脱グローバル化&AI:嵐の前の静けさ
(この記事は、2025年4月29日に公開された記事「Deglobalization & AI: The calm before the storm」の日本語訳です。)
2025年版Webグローバリゼーション・レポートカードの発行に向け、Webサイトをレビューしていたとき、私は2つのことに気づきました。
- 脱グローバル化は、グローバルサイトに目に見える(そしてマイナスの)影響を与えている
- よく見ないとわからないものの、AIもまた影響を及ぼしている
双方を踏まえるなら、私たちは嵐の前の静けさに直面しているのだと思います。
成長を抑制する脱グローバル化
アメリカの引き起こした貿易戦争の最中に、企業がグローバルな成長に投資しにくくなるのは当然です。近い将来、混乱と混迷が予想されますし、ローカライズしたWebサイトの新規立ち上げへの「全力投球」を後押しする状況とは言い難いでしょう。加えて中国とドイツの経済的苦境は、多くの企業に対し、国際投資への厳しい警鐘を鳴らしています。
グローバルな多角化は、長期的な成長にとって健全な戦略であることに変わりありませんが、いっぽう経済大国の成長が鈍化したり、後退したりする際のリスクが生じます。とはいえ賢明な企業は、中国やドイツばかりでなくポーランド、ベトナム、インドネシア、インドなど、小規模ながら急成長している市場にも目を向けています。
とはいえ、景気の先行き不透明感が、来年に深刻な逆風をもたらすことは間違いありません。昨年は、主要グローバルブランドのサポート言語の平均数がわずかに増加しました。しかし、ほんのわずかです。
レポートカードで調査した150のグローバルサイトがサポートする言語の平均数は、34でした。以下のグラフに見て取れるように、サポート言語数はほぼ停滞しています。世界的には数百もの言語に対する需要が依然として存在するにもかかわらず、です。

私は、この状況を嵐の前の静けさと見ています。
嵐とは、AIのことです。
グローバルな成長に新たな波を引き起こすAI
言語産業は、AIのパイオニアとして称賛に値します。コンピュータが機械と呼ばれていた頃、人工知能の最も初期の取り組みが始まり、AIの最も初期の形態は機械翻訳(MT:Machine Translation)として知られていました。
MTの品質は、技術がルールベースから統計ベース、さらに現在のAI中心のモデルへと進化するにつれ、過去20年間で大幅に向上しました。Google 翻訳は目下、130以上の言語をサポートしています。

この進化は、企業やエンドユーザーにとって何を意味するでしょうか。
それは、自動翻訳がこれまでより自然に映ったり、感じられるようになったことを意味します。それはまた、企業が多言語で顧客をサポートするためにAIを搭載したチャットボットやエージェントを導入できる(実際、導入している)ことや、顧客が概ね肯定的な体験をしていることを意味します。

機械翻訳された文章はかつて、構成が往々にして稚拙であったため、見分けることができました。今日では、AIは文法的に正しい文章を作成することに長けており、人々は自分の文章をブラッシュアップする目的でAIを使うようになりました。プロの翻訳者は、そうしたAI言語ツールとうまく付き合う必要がありますが、年を追うごとに目にする品質と効率の大幅な向上を無視することは難しくなっています。
AIは「サポート言語数のピーク」を打破することを約束
ChatGPTは80以上の言語をサポートしており、レポートカードで調査した多くの企業にとって、高い目標と言えるでしょう。企業は、カスタマーサポートの主にコストや課題(国際的なカスタマーサポートセンターの開設など)が理由で、ローカライゼーションへの投資に抵抗があります。

しかし、企業が比較的少ない先行投資で50以上の言語にAIアシスタントを展開できれば、すべてのWebコンテンツで50以上の言語をサポートすることの説得力が格段に増します。
大規模なグローバル化を解き放つAI
言語に対するニーズは、世界中で依然として高いものがあります。以下の図は、Wikipediaがサポートする言語数(これは言語に対する需要のあらわれといえます)と、2025年版Webグローバリゼーション・レポートカードが調査した企業のサポートする言語数の平均を示しています。

両者のあいだにあるのが目下、言語におけるギャップを埋めつつある唯一の存在、つまり機械翻訳ないし自動翻訳、AI翻訳です。
呼び名が何であれ、AIは言語面での次なる成長を約束します。つまり今こそ、世界に通用するWebサイト・アーキテクチャと、言語に縛られないコンテンツ戦略を開発すべきなのです。今は不確実な時代かもしれませんが、世界のさまざまな言語に対応したWebサイトやアプリが必要であることは、確かでしょう。