることができます。

これらはEOWGが関係するリソースの一部であり、他にもCharterに記載があります。アクセシビリティの説明はどうしても難解になりがちですが、わかりやすいリソースを提供しているのがEOWGと言えます。

さて、このEOWGについてですが、今回承認されたCharterにはWCAG Support Materialsのredesign(再設計)というものを活動目標の1つに挙げています。

WCAG Support Materialsには、前述のHow to Meet WCAGだけでなく、Understanding WCAG 2.1WCAG 2.1 解説書の原文)やTechniques for WCAG 2.1(WCAG 2.1 達成方法集[翻訳中]の原文)が含まれます。これらのリソースについて、ユーザーインターフェイスとビジュアルデザインを更新することがCharterには記載されています。

WCAG Support Materialには、GitHubのリポジトリのWikiへの参照があります。Requirements analysisには再設計の範囲や目的について記載されており、またApproach (ways we could improve)には取り組み方について記載されています。

上記のWiki文書では、ビジュアルデザインの更新といったものが前面に押し出されているように見受けられますが、付随するようにXSLTについて軽く触れられています。XSLT自身に関してはここでは深くは触れませんが、Understanding WCAG 2.1やTechniques for WCAG 2.1はXSLTを用いることでHTML文書が構築されています。

その一方で、XSLTとは別の方法でHow to Meet WCAGは生成されています。Understanding WCAG 2.1やTechniques for WCAG 2.1、How to Meet WCAGという文書群が、相互に関連する文書であるにもかかわらず、視覚的にも文書構築システム的にも別物になっているという現状があります。

今回のredesignでは、文書構築システムについても刷新されるのではと個人的に期待しています。仮に刷新されるならば、WAICで翻訳されているWCAG解説書や達成方法集、クイックリファレンスにも、翻訳の実作業面でプラスの影響があるのではと見込んでいます。

また、時代遅れになった達成方法についても、削除することがうたわれています。Techniques for WCAG 2.1については、Techniques for WCAG 2.0(日本語訳:WCAG 2.0 達成方法集)の内容をほとんど引き継いだ上で、WCAG 2.1で新たに追加された達成基準に対応する達成方法を追記している状況にあります。

しかしながら、WCAG 2.0が勧告になった2008年当時の、現在では時代にそぐわない達成方法がTechniques for WCAG 2.1でもそのまま残っているのが現状です。このような達成方法の内容に関して整理する計画については、筆者個人としては待望していたものであり、技術的な観点からも望ましい、あるべき姿ではないかと考えています。

最後に、このWCAG Support Materials redesignについてのスケジュールについて触れておきます。現時点でのタイムラインとしては、今年9月に要件分析を完了し、来年9月にredesignしたものを公開する予定となっています。

他方で、WCAG 2.2に目を向けてみますと、今年の2月に作業草案が発行されて以来(WCAG 2.2の最初の公開作業草案が発行されましたも参照ください)、現時点で公開草案の更新はありません。AG WG Project Planに記載されているスケジュールからは遅れが見られます。仮に遅れを考慮してWCAG 2.2の勧告が来年になるとしても、再設計されたUnderstanding WCAG 2.2やTechniques for WCAG 2.2が公開されているのはWCAG 2.2勧告よりも後になるのではないかと思われます。