EUのアクセシビリティ指令について

アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)

先月の話になりますが、国会図書館の外国の立法EUのアクセシビリティ指令というPDF文書が公開されました。

European accessibility act(欧州アクセシビリティ法)とも呼ばれているこのEU指令は、Directive (EU) 2019/882 of the European Parliament and of the Council of 17 April 2019 on the accessibility requirements for products and servicesという名称であり、「製品及びサービスのアクセシビリティ要件に関する2019年4月17日の欧州議会及びEU理事会指令(EU)2019/882」と訳されています。以下では、PDF文書に従ってアクセシビリティ指令と呼ぶことにします。

アクセシビリティ指令の対象となるのは、アクセシビリティ指令の第2条で定義される製品とサービスされ、2025年以降で新たにEU市場で利用可能となる製品となります。

製品としては、主に以下のものが挙げられます(第2条第1項)。

  • 個人向け汎用コンピューターハードウェアとそのOS(PC、スマートフォン、タブレットなど)
  • 視聴覚メディアサービス(テレビ放送、オンデマンド動画配信サービス)にアクセスするために使用される双方向情報処理機能を有する個人向け端末装置
  • 電子書籍リーダー

同様にサービスとしては、主に以下のものとなります(第2条第2項)。

  • 電気通信サービス
  • 視聴覚メディアへのアクセスを提供するサービス(動画配信サービスのWebサイトなど)
  • 航空、バス、鉄道及び水上旅客輸送サービスにおける次の要素
    • Webサイト
    • モバイルアプリを含む、モバイル機器で提供されるサービス
    • 電子チケット及び電子発券サービス
  • 個人向け金融サービス
  • 電子書籍サービス
  • 電子商取引サービス

放送、公共交通機関といった公共性の高いものだけではなく、金融、電子書籍、e-コマースと多岐にわたっているあたりが目に付き、とりわけ交通機関については事細かく規定されているのが興味深いところではあります。

これら製品やサービスはアクセシビリティ要件を満たす必要があるとされています(第4条)。要件に関しては附属書Ⅰ(製品及びサービスのアクセシビリティ要件)に定められており、附属書Ⅱ(附属書Iのアクセシビリティ要件を満たすことに寄与する可能な解決策の非拘束的な具体例)には参考情報として附属書Ⅰの具体的な例が提示されています。

特にアクセシビリティ指令の全サービスに適用されるアクセシビリティ要件については、PDF文書の80ページに附属書Ⅰと附属書Ⅱをあわせて表としてまとめられています。その中で筆者が注目した要件は

(c) ウェブサイト及びモバイル機器を利用したサービスを、知覚可能で、操作可能で、理解可能で、かつ堅牢なものにすることにより、一貫性のある適切な方法でアクセス可能にすること

です。知覚可能で、操作可能で、理解可能で、かつ堅牢なものというのはWCAG 2の4つの原則にほかなりません(参考: WCAG 2.1解説書 アクセシビリティの四つの原則を理解する)。

言い換えますと、アクセシビリティ指令では具体的な技術要件こそ定めていませんが、アクセシビリティ指令の対象となるWebサイトやモバイルアプリは、WCAG 2に基づいてアクセシビリティ対応を行っていく必要があると解釈することができます。

さて、我が国の動きとしては、昨年末に当アクセシビリティBlogの民間に対する法律上の「合理的配慮」の見直しについてで取り上げた障害者差別解消法の改正案、そしてIT基本法を置き換え、理念として情報アクセシビリティをうたっているデジタル社会形成基本法案(参考: デジタル改革関連法案が閣議決定へ、法案WGの村井純座長が語る舞台裏と注目人事 | 日経クロステック(xTECH))が今国会にていずれも衆議院で可決しており、成立が見込まれています。

その一方で、Webアクセシビリティに限って言えば、日本での法律として、具体的に規定するものはないという認識です。我が国でWebアクセシビリティをさらに推進していくにあたって、ここで取り上げたアクセシビリティ指令をはじめとする諸外国の法律などを参考に、仕組みやルール作りが求められるのではないかと個人的に思っているところです。