社内向け CSUN 2019 報告セミナー

エグゼクティブ・フェロー 木達

去る4月16日、今年のCSUNカンファレンスに参加した当社アクセシビリティ・エンジニアの畠山が、社内で「CSUN 2019 報告セミナー」を開催しました。当日は参加した数々のセッションの中から、選りすぐりの8つのセッションについて、要点をテンポよく共有してくれました。個々についてごく簡単に、感想を書き記したいと思います。

CSUNカンファレンスにおける、とあるセッションの模様

2019 Digital Accessibility Legal Update 2019

超人気のセッションだったそうで、床に座っている参加者もいたとのこと......過去に私がCSUNに参加した記憶の限り、立ち見を含め椅子に座らずに参加することは禁止されていたので、意外でした(それが正式に認められたスタイルだったかどうかは不明とのこと)。アクセシビリティの享受は基本的人権との認識が、アメリカでは法律(Americans with Disabilities Act、ADA)を背景に浸透しているとのお話が印象的でした。

How to Meet 7 New Success Criteria in WCAG 2.1: Tricks and Tips

昨年6月に2.1へとバージョンアップしたWeb Content Accessibility Guidelines(WCAG)ですが、その際に追加された達成基準を解説したセッションの紹介です。中でもReflowについて取り上げ、「平たく言うと、レスポンシブデザインにしましょう、ということ」と説明。確かにその表現のほうがわかりやすいですね。意図的に抽象度を上げて書かれているWCAGの難解さならでは、といったところでしょうか。

The Real Cost of Accessibility Complaints and Lawsuits

Webアクセシビリティに関して訴訟を起こされるとお金がかかりますよ、というお話。セッションの背景として、2017年と2018年を比べると、その種の訴訟が急増しているのは、コラム「アメリカで増加するWebアクセシビリティ関連訴訟」で触れた通り。弁護士との契約といった裁判そのものに紐づく以外にも、制作に費やされた時間もコストになる、という視点は納得でした。いわゆる「シフトレフト」、つまり上流の工程から取り組むアプローチがやはり有効だなと感じました。

Understanding the User Experience Behind the New WCAG 2.1 Requirements

WCAG 2.1にある達成基準と、それぞれがどのようなユーザー体験から生まれたか、というセッションの紹介でした。おそらくWCAGの原文を読む誰もがそれを難解と感じるはずですが、実はそれはWCAGを策定している側も同じとのこと。そのうえで、達成基準を理解するには具体的なユースケース、つまりどのようなユーザーがどうWebにアクセスしているか、そこで生じる課題を理解することが大事という指摘が紹介されました。

The Difference Between Native Mobile and Web Accessibility Testing

当社が提携しているDeque Systems社の方が講師を担当されたセッション。主にアプリのアクセシビリティを扱うお話でしたが、「アプリとWebは違う」という点をかなり強く主張されていたそうです。曰く、Webと違ってアプリは支援技術と直接やり取りをするので、Webのアクセシビリティにおけるルールをそのままアプリに当てはめるべきではないとのこと。アプリ方面に知見の乏しい自分には大変興味深く、また参考になりました。

The State of Web Accessibility: What We Learned Testing 1,000,000 Homepages

100万URLものトップページを検証した結果をもとにWebアクセシビリティの現状を俯瞰した、WebAIMによるセッションについての共有。個人的に気になったのが、WAI-ARIAを使っているページで問題の検知率が上がる傾向があったというお話。あくまで機械的な検証の結果ですから鵜呑みにはできないものの、アクセシビリティを高めるための存在であるはずにも関わらず、間違った使い方をした結果としてアクセシビリティを下げてしまっている可能性から、教育の必要性(と同時にその難しさ)を感じました。

Where Accessibility Lives: Incorporating A11y into your Process and Team

アクセシビリティをどうチームに組み込むかを説いたセッションの紹介でした。できているつもりができていなかった、というのはアクセシビリティに限らず起こりうることですが、その比喩として写真で紹介されたアルファベットのパズルが印象的でした(「B」のところに「D」がはまっていたりしているもの)。アクセシビリティ対応はともすると形式的な、チェックリストを満たすだけの作業になりがちですが、最終的にユーザーが使うことができるかどうか、使いやすいかどうかこそ大事という視点は忘れたくないものです。

Automating New and Improved United States Government Requirements

アメリカにおける公共調達で用いられるVoluntary Product Accessibility Templates(VPAT)についてのお話でした。VPATとは、製品やサービスにおけるアクセシビリティの対応状況を記載するテンプレートのこと。残念ながら、これまでVPATは適当に書かれることが多かったそうなのですが、コストをかけて内容を確認するようになるそうです。JIS X 8341-3対応における試験結果表示などでも言えることですが、現状を嘘偽りなく正確に記載することが何より重要、というのを再確認しました。