2006年3月17日 Webアクセシビリティの今と未来

eb開発チーム アクセシビリティ・エンジニア
中村 精親

Webの本来あるべき姿

The power of the Web is in its universality. Access by everyone regardless of disability is an essential aspect.

Webの力はその普遍性にある。障害(の有無)に関わらない、あらゆる人による利用(がなされること)が本質的な姿なのだ。(日本語訳:筆者)

これはWWWの発明者であり、現在のW3CのディレクターでもあるTim Berners-Lee(ティム・バーナーズ=リー)氏の言葉です。この言葉からもわかるように、Webの利点のひとつに、さまざまな人が利用可能であるという事があります。すなわち、WWWというシステムの中心的存在ともいえるWebサイトは本来アクセシブルなものであるはずなのです。しかし、残念ながらそうではないものが多いというのが現状ではないでしょうか。そのような中、ここ数年の間に本来の姿に近づこうという動き、つまりWebサイトをアクセシブルにしようという動きが重要であると考えられるようになってきています。そのためWeb制作関係者はもちろんのこと、企業や自治体などのWebサイト担当者など、Webアクセシビリティについていろいろと気になっている方も少なくないと思われます。そこで本稿ではWebアクセシビリティを取り巻く環境がどのように動いていくかを、今までの状況を基に考えてみたいと思います。

現在までのガイドラインとこれからのガイドライン

まず、一番初めの大きな動きは1999年に遡ります。この年の5月、どのようにしてWebコンテンツをアクセシブルにするかをガイドラインにしたWeb Content Accessibility Guidelines 1.0(WCAG 1.0)がW3Cの勧告となりました。この時を境に、世界はもちろんのこと国内でも企業などでガイドラインを制定する動きが始まりました。しかしながら、WCAGは英語圏を中心として策定された指針であった為、日本語固有の問題などは考慮されていないという問題もありました。その後、日本国内でも情報通信分野におけるアクセシビリティが重視されるようになり、2004年6月に日本工業規格(JIS)のひとつとして「高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス」の個別規格「第3部:ウェブコンテンツ」(JIS X 8341-3:2004)が公示されました。この規格ではWCAG 1.0を参考にして、日本語固有の問題にも言及しています。また、WCAG 1.0では扱っていない情報アクセシビリティの確保・向上に関する要件についても触れているのが特徴です。この他にも世界各国やEUなどで独自の法律やガイドラインが制定されていますが、国際的な指針であるWCAGと国内規格であるウェブコンテンツJISのふたつが重視されている、というのが国内における現状といえるでしょう。

以上が簡単ではありますが現在までの状況の説明でした。ここまでは既にご存知の方も多いかと思われます。さて、ではこれを受けて今後Webアクセシビリティにどのように対応していくべきなのか、という本題に入りたいと思います。もちろん、未来に起こることがわかるわけではありませんが、今現在、将来に向けて行われていることを追っていくことが重要になってくるでしょう。その中でも前述のWCAGの改訂版となるWCAG 2.0がもっとも注目すべきものではないでしょうか。

WCAG 2.0が重要な理由

  • 近い将来に勧告とされる予定
  • 要求事項を満たしているかどうかの基準が明確に
  • 現在のWeb技術を考慮した1.0からの変化

WCAG 1.0が勧告とされたのが1999年。既に6年以上の時が流れています。にもかかわらず、WCAG 2.0は現時点でまだ草案(Working Draft)の段階です。もともとW3C/WAIでは2005年第3四半期での勧告を予定していたものの、非常に多くの(現在までで約1900)問題について解決しなければならない為に予定がずれ込んでいるようです。しかし現在は大半の問題について解決済みとなり、まもなく最終草案(Last Call Working Draft)が出される予定ですので、勧告として公開される日もそれほど遠くないでしょう。

次に要求事項に対する基準が明確に、という点ですが、Web制作者にとっては一番重要なポイントかもしれません。なぜなら現在重要視されている WCAG 1.0とウェブコンテンツJISがともに曖昧な点を多く含むからです。今まで曖昧だった部分が新しいガイドラインで明確になり、目標がはっきりすることにより、新しい基準への準拠を目指す人も増えるのではないかと推測されます。

最後に前述のとおりWCAG 1.0は進化の目覚しいこの業界において、既にかなり古いものとなりつつあります。その中で「ユーザーエージェントが〜できるようになるまで」という表現を多く含んでいることもあり、新しい技術を受けて改定されている部分も少なくないのようです。

以上のような理由から、筆者としては早い段階でWCAG 2.0に注目しておくことが重要ではないかと考えているわけです。

評価方法の標準化

もうひとつ今後注目を浴びると思われるものに、Web Accessibility Benchmarking(WAB) ClusterというWebサイトの評価方法を開発するEUのプロジェクトがあります。中でもUnified Web Evaluation Methodology(UWEM)は現在ヴァージョン0.5ではあるものの、WCAG 1.0の優先度1を対象とした評価方法が細かく記載されており、非常に興味深いものとなっています。というのもこのような評価方法が確立されれば、現在のガイドラインに対する客観的な評価が可能になるはずで、WCAG 2.0同様にWebアクセシビリティ基準がわかりやすくなり、結果として対応しやすくなるのではないかと思うのです。

キーワードはわかりやすさ?

今後のWebアクセシビリティに関してふたつの草案を取り上げてみましたが、双方に共通することとして基準をできるだけ明確にしていくということが挙げられると思います。WCAG 1.0やウェブコンテンツJISではWebアクセシビリティの重要性が示されてきたわけですが、これからはその重要性を踏まえた上でどのように対応していくかに焦点が当てられていくのではないかと感じています。日々さまざまな技術が進歩していくWebの世界ではありますが、Webアクセシビリティへの考え方にも乗り遅れないようにしたいものですね。

  • W3Cの技術文書は、草案(Working Draft)、勧告候補(Candidate Recommendation)、勧告案(Proposed Recommendation)を経て勧告(W3C Recommendation)となります。