2006年7月14日 Webサイト構築に活かすBSC

プランニング&ディレクショングループ ディレクター
田口 公章
(ITコーディネータ資格保有者)

バランス・スコアカード(BSC)はWebサイト構築・運用に有効

Webサイトは、持っているだけでホスティング費用などの維持費がかかります。従って、有効に活用しないことには、保有していることによるコストだけがかかり続ける可能性があります。Webサイト構築と運用にかかるリソースや資金を、費用ではなく有効な投資とするためには、Webサイト構築・運用を経営戦略上に位置づけ、Webサイトを戦略に沿って利活用する必要があります。しかし、現実には「戦略的な利活用」は難しいものだと言わざるを得ないでしょう。このことは、弊社代表も次のように指摘し、バランス・スコアカード(以下BSCと表記)が有効に機能するのではないかという提言を行っています。

Web戦略を成功させる最も重要なファクターは、企業の最上流に位置する、経営方針、企業戦略、マーケティング戦略を如何に正確に捉え、それをWeb戦略に反映させ、かつWebのもっている特徴を如何にoutput出来るかにかかってきます。

しかし、現実には企業のWeb担当者やWeb構築企業がそのコア部分を理解することは難しいと言えるでしょう。同時に、企業の経営層でWebを理解し、経営効果の可能性を理解できる人もそれほど多くはないと言うべきでしょう。

この2つのギャップが企業におけるWebサイトの成功を妨げており、いつまでたってもWebサイトがビジネスインパクトを提供するに至らない要因です。この2つのギャップを埋めるツールとして、「バランススコアカード」は有効である、というのが私の主張です。

〜創業者の独り言 2004年3月26日 より引用〜

では、Webサイトを戦略的に利活用するためのツールとして、BSCをどのように利用すればよいのでしょうか。このコラムで、少し考えてみることにします。

経営戦略をWeb戦略に翻訳する

BSCは、企業のビジョンと戦略を具体的アクションに落とし込み、企業を将来的な成長へ導くための戦略的マネジメント・システムです。経営ビジョンと戦略を、経営トップから従業員の一人ひとりにいたるまでに浸透させることができるのが特長です。

Webサイトを経営に役立つように構築・運用するためには、まず経営戦略をWeb戦略に翻訳することが必要になります。しかし、実際には経営戦略を意識した構築・運用ではなく、新製品のキャンペーンや更新情報の告知、検索エンジンでの上位表示を目指した表面的なSEOなど、部分最適といっていいような構築・運用が行われていることが多いのではないでしょうか。一貫したWeb戦略のないまま闇雲に時間とお金を費やしてはいるが、経営にどの程度寄与しているかは未知数、上司に報告する際にはページビュー数や訪問数の推移くらいしか報告できる数字がない・・・。

こういった状況を改善し、経営戦略とWeb戦略を、今自分が何をやるべきか?といったタスクレベルに落とし込み、数値目標を設定するという作業を、BSCを使えば「特定のスキルを持ったスーパーマン」に頼らずに実現できるのではないか、というのが私の考えです。

BSCの利用シーン

戦略的なWebサイト構築・運用を行うために、BSCを、具体的にどのようなシーンでどのように活用すればよいのでしょうか。私は、次の3つのシーンを想定しています。

1.戦略策定

Web戦略を経営戦略上のどこに位置づけるか、という落とし込みを行う際に利用することが考えられます。Webサイトの目的や構築・運用の体制と各自の役割を明確にし、数値目標を設定します。その内容を、「Webサイト戦略企画書」としてまとめ、保管します。Web戦略と経営戦略との関連を示すためには、戦略マップを用いて表現すると分かりやすいでしょう。

例:Webサイトが効果をあげるための戦略マップ

2.Webマーケティング戦略

経営戦略との関連を明確にしたWeb戦略が完成したら、その下層にWebマーケティング戦略を位置づけることが必要です。マーケティング戦略を策定し実行するためにも、BSCは有効に機能します。ただしこのような使い方をする場合は、少し注意が必要です。あまり経営戦略に寄り過ぎると、具体性に欠けるものになってしまいかねませんので、4つの視点をすべてマーケティング的なものへ置き換えて考える必要があります。マーケティング戦略へのBSC活用について、弊社では「Web版バランススコアカード」という考え方を提唱しておりますのでそちらもご参照ください。

3.運用計画と効果測定

BSC構築においては、必ず数値目標を設定します。戦略策定フェーズで設定した目標を達成するために、構築だけではなく運用の計画も立てて実行し、BSCに沿った進捗のモニタリングとコントロールを行うことが必要です。また、とくにマーケティング戦略においては、必ずアクセスログ解析などを行って、事後の効果測定を行うことが重要です。達成の状況を注意深く見守りながら、軌道修正を繰り返して目標に向かいます。

このようなシーンでBSCを利用すれば、身の丈にあった効果の高い投資を行うことができるようになるでしょう。

BSC構築のステップ

マーケティング戦略では「4つの視点をすべてマーケティング的なものへ置き換えて考える」と記しましたが、BSCの視点といえば「財務」「顧客」「内部業務プロセス」「学習と成長」の4つではないのかと思われる方もいらっしゃるでしょう。実はこれら4つは教科書的なテンプレートに過ぎず、実際のBSC構築のステップには「視点の洗い出し」が含まれます。吉川武男氏によると、BSC構築のためには、次の7ステップが必要になります。

バランス・スコアカード構築の7ステップ

  • 第1ステップ:ビジョンと戦略の策定
  • 第2ステップ:ビジョンと戦略を実現する視点の洗い出し
  • 第3ステップ:戦略マップの作成と戦略目標の設定
  • 第4ステップ:重要成功要因の洗い出し
  • 第5ステップ:業績評価指標の設定
  • 第6ステップ:ターゲット(数値目標)の設定
  • 第7ステップ:戦略プログラムないしアクションプランの作成
吉川武男 「バランス・スコアカード構築 基礎から運用までのパーフェクトガイド」 (生産性出版、2003年)より引用

このステップを順番にたどることによって、経営ビジョンを具体的なアクションプランへ落とし込むことが可能になります。ステップを省略したり、順番を変えてはいけません。Web戦略策定にBSCを活かすために重要なのは、「第2ステップ:ビジョンと戦略を実現できる視点の洗い出し」だと考えます。自社の現状にあった視点を洗い出すことによって、より自社にフィットしたBSCを構築することができるでしょう。視点の洗い出しに正解はありません。自分たちに合ったWeb戦略とBSCは、自分たちで考えて決めるしかないのです。

今後の課題

最後に、今後に向けた課題をまとめます。

BSCとは、本来は経営管理ツールであり、またお客様が自ら作成する性質のものです。BSCがカバーする内容はお客様の社内体制にまで及ぶため、どのような規模のプロジェクトにもフィットするということはないように感じます。お客様と私たちが一体となって取り組む信頼関係を築くことが、Webサイト構築・運用にBSCを活用するための前提として必要になってきますが、そうしたプロジェクトは、比較的規模が大きく期間の長いプロジェクト、ということになるでしょう。

「Webサイト構築」をコアコンピタンスとする弊社としては、お客様への提案時、あるいはプロジェクト定義の段階でBSCを用いる、という形が考えられますが、今後はそこからさらに進んで、弊社からの提案をきっかけに、お客様と一緒に経営ビジョン達成のための戦略策定を行う、というパターンも作れるようにしたいと考えています。

またBSC構築に際しては、機械的にテンプレートを用いるだけでは十分な成果は得られないでしょう。Webサイト構築・運用においては、私の経験上、テンプレートどおりの4つの視点をそのまま用いると、どうしても「顧客の視点」に入る項目が多くなる傾向があるように感じます。これはWebサイトが顧客との接点、フロントエンドの部分を担っていますから当然といえば当然なのですが、であるからこそ、経営ビジョンとリンクさせるための視点を、いちから考える必要があるのではないかと感じます。

私自身が先に指摘した「3つのミッシングリンク」、このうち「プロジェクトの目的が共有できていない」という部分は、広い意味では経営ビジョンとWeb戦略の乖離も意味しています。こうした状況を打破するためにも、BSCは有効に機能するのではないでしょうか。

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