2008年6月6日 「地頭力」と「発想力」で創るユーザー・エクスペリエンス

マーケティングユニット ユーザビリティ・コンサルタント
小坂 典子

「地頭力」とは何か

「地頭力(じあたまりょく)」—— 最近メディアでもてはやされている言葉ですので、関連する記事や書籍をご覧になった方々も多いのではないでしょうか。「地頭がよい」というのは普段の会話でもときおり使う表現ですが、昨年末に発売された『地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」』(細谷 功(ほそや・いさお)著、東洋経済新報社)という本を友人から紹介されて、私も具体的にどのようなことなのかを改めて考えることになりました。

この本では、「地頭力」とは下記の3つの思考力としています(本文より引用)。

  1. 「結論から考える」:仮説思考力
  2. 「全体から考える」:フレームワーク思考力
  3. 「単純に考える」:抽象化思考力

もっと簡単にいえば、「ものごとを反対側から大まかに絞り込んでいく考え方」といえるのかもしれません。これは製品のユーザビリティやユーザー・エクスペリエンスを形づくるうえでも非常に便利な考え方です。

ユーザー中心設計との共通点

「結論から」「反対側から」という考え方は、ものごとを自分からではなく相手から考えるという意味で、ユーザー中心設計の根幹をなすものです。製品の使い手がその製品をあるシーンでどのように使うのか、またその製品を使うことによってどのような体験をするのかといったイメージをすること(=仮説設定)なしに、ユーザーにとって役に立ち、喜ばれる製品をつくることはむずかしいでしょう。また、ユーザーが誰であり、どのようなユーザーに対して製品を提供していくのかということを明確にしていくためには、マーケット全体を見渡して、とらえどころのない多くのユーザーを「もれなくダブりなく」分類し(=フレームワーク設定=セグメント化)、ターゲットユーザーとして定義していく(=抽象化=モデル化)ことが必要になります。

製品開発では積み上げも重要

結論から帰納的・論理的にものごとを整理していく「地頭力」は、ユーザー・エクスペリエンスを形成するプロセスの中で、主に「上流工程」といわれる要求仕様定義までの「リクワイアメント・エンジニアリング」にその力を発揮します。しかしながら、モノ創りの現場では、その結論に到達するための現実的な手段を一つ一つ見つけていかなければなりません。

参考:
ISO13407(インタラクティブシステムの人間中心設計過程)に必要な3つの活動
  1. RE(Requirement Engineering)…… ユーザー分析、要求仕様の作成
  2. UE(Usability Engineering)…… 要求仕様の設計への展開
  3. UA(Usability Assessment)…… ユーザビリティの評価、改善提案

『地頭力を鍛える』の中では、自分を起点に演繹的なアプローチを取る人のことを「積み上げクン」と呼んで、批判的に描いています。彼はものごとを目的から考えず、手段ばかりにとらわれるために、いつも「地頭課長」に叱られてしまいます。確かに積み上げクンのやり方では、限られた時間の中で的確に方向づけを行い、その枠の中で答えを見つけていくことは不可能になってしまいます。

しかしながら、製品開発・設計プロセスは最大公約数(=セグメント化されたターゲットユーザー)に対してよりよい解を提供するための手段を見つける「ヒラメキ」の積み重ねにほかなりません。モノ創りの現場では、「仮説」という入れ物をユーザーの満足で満たしていくための、「地道な発想力」が非常に重要です。

次善策の積み重ねを最善策へ

ユーザビリティやユーザー・エクスペリエンスには、「こうすれば間違いはない」という最善策はないものの、「こうしたほうがより使いやすく、わかりやすい」という次善策を積み重ねていくことによって、最善に限りなく近づいていくことは可能です。当社のユーザビリティ関連サービスでは、「地頭力」の領域である論理的思考でユーザーを的確に分析し、ニーズの仮説を立てていくとともに、製品評価プロセスで発見された問題点を「発想力」の積み重ねで着実に解決し、お客さまのビジネスゴールを共に目指していきたいと考えております。