アクセシビリティオーバーレイのとりとめもない話

アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)

「ウェブアクセシビリティ閲覧支援ツール」と称する、一般にはアクセシビリティオーバーレイと分類される技術あるいはサービスが、じわじわと国や地方自治体のWebサイトに導入されつつあります。なお、特定のサービスに対してものを言いたいわけではないので、具体的な名称はここでは取り上げません。どういったものがアクセシビリティオーバーレイとされているのかについては、Overlay Fact Sheetを参照してください。

さて、前述のOverlay Fact Sheetや、あるいはCTO木達のコラム「アクセシビリティ オーバーレイに対する見解」でも述べられているように、国内外のWebアクセシビリティの専門家からはアクセシビリティオーバーレイはネガティブな見方をされています。アクセシビリティオーバーレイについて、これはダメなものである、とするのは簡単なことでしょう。しかし、そうはいっても国内外で採用されているという現実に対して、筆者を含むWebアクセシビリティの専門家は目を向けるべきなのかもしれません。

アクセシビリティオーバーレイの導入のきっかけはさまざまでしょう。アクセシビリティオーバーレイのサービスを提供している企業から持ちかけられたのかもしれませんし、あの自治体や省庁が導入しているから、ウチも導入してみようなのかもしれません。導入するサイト担当者のWebアクセシビリティの知識や理解の不足が要因として挙げられると思いますが、一方でサイト担当者がアクセシビリティオーバーレイを導入しないと決められるだけの判断材料をWebアクセシビリティの専門家は十分に提供できていると言い切れるでしょうか。

そのような判断材料だけでなく、Webアクセシビリティに関する情報という観点では、日本語の情報をより拡充していく必要があると思っています。例えば、WCAGを発行しているW3Cは、W3C Accessibility Standards Overviewのようなアクセシビリティの理解に役立つ情報を提供しています。このW3C Accessibility Standards Overviewは、英語のほかに8カ国語に翻訳されていますが、残念ながらその中に日本語は含まれてはいません。

アクセシビリティオーバーレイの機能の中には、ブラウザーやOSで実現可能なものがあるとはいうものの、そういった機能を必要とするユーザーが知らないからこそ、アクセシビリティオーバーレイの恩恵を受けるというシーンもあるのかもしれません。果たしてITにあまり明るくないユーザーに対して、そういったブラウザーやOSの機能をわかりやすく説明できているでしょうか。

Webサイト提供者やサイト制作者だけでなく、ユーザーもスパイラルアップしていく必要があるわけです。また、OSや支援技術、ブラウザーといったハードウェア・ソフトウェアも進化を促していく必要があります。そういった底上げがされてはじめて、アクセシビリティオーバーレイという機能がなくてもいいよね、という合意形成がなされるのかもしれません。