2007年3月30日 CSUN 2007参加報告

Web開発チーム アクセシビリティ・エンジニア
中村 精親

既にアクセシビリティBlogのエントリー「CSUN 2007」でも簡単にご紹介させていただきましたが、3月19日〜24日までの期間、米国カリフォルニア州ロサンゼルスで開催された「CONFERENCE 2007 Technology & Persons with Disabilities Conference」(CSUN 2007)に参加し、発表を行ってまいりました。イベント全体からすればごく一部の内容ですが、この場を借りてご報告させていただきたいと思います。

障害者に関する知識、技術の発表の場

この会議については、あまりなじみがない方も多いかと思われますので、最初にイベントの概要を少し説明したいと思います。まず、CSUNという名称については、主催であるCalifornia State University, Northridge(カリフォルニア州立大学ノースリッジ校)の頭文字をとったものでして、通称ではあるのですが、国内外ともにこの名称で呼ばれることが多いようです。実際に現地でもそのように呼ばれていました。

次に、イベントの内容ですが、「Technology & Persons with Disabilities Conference」という名前からもわかるように、障害者に関連した技術についての展示および発表が中心となっています。いわゆるアクセシビリティ関連では世界でも最大級の展示会、会議であり、開催地である米国の企業はもちろんのこと、日本をはじめ各国から関連技術を扱うメーカーや、発表者が集結していました。

展示については、例えば視覚障害者が利用する技術では、スクリーン・リーダー点字ディスプレイのようなWebアクセシビリティに関連した最新技術を扱う会社はもちろん、日常の移動に欠かせない白杖を販売する会社や、また別の障害に対応する商品も幅広く展示されるなど、さまざまな機器のメーカーが参加しておりました。

一方、私たちも参加させていただいた発表の方は、多種多様な障害に関する技術はもちろんのこと、その技術と教育や雇用などとの関係、インターネットとの関係、さらに今年度からは高齢化に関するセッションも加わり、4日間で275を超えるセッションが開催されました。

Windows Vistaへの対応

前述のとおり、4日間の発表セッション期間中にはさまざまな発表が行われるため、同時に10前後のセッションが開催されることになります。そのため、すべてのセッションに参加するのが不可能であるばかりか、例えばインターネット関連、といった特定の分野のセッションにすべて参加することすらできないため、全体を通した感想は述べられないわけですが、その中でひとつ注目すべき、と感じたことは、スクリーン・リーダーのメーカーを中心として、関連各社がWindows Vistaへの対応についての展示、発表を数多く行っていたことです。

既にアクセシビリティBlogでも、「われわれのVistaへの移行準備は大丈夫?」という翻訳記事の中で、海外の支援技術におけるVista対応の状況をお伝えしておりますが、満席で入場できないセッションも出るほどのVista対応に関するセッションの人気、そして各支援技術メーカーの対応の速さに、視覚障害者を中心とした障害者コミュニティにおける最新技術への関心の高さを強く感じました。

Mozilla Firefoxのサポートと関連アプリケーション

さて、上記のVista対応の盛り上がりは、各関連セッションのタイトルにVistaの文字が明確に記されていたこともあり、ある程度渡米前から予想できたことでしたが(とはいっても、予想していた以上の盛り上がりではありました)、筆者の考えていた以上にさまざまな展示ブース、発表の中で取り上げられていたのが、Mozilla Firefoxへの対応とその関連アプリケーションでした。

かつては支援技術で利用できるWebブラウザといえばMicrosoft Internet Explorerだけ、というのが通例であり、それ以外のブラウザを利用することは(Lynxなどの非視覚系ブラウザは別として)ほぼ不可能でした。ところが、最近になって有力なスクリーン・リーダーや画面拡大ソフトがFirefoxへの対応を行うようになり、支援技術ユーザーにも少しずつではありますが選択肢が存在するようになってきている、というのは大きな変化のひとつといえるでしょう。

RIAへの支援技術の対応

RIA(リッチ・インターネット・アプリケーション)への対応は、現在の支援技術における最大の課題のひとつです。Ajaxをはじめとする技術を利用した動的な内容を含むWebページ、Webアプリケーションは非常に便利なものではありますが、支援技術では内容の変化を理解することが困難であったりします。そのような状況に対応するため、昨年12月にW3C/WAIは「Roadmap for Accessible Rich Internet Applications (WAI-ARIA Roadmap)」の草案を公開しました。今回のカンファレンスには、Fire VoxNVDAなど、この草案に早くも対応した支援技術が持ち込まれていて、今後重要度が増していくであろうと感じました。今後も注目していくべき最新技術のひとつであることは間違いありません。

オープンソース化の動き

上記のFirefoxへの対応や、RIAへの対応と関連して、オープンソースの音声ブラウザやスクリーン・リーダーがいくつか開発されている、ということも注目に値する動きのひとつです。前述のFire VoxやNVDAのほかにも、Linuxで動作するスクリーン・リーダー、Orcaは重要な支援技術のひとつ、といえると思います。

今まで支援技術は環境の構築にコストがかかるもの、と考えられてきました。実際、有力な支援技術は高機能ではありますが、その分値段も高い、というのが現状といえます。そのような中、LinuxとOrcaの組み合わせであれば、ソフトウェア的には無料でさまざまな機能を利用できることになるわけです。このことは、私たちのようなWeb制作、開発者にとっても、大きな意味をもたらすかもしれません。今まではコスト的に一部の人々にしか行えなかった検証が、制作者レベルでも容易に行えるようになっていくからです。これにより、Web全体がよりアクセシブルになっていく—今回のカンファレンスではそんな予感がするほど、オープンソース化の流れも感じることができました。

以上、簡単ではありますが、今回のカンファレンスで注目してきた点をいくつかまとめました。

さて、最後になりましたが、私たちの発表についても少しだけ触れておきたいと思います。冒頭で触れたアクセシビリティBlogのエントリーでも書きましたが、コンテンツにフォーカスし、Web標準技術を適切に利用することで、持続可能なアクセシビリティを将来にわたって実現していく、というのが発表のテーマでした。実はそのためには、ブラウザ、支援技術などのユーザーエージェントが、標準に準拠して開発され、必要な機能を実装していくことが不可欠なわけです。そういった意味でもWAI-ARIAへの対応や、Firefoxのサポートなど、ユーザーエージェントに必要な機能が実装されてきていることを実感でき、私たちの進んでいこうとしている方向性が間違っていない、と感じることができたのも大きな収穫のひとつだったと思います。

そのほか、世界各国のアクセシビリティ関連の著名な方々と交流できたことも、世界レベルのイベントならではであり、機会があれば、また是非とも参加したいと思いました。

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