今年2月、A Book Apartより書籍『Sustainable Web Design』が出版されました。サステナブルWebデザインとは何か、なぜそれが求められつつあるのか、またWeb制作者に求められるコンプライアンスについて話しました。

※ オフラインのため、音声ファイルを再生できません。ネットワーク状況をご確認の上、再度アクセスしてください。

加藤
こんにちは。
木達
こんにちは。
加藤
ミツエーテックラジオは株式会社ミツエーリンクスのスタッフがWebデザイン、WebフロントエンドなどのWeb技術に関するニュースやツールなどをシェアするためのポッドキャストです。今回の司会は加藤が務めさせていただきます。そしてゲストは取締役CTOの木達さんです!木達さん、よろしくお願いします!
木達
よろしくお願いします。えー木達と申します。趣味は山歩きですけど、寒い冬場や花粉が飛んでいる今の時期は、部屋にこもってガンプラを作るなどしています。あとはラーメンとコーヒー、それに加藤さんに良さを教わったサウナが好きです。
加藤
はい、自己紹介ありがとうございます。今回は最近木達さんが読んだ本についてテックラジオでどうしても紹介したいということだったのですが、どのような本でしょうか?
木達
はい。Tom Greenwoodさんという方がお書きになった「Sustainable Web Design」について紹介したくてですね。発売されたのは今年2月なんですけど1月に出版元である「A Book Apart」に情報が掲載されてすぐに予約したほどを読むの心待ちにしていた本です。すごく技術的な内容の本でもないんですが、あえてこう概念的なお話をテックラジオでするのも、たまにはアリかなと思って。
加藤
はい、ありがとうございます。A Book Apartという出版社は自分は初耳ですね。
木達
A Book Apartは、WebデザインやWeb開発に特化した出版社ですね。比較的読みやすいボリュームで、「英語はチョット…」という方にもオススメできる本を、数多く出版しています。余談ですけど、この出版社を立ち上げた一人で、私が尊敬するJeffrey Zeldmanさんが書いた「Designing with Web Standards」の日本語訳に、かつて技術校正という立場で携わった経験があります。今から17年前、2004年のことです。
加藤
なるほど。ちょっと昔話が始まってしまいそうな雰囲気を感じてしまったので、そこはちょっと次回にとっておくとして「Sustainable Web Design」の内容を紹介していただいても良いでしょうか。
木達
あー!いきなり脱線してすみません。油断すると、つい昔話をしてしまう年齢なので、許してください。この本は7つの章から構成されています。ざっくり章ごとに概要ですとか、自分が気になったポイントなどを紹介していきますね。
加藤
はい、よろしくお願いします。目次を見てみますと、最初の章は「What is Sustainable Web Design」、日本語に訳すと「サステナブルWebデザインとは何か」、まずは言葉の意味を定義するところから、ということでしょうか。
木達
そうですね。著者のGreenwoodさんは、私たちが住む地球の健康に配慮したWebサイトをデザインするアプローチのことを、サステナブルWebデザインと説明しています。
加藤
地球の健康ですか。ちょっと話がいきなり地球スケールで正直あまりピンとこないところがありますね。
木達
まぁ、そうですよね。とはいえ加藤さんも地球温暖化や、温暖化を抑制するために脱炭素社会を目指す取り組みについて、聞いたことがあると思います。少し前には、アメリカが地球温暖化対策の国際的な枠組み、「パリ協定」に復帰したことが話題になりましたよね。サステナブルWebデザインとは、脱炭素化に貢献するWebデザインとも言えます。
加藤
たしかに脱炭素化というワードはニュースサイトなどで目にしたことがある言葉ですね。温室効果ガス、特に二酸化炭素の排出量を減らそうって動きだと思うんですが、徐々に普及しつつある電気自動車などは特にわかりやすい例だと思いますが、サステナブルなWebデザインをするためには具体的に我々Web制作者はどうすればいいのでしょうか。
木達
まぁまぁ、そう焦らずに。第2章の「Measuring Our Impact」では、何を指標としてサステナブルWebデザイン、ひいては脱炭素化に取り組むかというお話になります。残念ながら、Webサイトを利用した際の温室効果ガス排出量を正確に測るということは、困難です。
加藤
そうですよね…。電気を使っている以上、ゼロではないというのは分かりますが、アクセスの都度発生しているであろう二酸化炭素量を調べるとなると、微々たる量であるが故に、すごく難しそうなイメージはありますね。
木達
なので、 Greenwoodさんはデータ転送量や二酸化炭素排出係数を解説のうえ、Webサイトが生み出す二酸化炭素量を擬似的に算出する方法を紹介しています。どの指標をどう活用するにせよ、数字でもって改善状況を把握することが大事なようです。
加藤
なるほど。表示パフォーマンスの文脈でもよく「推測するな、計測せよ」という格言が引き合いに出されますが、同じことがサステナブルWebデザインにも言えそうですね。
木達
そうですね。これは私個人の意見ですけど、極論、何を物差しに使っても良いと思います。大事なのは、同じ物差しを使って継続的に測ることかなと。それ無くして改善を客観的に把握することができないですから。
続く第3章から第5章にかけては、二酸化炭素排出量を抑えるためのデザインやコンテンツ配信について、具体的なアドバイスが紹介されます。
加藤
第3章が「Designing Low-Carbon Websites」、4章が「Sustainable Web Development」、それに5章が「Green Web Hosting」ですね。
木達
はい。デザイナーや開発者といったWeb制作者にとっては、これら3つの章が一番読み応えがあると思います。画像の軽量化ですとか動画コンテンツを実装するうえでの注意点など、表示パフォーマンスに関する内容が目立ちますね。JamstackやPWA、CDNへの言及もあります。
加藤
たしかに単純にデータ転送量が少なくて済むだけでなく、ユーザーが効率的に、つまり短時間で目的を達成できれば総合的に消費電力を抑えることができそうなので表示パフォーマンスの優れたウェブサイトはサステナブルなウェブサイトとも言えますね。
木達
まさにその通りで、UXやSEO、アクセシビリティ、それにセキュリティといった分野も、サステナブルWebデザインと無関係ではなく、ユーザー視点でそれらの改善に取り組むことが消費電力を抑えて、サステナブルWebデザインの実践にもなる…というのが、第6章「Selling Sustainable Web Design」の内容です。
加藤
一つ疑問があるんですが、サステナブルWebデザインがそこまで「いいことづくめ」のアプローチであれば、もっと早くから注目されて、Web業界に根付いても良さそうに思えますが、正直そうはなっていないと思います。それはなぜなんでしょうか?
木達
んー、痛いところを突きますね…いや、とても良い質問ですね。実は、よく似た内容で「Designing for Sustainability」という本が2016年8月に発売されていましたけど、その当時も注目されていなかったように思います。いろいろな要因が考えられますけど、一つには「サステナビリティ」、持続可能性という言葉が注目されるまで、それなりの時間を要したということかなと思っています。
加藤
つまり流行るのはこれからだということでしょうか。
木達
個人的には「レスポンシブWebデザイン」ほどのキャッチーさは感じないので、「サステナブルWebデザイン」という言葉が流行ることは無さそうかな。ですけど、新型コロナウイルス感染症が世界的に蔓延してしまった今、業種・業界を問わず世界的な課題に取り組む必要性は高まっていると思うし、Web制作も遅かれ早かれ脱炭素化への取り組みを強化せざるを得ないと思います。そうなれば、呼び名はさておき、サステナブルWebデザインが実質的に普及するのではないかな。
加藤
そういえばGoogleやMicrosoft、Amazonといった巨大なテクノロジー企業も積極的に環境問題に取り組んでいましたよね。
木達
そうそう、今名前を挙げてくれた企業における取り組みも、本書では言及されています。そして最後の第7章「The Internet in a Changing Climate」は、全体の総括です。Greenwoodさんは、改めて気候変動が目の前に差し迫った危機であることを訴えつつ、ただ漫然とWebサイトをデザインするのでなしに、真の問題解決にチャレンジすべきと訴えています。
加藤
はい。本の大まかな内容はおかげで理解できたように思います。ありがとうございました。なるほど、Webデザインに関する本としては過去にあまり類を見ない新鮮な切り口のように聞こえましたね。
木達
でしょう?なので、テックラジオのリスナーの皆さんにもぜひお知らせしたいなと。もし英語が極端に苦手でなければ、もちろん読んでいただきたいとも思います。脱炭素化が声高に叫ばれるようになった今だからこそ、Webコミュニケーションが環境に与える影響に、もっと自覚的でありたいと思うので。
加藤
ミツエーリンクスが今年に入ってサステナブルWebデザインソリューションを提供し始めたのもそういう思いからでしょうか?
木達
そういう側面もありますね。当社は以前から、Webコンテンツの品質に相当こだわってサービスやソリューションをお客様に提供してきましたけど、「サステナブルWebデザイン ソリューション」は、その集大成的な意味合いがあります。「運営者に良し、利用者に良し、社会に良し」という、Webデザイン版の「三方よし」を実現する手段として最適です。
加藤
三方よしというのは近江商人のあれですかね。「売り手によし、買い手によし、世間によし」っていう経営哲学の。
木達
ですです。脱炭素化だけでなく、新型コロナウイルス感染症などもそうですけど、これだけ世界的な課題が数多く山積していて、それらに対して世界中の一人一人が向き合っていかなければいけない社会では、この「三方よし」の考え方が、あらゆるビジネスでますます必要不可欠になっていくと思っています。Web制作、Webデザインも然りです。
加藤
ということは木達さんはサステナブルWebデザインをこれからの社会が必要とするであろうWebデザインととらえているわけですね。
木達
まあそうなりますね。
加藤
はい。1点お伺いしたいことがありましてサステナブルWebデザインを実践する上で必要なノウハウ、例えば表示パフォーマンスやアクセシビリティを具体的にどう改善していくかっていう情報はすでに割と流通していると思うのですが、サステナブルWebデザインの普及に向けどのような課題があると考えていますか?
木達
うーん、まぁ色々あるとは思うのですけど、一つ挙げるなら、皆でコンプライアンスの意識を高めることでしょうかね。
加藤
コンプライアンスですか…!コンプライアンスって言い換えると法令遵守ですよね。サステナビリティに関する法律を守ろうとかそういうことですか?
木達
コンプライアンスって、その「法令遵守」という言葉に置き換えられることが多いのですけど、それだけではないのですよね。自分も割と最近になって学ぶ機会があったのですが、コンプライアンスには、社会からの要請に応えるという意味合いも含まれるのです。
加藤
社会のルールを守るだけではなく、社会のニーズに応えるということもあったんですね。
木達
そうです。現状、いちWebページあたり表示や動作に必要とする総ファイル容量は何メガバイトまでとか、そんな法律はありません。だからこそ、ファイル容量の大きなページ、つまりそれだけ大きな消費電力を要するページを不用意に作ってしまいがちなのですが、社会のニーズとして脱炭素、低消費電力が求められつつある事実を捉えて、行動を変えていく必要があると思います。そのためには、今まで以上にコンプライアンス意識が必要になるわけです。これはなにもサステナビリティに限ったお話ではなく、アクセシビリティなどにも通ずるお話です。
加藤
なるほど、わかりました。そろそろ時間が来てしまったので今日はこの辺りで締めさせていただこうと思います。書籍「Sustainable Web Design」のご紹介ありがとうございました。最後「コンプライアンス」というキーワードに着地したのが私としてはちょっと意外でしたね。木達さんは今回初めてテックラジオにご出演いただいたのですがいかがでしたでしょうか。
木達
はい。その昔、アクセシビリティPodcastに何度か出演した以来ぶりで、超久しぶりでしたけど、すごく楽しくおしゃべりさせていただきました。ありがとうございます。気が向いたらまた是非出演させてください!
加藤
はい!ぜひ、よろしくお願いします。私も普段とは目線の違ったお話をすることができて、とても新鮮でためになりました。次回は昔話をたくさんする時間を確保しておきますので、よろしくお願いします!
最後にミツエーリンクスではスマートなコミュニケーションをデザインしたいUIデザイナーUI開発者を募集しています。採用サイトではオンライン説明会やオンライン面接なども行なっていますのでチェックしてみてください。またこのポッドキャストはApple Podcast、Google Podcast、Spotifyで配信してますのでお好みのプラットフォームでフォローいただけると最新のエピソードをすぐ視聴できます、こちらもぜひご活用ください!
それでは今日はこの辺で!ありがとうございました!
木達
ありがとうございました!