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アメリカで増加するWebアクセシビリティ関連訴訟

2019年1月25日

取締役兼CTO
木達 一仁

年明け早々、著名な女性アーティストとして知られるビヨンセさんのWebサイトがアクセシブルではないということで、全盲のファンが運営会社に対し訴訟を起こしたことが話題になりました(1月3日付の記事、Beyonce's Parkwood Entertainment Sued | Hollywood Reporter参照)。本件はその後、日本国内のメディアでも報じられたため、ご存知の方もいらっしゃることと思います(ビヨンセのサイトを視覚障害者が提訴。“クレーマー”と言う日本人の無知コメントも | 女子SPA!参照)。

公的機関のWebサイト、とりわけハザードマップのような人の生死に関わるコンテンツならまだしも、歌手のWebサイトでグッズを購入したりサービスを利用できなかったからといって、何を大げさな……とお考えでしょうか? 少なくとも訴えを起こした方にとっては、それだけWebアクセシビリティの不足が切実に感じられたのでしょうから、エンターテインメント分野のコンテンツだからといって殊更に例外扱いすべきでないと、私は思います。

当社アクセシビリティ・エンジニアの黒澤が、gihyo.jpの新春特別企画に寄稿した「2019年のWebアクセシビリティ」で触れているように、アメリカではWebアクセシビリティに関する訴訟が増加しています。UsableNet社の調べによれば、障害を持つアメリカ人法(ADA)に基づき起こされた訴訟件数は、2017年の814件から2018年には2285件へと、実に181%も増加したそうです(Usablenet - 2018 ADA Web Accessibility Lawsuit Recap Report参照)。

増加の背景として、Webユーザーの一層の増加と多様化があることは間違いないと思います。生活に必要不可欠なものはもとより、エンターテインメント分野のものを含め、ありとあらゆる情報伝達やコミュニケーションがWebで可能となり、また実際に多くのユーザーが利用するまでに、社会の基盤としてWebが普及してきた結果が招いた必然と言えるでしょう。

日本国内で企業Webサイトの運用に携わる皆さまにとって、アメリカにおける訴訟件数の増加が「対岸の火事」かといえば、決してそのようなことはありません。上述のUsableNet社の記事にあるように、2018年に起きた訴訟のうち11%はアメリカ国外に本拠を置く企業を対象としており、具体的な国名としてイタリア、フランス、ブラジルとともに日本も挙げられているのです。

そして実際、当社で同様の訴訟への対応をお手伝いさせていただく事例が昨年発生しました。訴訟の対象となったサイトは、当社が制作したものではありませんでしたが、検証や改善施策の検討を支援しました。そういうわけで、グローバル企業はもちろんのこと、英語版コンテンツを有しアメリカからのアクセスを受け入れているサイトを運用していれば極論どの企業も、昨今の訴訟件数の増加にはご注意いただく必要があると思います。

もっと言えば、お話はアメリカやADA、英語版コンテンツに限ったものではありません。Webアクセシビリティの法制化は多くの国や地域で進められており、その傾向はW3C/WAIの公開しているWeb Accessibility Laws & Policiesのページからも見て取れます。日本国内に関しては、Webアクセシビリティを巡って起こされた訴訟や、2016年4月に施行された障害者差別解消法が定めるところの合理的配慮の要求というのは、私が知る限り「まだ」ありません。しかし、障害者差別解消法はWebサイトも対象範囲に含めています(スライド「障害者差別解消法の概要とWebアクセシビリティ」参照)。

裁判沙汰なり訴訟を回避するために……と言えば消極的に聞こえなくもないのですが、法令遵守はWebアクセシビリティに取り組む立派な動機の一つです。ですが、Web担当者の皆さまには是非そうした「守り」の動機に加えて、より多くのユーザーやより多様な利用状況をカバーすべく、アクセシブルにコンテンツを制作することでコンバージョンの取りこぼしを減らすという、「攻め」の動機も併せ持ってアクセシビリティ対応に取り組んでいただければと思います。

そして当社では、継続的なアクセシビリティ対応を実現するためのさまざまなソリューションをご提供しています。運用を通じ、コンテンツは日々変化していくものですから、新たにサイトを構築したときだけ、既存サイトをリニューアルしたときだけ、ましてや訴訟を起こされたときだけ、アクセシビリティに取り組めば良いというものではありません。Webでコンテンツを公開し続ける限り常に、アクセシビリティ品質を担保するための仕組みが必要となります。そうした課題にお悩みの方がいらっしゃいましたら、是非お気軽にご相談ください。