2008年11月7日 異文化との相違点をユーザー視点で考える〜User Friendly 2008参加報告

マーケティングユニット ユーザビリティ・コンサルタント
小坂 典子

感受性の違いと普遍性

「人間って、同じようで違うからね……」

ずいぶん昔の話になりますが、これはある出来事に対して、人によって受け取り方がいかに違うかということについて話していたとき、友人がふと漏らしたことばです。私たちは普段、自分の思う「普通」や「常識」にしたがって周りの人たちとかかわりあっていますが、こういった「普通」や「常識」をどこに置くべきなのか考えあぐねていた私は、このことばにハッとしました。何が「普通」で「常識」であるのかは、相手や状況によって変わるものなのだとの友人のことばに、ようやく納得したのでした。

また別の機会には、こんな話を聞きました。ある日本の高僧が、各国の要人の集まる晩餐会に出席したときのことです。食事は完全な洋式ですが、僧にとってははじめての経験で、どのようなマナーで食事をしてよいのかが分かりません。そこで僧は、いつも寺でする食事と同じように、スープの入った皿を両手に取って頭の上に掲げ、食べ物に対する感謝と敬意の祈りを捧げてから、直接皿に口をつけてスープを飲みました。各国から集まった要人たちは、その光景を見て、その振る舞いの美しさに感動したということです。

同じ国、同じ文化の中で生活していてでさえ、人との感受性の違いを思い知らされる場面がある半面、文化や習慣を異にする人々の間でも、共感を呼ぶ普遍的な美しさがあることも事実です。人とのコミュニケーションではもちろんですが、状況に応じ変えるべきものが何であるか、共通で適用してよいものが何であるかを適切に見極めることは、製品開発の効率や効果を最適化するために不可欠ではないでしょうか。

中華圏のデザイナーとのプロトタイピング

去る10月24日から27日の4日間、UPA Chinaが主催するUser Friendly 2008が、中国の経済特区に指定されているシンセンで行なわれました。UPAの理事であるApogee Usability Asia Ltd. の Daniel Szuc氏と仕事をさせていただいたご縁で、当社からもこのイベントに参加しました。

このイベントは、UPA Chinaの主催ではありますが、より広くアジアにユーザビリティを普及させることを目的とするもので、カンファレンスのスピーカーやワークショップの講師も、中国はもとよりインド、韓国、日本などのアジア各国から、またオセアニア、アメリカ、ヨーロッパからも参加している国際色豊かなものです。

かねてWebサイトのデザインに文化的な差異がどのように影響しているのかということに興味を持っていた私は、Daniel Szuc氏が担当した"Homepage Usability"というワークショップに参加してみることにしました。日本人の私から見て、中華圏のWebサイトは1ページに含まれるコンテンツや色彩、アニメーションが多く、香港の繁華街のような賑やかな印象があったため、中華圏の人々にとっての「分かりやすいサイト」「魅力的なサイト」がどのようなものであるのかを、少しでも理解したいと思ったのです。

Daniel Szuc 氏のワークショップ

ワークショップの課題は、まず既存の携帯電話サービス企業数社のホームページについて良い点・悪い点をディスカッションし、その結果を踏まえてチームごとに仮想の携帯電話サービス企業のホームページプロトタイプを作成するというものでした。参加者は中国からの若いWebデザイナーが多く、グローバルなポータルサイトのホームページデザインをしているという方々もいました。

ディスカッションやプロトタイピングの結果は私の予想に反し、中国の人もシンプルかつ明瞭な画面設計を好むということでした。そのことをチームの中国からの参加者に伝えると、「確かに中華圏のホームページは賑やかだけど、それはユーザーが賑やかなホームページに慣れているというだけで、必ずしも分かりやすいと感じているわけではないんですよ」という答えが返ってきました。シンプルな方が好ましいが、複雑さに対する許容度は高いということなのでしょう。ただ、今回の課題はホームページのワイヤーフレームの作成までが作業範囲だったため、これに色彩やコンテンツが載った場合は、日本人との嗜好や感性の違いが見られたのかもしれません。

効果的な製品の海外展開のために

多国籍企業のWebサイトでは、ブランティング施策の一環として全世界で統一されたレイアウトや色づかい、文字の大きさなどが決められている場合が多いのですが、ある国で設定されたガイドラインが、他の国では不評であるというのはよく聞く話です。企業によっては、デザインガイドラインに柔軟性を持たせ、例えばコーポレートカラーであっても明度や彩度、使う色の範囲などを調整することで現地のユーザーの嗜好に合わせたローカライズを行なっている場合もあるようです。

グローバルにビジネスを展開していく場合、各国の顧客に対して共通に受け入れられるものは何なのか、または思い込みや押し付けを捨てて柔軟に変えていくべきものは何なのかということを、ターゲットユーザーの声を聞かずして判断することは難しいでしょう。当社で行なうユーザビリティ関連調査でも、製品の効果的なローカライズを目指した調査のニーズが増えてきています。異文化のユーザーに喜ばれる製品を提供するために、ぜひ現地のユーザーの声を反映させるプロセスを製品開発に組み込んでいっていただきたいと思います。

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