中国の「Locknet」という怪物を理解する
(この記事は、2025年7月5日に公開された記事「Understanding China's "Locknet" Monster」の日本語訳です。)

インターネットはグローバルな存在として構築されました。
しかしそれは、多くの国がインターネットをフィルタリングしたり、完全にブロックしたりすることを妨げるものではありません。
中国はその最たる例で、長いあいだグレート・ファイアウォールの名で知られる仕組みを作り上げてきました。このファイアウォールによって、Facebookや皮肉にも中国資本のTikTokなど、多くのWebサイトが国内からアクセスできないようになっています。しかし、それだけではありません。
ChinaFileのシニア編集者であるJessica Batkeと、Northeastern大学でコンピューターサイエンスの助教授であるLaura Edelsonは、中国のインターネットに対するアプローチにある多くのレイヤーとその影響、それが中国から遠く離れた場所に住む私たちにどのように影響するかを説いた、優れた記事を公開しました。
二人が「グレート・ファイアウォール」という言葉を避けているのは、単に国境をまたぐ通信だけではなく、国内の通信についても中国が監視・管理しているからです。
検閲システムの複雑さは、それが単なる壁という発想に反します。「グレート・ファイアウォール」という言葉は、国境を越えて侵入しようとする情報を寄せ付けない強固で静的なバリア、不透過への試みをイメージさせます。しかし、この比喩は、システム全体の規模やダイナミズムをうまく捉えていません。それは、デジタル国境の見張り番をしているばかりでなく、国内における情報の流れも監視・検閲しています。加えて検閲システムは、決して不透過であるように設計されていません。その代わりに、中国国民がオンラインで入手できる「危険な」情報を最小限に抑えるべく、可能な限り効率的な手段を用いています。不透過性は高価であり、実用的な観点からは、単に不要なコンテンツをフィルタリングするのと比べ、それほど優れているわけではありません。
実際のところ、中国におけるオンライン検閲は、巨大な水管理システムのようなものです。運河や水門の集合体であり、いつ、どの水路を、何が流れるか制御しています。洪水時には圧倒されることもありますが、水量は自然な増減に調整されます。水門が閉まっていたとしても、完全に水を通さないわけではありません。さざ波とは常に、境を乗り越えるものです。それは双方向に起こり得るもので、外から内へと水が押し寄せることもあれば、内にとどまるはずの水が外に漏れ出すこともあります。
人工湖につながった運河や水門が、水の流入や流出に伴い湖の水位を調整できるように、中国のオンライン検閲システムは、国内のデジタル放水路を流通する情報の多くを、政府の気まぐれに適合させることができます。その結果、グローバルなインターネットとリンクしながらも、独自のルールに従って内部の情報の流通を管理する、国単位のイントラネットが生まれました。それを私たちは「Locknet」と呼んでいます。
Locknetは、中国の国境をはるかに越え、広い範囲に及んでいます:
副作用の最もわかりやすい例として、中国を拠点とした、ないし中国で設計されたプラットフォームにおいて、海外のユーザーがサービスレベルのコンテンツ検閲を受けることがあります。例えばオンラインビデオゲーム『Marvel Rivals』では、プレイヤーが世界のどこからログインしても、ゲーム内のチャットで「チベットを解放せよ」「新疆ウイグル自治区を解放せよ」「ウイグル族の収容所」「台湾は国家です」といったフレーズを入力することはできません。
この問題を回避するため、ByteDanceがDouyin(中国版)とTikTok(海外版)で行っているように、中国国内と海外のユーザー向けに異なるバージョンのアプリを提供している企業もあります。理論的には、これは中国共産党の課した検閲が中国版プラットフォームにとどまることを意味しますが、現実は必ずしもそう整然とはしていません。2019年、アメリカのとあるティーンエイジャーが、中国向けアプリ・Douyinの「海外版」であるTikTokに動画を投稿しました。ありふれた化粧のチュートリアルのように見えるその動画で、10代の少女はすぐにトーンを変え、中国政府によるウイグル族のイスラム教徒の扱いを非難しました。TikTokはこの動画を削除し、その後、彼女が新しいコンテンツを投稿することを禁止しました。TikTokは後に、ビデオは誤って削除されたと主張しましたが、多くの人々は、これを中国の民族弾圧に関する国際的な議論を封じ込めようとする試みと結論づけました。
海外のユーザーであっても、検閲されたインターネット検索結果を受け取る可能性があります。MicrosoftのBingは、特定の検索結果を繰り返し非表示にしており、ユーザーが検索バーに入力し始めた際に表示される検索候補も検閲されています。この挙動が意図的なものなのか、それとも単に中国仕様のソフトウェアが境界を越えた際の偶発的な結果かは不明ですが、適切に機能する検索クエリでさえ、世界中のどこであっても検閲された結果を受け取る可能性があります。ある学術調査によると、中国国外のユーザーがGoogleで中国語を使って画像を検索すると、検閲された結果が表示されることが判明しました。「Googleは、ユーザーが中国語でクエリを実行した際、その通信を主に中国本土のIPアドレスに向けます。」そのため、Googleがそのユーザーに提供する画像検索の結果は「ほとんどがすでに検閲されており、従いGoogleは間接的に、中国語ユーザーを中国本土での検閲対象としています。」
検閲への恐怖は自己検閲を引き起こしますから、オープンなコミュニケーションを重んじる人々にとって、Locknetは憂慮すべきものです。そしてこれは、独裁的な指導者の誰もが疑いなく配慮してきた点です。
ご紹介してきた記事は、次のように締めくくられています:
中国では、インターネットはみんなのためものではありません。それは、中国共産党のためのものです。
ご紹介した記事は、The Locknet: How China Controls Its Internet and Why It Matters :: ChinaFileでお読みいただけます。