2010年12月17日 ツールを用いたアクセシビリティの改善

アクセシビリティ・エンジニア
中村 精親

JIS X 8341-3が改正、公示されてから、約4カ月が経過しました。アクセシビリティの新しい基準を含んだ要件も少しずつ増え始めています。当社がそのような要件を含む依頼をいただくのは、基本的には新規にWebサイトを構築する場合や、既存のサイトでも比較的大きなリニューアルをおこなう際がほとんどです。

もちろん、アクセシビリティを向上させるためには基本的な部分に修正を加える必要がある場合も少なくありませんので、適切なタイミングで依頼をいただいていると思います。

しかし、こうした要件の中で、せっかくアクセシビリティを意識いただいているのに、重要なポイントが抜けていることがあります。それは、「検証」と構築、リニューアル後の「運用」です。

当社では、先日、新規サービスとして「Webアクセシビリティチェックツール(WorldSpace)」をリリースいたしました。そこで、今回はこの2点について、タイトルにもありますように、優れたチェックツールを利用することの有用性についてご紹介したいと思います。

検証

本年8月に改正されたJIS X 8341-3には、以前のコラムでもお伝えしましたとおり、「箇条8 試験方法」という項目があります。この試験方法の詳細については、ウェブアクセシビリティ基盤委員会による「JIS X 8341-3:2010 試験実施ガイドライン」に詳しく書かれています。このガイドラインでは、試験方法は以下の3つに分類できる、としています。

  • コンテンツ内で試験すべき対象を機械的に発見可能な場合で、発見した対象を機械的に判断する方法(AC:Automated Check)
  • コンテンツ内で試験すべき対象を機械的に発見可能な場合で、発見した対象を人が判断する方法(AF:Automated Find)
  • コンテンツ内で試験すべき対象を機械的に発見することが不可能な場合で、対象を人が判断する方法(HC:Human Check)

これら3つのうち最初の2つ、「AC」と「AF」については、当然のことながらWorldSpaceのようなツールを利用することが可能です。特にWorldSpaceでは、「AC」はもちろんのこと、「AF」についても、ただ発見するだけではなく、その後に人が判断する部分も考慮したシステムになっています。

「HC」に関しては、当然人が検証、判断する必要がありますが、ツールを使わない場合は「AC」「AF」も同様に人が検証、判断しなければなりませんので、効率、正確性といった点で大きな違いが生まれることになります。

運用

一方、制作・開発、検証という手順を踏んで、アクセシブルなコンテンツを公開できたとしても、それを少なくとも維持できなければ、費やしたコストが無駄になりかねません。にもかかわらず、実際には運用におけるアクセシビリティの品質がないがしろにされている場合も多々あります。JIS X 8341-3:2010では、「6.5.1 アクセシビリティの品質確保」で以下のように規定されています。

ウェブページ一式の責任者は,ウェブコンテンツを保守・運用するときには,ウェブアクセシビリティの品質を確保し,維持・向上に努めなければならない。

ここで注目してほしい点は「責任者」とあるところです。JIS X 8341-3では、企画の段階から、運用まで、責任者が「〜しなければならない」としています。ところが現場では、アクセシビリティは制作・開発者が確保するもの、と考えられてしまうことがあります。これは、実際には責任者にはアクセシビリティの知識がないことから起こることではありますが、このような問題に対してもWorldSpaceのようなツールは解決の手段となりえます。

制作・開発者が実際の制作、修正をおこない、それを報告し、その報告された内容を責任者、管理者が管理する、というシステムを提供しているからです。

WorldSpaceには、一定期間ごとの問題の数を追跡する機能や、発生している問題の種類と数、ページ数などを管理者向けの観点でレポートする機能が備わっています。また、定期的に自動巡回させることも可能です。アクセシビリティのチェックツールというと、対象のソースコードや発生している問題の指摘など、制作・開発者よりのレポートに焦点があてられることが多いのですが、数多くのページを検証し、管理、運用していくためには、そのための仕組みが非常に重要になると思っています。

以上のように、アクセシビリティの改善にツールを活用していくことについて、ご紹介してまいりました。機械的な検証は、個別に対応していたものを一括にできたり、手動でおこなっていたものを自動化できたり、定期的な巡回を忘れずにおこなえたり、とさまざまな点でメリットがあります。

ただ、ひとつ忘れないでいただきたいのは、ツール(機械)だけでは完全ではない、という点です。人による判断との組み合わせがあってこそ、ツールの価値は本来のものとなります。今後も拡大していくであろうWebに対して、このようなツールの利用はアクセシビリティの確保において必須となるものと考えています。そこで、当社としては今後も適切で利用しやすいツールと、専門家による検証、判断、この組み合わせをしっかりとご提供していきたいと思います。