2003年9月19日 コーポレート・ブランディング インターネットを活用して企業イメージを統合する

ディレクショングループ
棚橋 弘季

現在、弊社では、毎週、「ブランディング」、「企業の戦略と目的」、「3Cと差別化」などをテーマに勉強会を開いています。社員の自主的な参加を募っていることもあり、参加者は問題意識が高く、テーマで取り上げた問題を自身の問題に積極的に紐付けようとしている意識を非常に強く感じます。そうした参加者の意識もあって、勉強会は一方的に知識を与えられる座学の場ではなく、たがいの問題意識や意見を交換し合う議論の場となっています。個々の参加者が持っている知識をぶつけ合うことにより、新しい知識が生まれることもあります。今日のコラムの内容も、そのようにして新しい知識として生成された「Webサイトからはじめるコーポレート・ブランディング活動」について書いてみたいと思います。

企業サイトの玄関としての役目、玄関から他の部屋へ

きっかけは勉強会で「IR」をテーマに取り上げたときのことでした。ひととおり、IRサイトの役割、メインターゲットとなる個人投資家について話し合ったあと、投資家が株の購入の判断をする際には、IR関連のページだけでなく、結局、商品のページや採用のページなど、Webサイトのいろんなページをみて企業の評価を行なうという話になりました。ようするに、投資家にとって企業のIRサイトは、その企業のWebサイトを訪れる際の玄関の役割を果たしているということになります。おなじように採用希望者にとっては採用ページが、顧客にとっては顧客向けページが玄関になるでしょう。そして、採用希望者であれば、採用のページを見るだけでなく、IRページを見て会社の業績を確かめたりするわけです。投資家向けならIR情報、採用希望者向けなら採用情報のページが、それぞれ企業サイトの玄関として対象者をもてなす役割をもつわけですが、玄関で心地よくもてなされたあとは、そうした対象者もぜひ他の部屋(他のページ)も見てみたいと思うわけです。

Webサイトは企業の縮図

顧客にせよ、投資家にせよ、採用希望者にせよ、企業サイトを訪れた人はどの玄関から入った場合でも、結局は他の部分の情報も見てみたいと思います。そうなると、企業は異なる関心をもった対象者に対して玄関となるページを用意しつつ、そこから他の情報へも遷移して、企業のすべてを見せるようWebサイトを構築しなければならない。

こうした話の中で、あるひとりの同僚から「Webサイトは企業の縮図だ」という意見がありました。実際、そのとおりだと思います。企業には、顧客、株主、従業員という3つの主要なステークホルダー(利害関係者)のほか、取引先、地域住民、求職者、投資家、金融機関、政府など、それぞれに企業に対する関心、要求の異なるステークホルダーが存在します。そして、企業はそうした複数のステークホルダーに対して価値提供と貢献を行なっています。例えば、顧客に対しては製品の販売を通じた価値の提供を、従業員に対しては働く喜びなどを提供しています。

現在、企業はこうした各ステークホルダーに対する活動の一部をインターネットを通じて行なっています。下図は各ステークホルダーと企業サイトの構成の関係を示したものです。これを見ていただけると、先の「Webサイトは企業の縮図だ」という言葉もあながち大げさな言葉ではないことがお分かりいただけると思います。

Webサイトを各ステークホルダーごとに分割する理由

当然、各ステークホルダーでは企業に求めるものが異なります。顧客は自分のニーズに合った製品を適切な価格で提供してもらうことを求めますし、従業員はより働きやすい、働く価値が見出せ、納得いく報酬がもらえる環境を求めるでしょう。求めるものの違いにより、企業サイトに求める情報の種類、Webサイトを通じたサービスもステークホルダーごとに異なってきます。その違いが上図のような形で、Webサイトを各ステークホルダーの要求に合わせて分割していく理由となります。

「分ける」ことは「分かる」ことです。Webサイトをステークホルダーごとに分けるということは、企業がステークホルダーそれぞれの求めるものを分かっているということなのです。

おもてなしのこころ、あるいは、エンターテイメント(接客)の姿勢

Webサイトは、企業にとって、様々なステークホルダーに対して、自社をアピールする場、理解していただく場であるということに異論をお持ちの方はいないでしょう。また、同時にWebサイトは各ステークホルダーとのコミュニケーションを通じて、リアルでの活動を支援していく場であるとも言えます。いずれにせよ、そのような場であるWebサイトが、逆に訪問したステークホルダーの不満を高めてしまうようでは本末転倒です。使い勝手が悪い、欲しい情報へたどり着けないなどのユーザービリティの問題、リアルで創られた好感のもてる企業イメージとはギャップのあるデザイン、問合せなどへの応答の悪さ、古い情報がいつまでも更新されずに残っている等、訪問者をがっかりさせる不満要素は、企業のWebサイトのあちこちに潜んでいます。

企業はWebサイトの不満要素を減らし、逆にそれぞれのステークホルダーの満足度を高めるような価値ある情報、サービスをWebサイトを通じて提供していかなくてはなりません。各ステークホルダーごとに求めるものは違っても、企業に何かを求めてWebサイトを訪れるという点では変わりないのです。そうしたステークホルダーに対して、企業がWebサイトを通じて行なうべきことは、おもてなしのこころ、あるいは、エンターテイメント(接客)の姿勢をもって、訪問者を出迎えることです。

おもてなしのこころやエンターテイメントの姿勢を具体的にどう示していくかという点に関しては、

  • それぞれのステークホルダーは自社に対して何を求めているか?何に価値を感じているか?
  • 自社はそうした要望、ニーズに対して、何をどのように行なうことができるか?
  • ステークホルダーが自社と比較するであろう競合他社に対して、どう差別化を行なうか?

といった3つの視点で考える必要があるでしょう。

課題は企業イメージの統合

さて、顧客、投資家、採用者など、それぞれを対象にした玄関をWebサイトに設ける場合、1つ気をつけなくてはならないことがあります。それは統合的な企業イメージを創出できているか、維持できているかという点です。

IRサイトや採用情報ページなどは、あくまで投資家、採用希望者向けの玄関に過ぎません。繰り返しになりますが、投資家も採用希望者もIRサイトや採用情報ページから入ったあと、他のページも見るわけです。その場合、他の情報ページのイメージが玄関にあたる部分と著しく異なっていたとしたら、どうでしょう?IRサイトで優秀な人材を随時、獲得、育成している旨のことがうたわれていても、採用希望ページではまったくそうした形跡が見られなかったら、投資家はきっと疑心暗鬼になるでしょう。また、素晴らしいブランド・イメージを顧客向けのサイトで打ち出していても、会社情報やIR情報を見た瞬間、途端にブランドの世界観、夢が崩れてしまうようなデザインだったという場合もあります。これでは、それぞれの玄関で対象となるステークホルダーをもてなしても、その苦労がすべて水の泡です。

コーポレート・ブランディングが重要な経営的課題として取り沙汰されていることを考えても、企業は、自社の統合された企業イメージを創出し、維持していくことを、すべてのステークホルダーの要求、ニーズにあったもてなしを行なうことと同時に考え、実行していかなくてはならないのでしょう。

Webサイトでの企業イメージの統合を、コーポレート・ブランディング活動の足がかりとする

さて、こうしたことを踏まえた上での私からのご提案は、なかなかどこから手をつけていいのかわからないコーポレート・ブランディング活動だからこそ、まずはWebサイトからはじめてみてはいかがでしょうということです。

東京大学大学院経済学研究科教授で、『パワー・ブランドの本質』などの著書でも知られる片平秀貴氏は、著書『ブランド・エンジニアリング』の中で「Webサイトはブランドの鏡」であると述べています。これは先の同僚の発言「Webサイトは企業の縮図」に非常に近いものがあります。この2つの発言はいずれも、Webサイトの特性として挙げられる、(1)情報配信、更新の容易さ、(2)ターゲット別の情報配信、パーソナライズが可能であること、(3)他メディアと比較しての開発・運営コストの低さ、といったことを踏まえた上で、Webサイトが企業やブランドのすべてを詰め込め、かつ、適切な形で整理することが可能である、ほとんど唯一のメディアであるということを論拠としています。

ようするに、コーポレート・ブランディング活動の足がかりとして、Webサイトでの企業イメージの統合を図るということは、自社がどういう会社であるということをあらゆる面で整理しなおす作業を行なうことに等しく、自社のビジョンを曖昧な言葉としてではなく、明確で具体的な絵として描くことだと言えるでしょう。そうした意味で、 Webサイトは「ブランドの鏡」、 「企業の縮図」なのです。

もちろん、最初から完全な絵を描くことはできないでしょう。ですから、最初から完全なものを求める必要はないと思います。できることから確実にはじめていき、それを継続的に続けていくことのほうがはるかに重要だと考えます。そもそも、ブランドは一夜にしてならずですから、大切なのは「はじめる」ことより、「続ける」ことだったりします。しかし、「はじめる」ことがなければ「続ける」ことができないのも事実。ですから、まず、できることから「はじめる」ことが必要です。

いかがでしょう?御社のコーポレート・ブランディング活動、これからはじめてみませんか?

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