アクセシビリティ関連の新しい法律について、知っておきたいこと
アクセシビリティページの整備は、欧州アクセシビリティ法の準拠に向けて、すぐに取り組める施策の一つです。
(この記事は、 Bowen Craggs社のWebサイト「Our Thinking」において2025年3月24日に公開された記事「What to know about new accessibility laws」の日本語訳です)

アクセシビリティページに関して、特にAir FranceとKLMのページは、その取り組みをわかりやすく示しています。
先日Bowen Craggsは、アクセシビリティソリューションを提供するLevel Access社のアクセシビリティ啓発ディレクター・Corbb O'Connor氏を招いて、顧客向けWebセミナーを実施。ヨーロッパだけではなく、世界中で施行されつつある新しいアクセシビリティに関する法律について、参加者からの質問に答えました。
結局どういうことか? アクセシビリティへの対応はもはや、「いつかやろう」という扱いでは済まなくなったということです。そして、多くの大企業にとって、アクセシビリティに真剣に取り組むことが、今や法的な義務となった、ということです。
ここに、Webセミナーで語られた、6つの重要なポイントを列挙します。
1. おそらく貴社は今、アクセシブルなオンライン体験を提供することが、法的に求められています
「アクセシビリティは、当たり前のものになりつつあります」
2019年に施行された欧州アクセシビリティ法 (EAA)は、EU域内でビジネスを展開する全ての企業に適用されます。また、イギリス・オーストラリア・カナダ・日本・韓国・インド・イスラエル・ノルウェーなど、世界各国で同様の法律や規制が施行されています。そして、アメリカでは障害を持つアメリカ人法 (ADA)が改定され、要件が多くの企業、特に政府と契約を結んでいる企業や、公共資金を受け取っている企業に適用されるようになりました。
これらの法律や規制を順守する最も確実な方法は、Web技術の標準化を推進しているW3CのWeb Content Accessibility Guidelines (WCAG)に沿って、自社のサイトやコンテンツを整備することです。
2. 法令違反には、厳しい罰則が科せられる可能性があります
「違反に対する罰則の内容が、徐々に明らかになってきました」
2025年6月28日に施行された欧州アクセシビリティ法では、各EU加盟国が法令違反の監視・調査、および罰則の決定・適用を実施します。例えば、アイルランドでは懲役刑の可能性が示唆されていますし、スペインでは最も悪質な違反に対して、最大60万ユーロもの罰金が科される可能性があります。1件の苦情がきっかけで、調査が開始されることもあり得ます。もし、貴社のデジタルチャネルが法令違反と判断されたとしても、罰則が科される前に是正のための猶予期間が与えられるかもしれません。しかし、こうした事態を根本から防ぐためには、アクセシビリティへの積極的な取り組みが推奨されます。
アメリカでは、障害を持つアメリカ人法の違反を理由とする訴訟や、それに伴い罰金を科されるケースが一般的になっていて、もはやメディアで報じられることも少なくなっています。
3. アメリカ政府も、アクセシビリティに関する新たな規制を続ける動きを見せています
「アメリカのアクセシビリティに関する法律は、変更されていません」
トランプ政権はDEI(ダイバーシティ《多様性》・エクイティ《公平性》・インクルージョン《包括性》)、または、アクセシビリティを加えたDEIAに対して、批判的な姿勢を取っています。しかし、現状を見る限り、アクセシビリティに関する法律を廃止する可能性は低い、と見られています。たとえ、連邦政府レベルでの積極的な規制強化が鈍化したとしても(その可能性も指摘されていますが)、多くの州政府が独自のアクセシビリティ要件を導入し続けています。もし、貴社がアメリカにあって、デジタルチャネルがアメリカ国内の、あるいはその他アクセシビリティに関連する法律の適用対象となるかどうかわからない場合は、この機会に専門家のアドバイスを受けることを強くお勧めします。
4. アクセシビリティに対する見解を公表し、意見・要望を受け付ける機能を設けましょう
「まずは何よりも、アクセシビリティに対する考えを、掲載するページを設けるべきです」
欧州アクセシビリティ法では、充実した「アクセシビリティ」ページが求められます。これには可能な限り、以下の項目を含めてください:
- Webサイトのアクセシビリティのために実施した対策と、提供している機能の説明
- アクセシビリティをさらに改善するために、どのように取り組んでいるかの、透明性の高い情報開示(これは定期的な更新が必要です)
- Webサイトのアクセシビリティの状況を、どのように測定しているかの説明
- WCAG 2.1 レベルAAなど、どの基準に準拠するかについての記載
- 担当部門のメールアドレス、電話番号、チャットボット、あるいはその全てなど、閲覧者が貴社にフィードバックするための手段(念のため、チャットボットがアクセス可能か確認してください)
- アクセシビリティの向上や管理を、どのようなパートナー企業と協力して進めているかの記載(信頼性を高められます)
5. AIを含む自動チェックツールは便利ですが、依然として手動でのテストは不可欠です
「実際に障害者によるユーザーテストが非常に重要です」
全てのアクセシビリティの問題は、「1行のコード」で解決できると主張する人がいても、それを信用してはいけません。確かにAIを含む自動チェックツールは進化し、不足しているラベルや不正確な情報など、アクセシビリティ上の問題点を素早く特定し、修正を試みるツールも登場しています。しかし、どれだけ優れたツールでも、特定できる問題は最大で全体の約50%といわれています。また、AIが自動生成したラベルや文字起こしも、正確かどうか、必ず人の目で確認する必要があります。つまり、最終的には人の手によるチェック、特に障害者自身によるチェックが極めて重要だということです。なぜなら、貴社のデジタルチャネルが本当にアクセシブルかどうかを判断するのは、実際にサービスを利用する彼らだからです。
6. 訪問者にとって最も影響が大きい問題の解決に集中しましょう
「障害のある方が、それ以上先に進めなくなってしまうような、Webサイトの致命的な問題から先に対応するべきです」
企業のWebサイトを、アクセシビリティの観点からレビューすると、何百、時には何千ものエラーが見つかることがあります。これらを全て修正するには、膨大な時間と労力が必要です。ですから、まず優先すべきは、Webサイトへのアクセスを妨げる問題や、支援技術やキーボードを利用してWebサイトにアクセスしている障害者をひどくいらだたせる問題を、最優先で解決してください。Level AccessのCorbb氏は次のように話しています。「代替テキストのない画像が、Webサイトに3,500枚あると悩む前に、まずは致命的な問題を先に解決するべきです」。「もちろん、画像の代替テキストに対応することも重要です。しかし、極論するなら、例えばビーチでくつろぐカップルのイメージ画像に代替テキストがないことよりも、ホテルの予約で日付を選択できないことのほうが、はるかに致命的です」